ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

リード・タイム・バイアスを使えば効果の捏造も思いのまま

現代人、特に日本人は、健康に関する意識が高いので、定期健診や人間ドックなどで、自分自身の健康状態を年に一度は把握しているという人が多いですね。

常日頃から、自分の健康状態をこまめにチェックし、大ごとになる前に適切な治療をしたり、生活習慣を改めたりすることで健康を維持することが、定期健診や人間ドックを受ける理由です。そして、重大な病気が早期発見された場合には、治療を受けることで寿命が延びるので、健康に生活できる期間も延び、生活の質が上がるというわけです。

ところで、リード・タイム・バイアスという言葉をご存知でしょうか?

僕は、定期健診や人間ドックを定期的に受けている人なら、この言葉を知ることは重要なことだと思うんですよね。

癌の早期発見で果たして寿命は延びるのか?

リード・タイム・バイアスとは、簡単にいうと検診で発見した癌と外来で発見した癌との間の生存率の偏りのことです。

どういうことかというと、癌検診を受けて発見された癌は自覚症状がない時点で見つかるので早期発見されますが、体調が悪くなって病院に訪れ検査を受けた時に発見される癌は発症してからかなりの期間が経っているので、両者を比較すると早期発見した癌の方が、見かけ上の生存率や生存期間が長くなるということです。

例えば、癌を発症し死亡するまでの期間が20年だったとしましょう。癌発症から10年後に検診を受けて癌が発見された場合、そこからの生存期間は10年となります。ところが、癌を発症して15年後に気分が悪くなって病院に行って検査を受けて癌が発見された場合、そこからの生存期間は5年となります。

癌検診を受けて発見された癌も、自覚症状が出て外来で発見された癌も、癌発症から20年で死亡するのなら、どちらの場合も、患者にとっては同じということになりますよね。でも、検診で早期発見したことで、癌発症から30年後に死亡したのなら、寿命が10年延びることになるので、こういう場合は、検診に効果があると言えます。


では、実際に癌検診を受け、早期発見することで寿命が延びるのでしょうか?

医師の近藤誠さんの著書「『余命3ヵ月』のウソ」によると、どうも癌検診で早期発見しても、寿命は延びないようです。

抗癌剤を使って寿命が6ヶ月から24ヶ月に急激に延びた!?

この本では、大腸癌の抗癌剤の効果について、ある団体が開催した講座の内容が紹介されています。

今から30年ほど前、大腸がんの抗がん剤は1種類しかなかった。しかし15年ほど前からよい新薬が続々と登場しました。そして、1980年にはせいぜい6ヵ月程度だった生存期間は、90年代後半から急激に延びて、24ヵ月にまでなったのです。(59ページ)

「医療の進歩はすばらしい。4倍も寿命が延びるとは快挙だ」

そう思ってしまいますが、実は、この数字には、リード・タイム・バイアスがかかっているのです。


近藤さんによると、大腸癌の場合、肝転移があるかどうかでほぼ寿命が決まるそうです。

30年ほど前までは、触診でしか肝転移を発見する方法はなく、直径が8センチ以上になってから発見されることがザラで、その場合の生存期間の中央値は6ヵ月でした。ところが、現在の検査技術だと、1センチ程度の癌でも発見可能となっています。1センチの癌が8センチの癌に育つ期間は平均18ヶ月。8センチに育った時点での生存期間が6ヶ月なら、両者を足すと24ヶ月となります。

つまり、検診によって18ヶ月早く癌を発見したというだけで、18ヶ月寿命が延びたという意味ではないのです。そして、このデータを深く読み込めば、18ヶ月早く大腸癌を発見し、早期に治療を開始したとしても、寿命が延びないことを表していると言えます。

がんの専門家たちは、リード・タイム・バイアスのことは当然知り抜いています。
なのに「検査技術が進んで、がんを早く見つけられるようになった」ことはひた隠し、「抗がん剤のすばらしい新薬のおかげで、がんが見つかってからの生存期間が、30年間でこんなに延びた!」と吹聴する。(62ページ)

なぜ、リード・タイム・バイアスを隠して新薬の効果を強調するのか、よく考えた方がよさそうですね。

手術が大成功したのにその後短い期間で死亡するのはなぜ?

中村勘三郎さんの食道癌が見つかったのが、2012年6月1日で、亡くなったのが同年12月5日です。

7月27日に食道の全摘出をし、手術は大成功しました。なのに手術から4ヶ月後に亡くなるなんて、ちょっとおかしいですよね。勘三郎さんは、急性呼吸窮迫症候群を発症して呼吸困難となり、2度の転院にも関わらず亡くなりました。

確かに食道癌の手術は成功したのでしょう。でも、食道を全摘出したことで、日常生活に支障をきたし、それが原因で亡くなったのではないでしょうか?そう考えると、手術で臓器を取り除くことが果たして最善の手段と言えるのか疑問に感じます。


食道癌と言えば、今年1月に亡くなった歌手のやしきたかじんさんもそうでした。

たかじんさんの食道癌が発見されてから亡くなるまでの期間は約2年です。テレビ番組での本人の話によると、食道を部分的に切り取って、無くなった部分に胃をつないで補完したそうです。

僕は、番組の中で、たかじんさんが「食道につないだ部分の胃が、まだ自分のことを胃と思い込んでいる」と言っていたことが記憶に残っています。生物の体は、失われた部分を他で補おうとするのでしょうが、それには限界があり、拒絶する場合もあるのではないでしょうか?むしろ、拒絶する方が正常な反応なのかもしれません。

癌を早期発見しても寿命は延ばせない

近年、女性の乳癌での死亡者数が増えています。

乳癌の死亡者数の推移をグラフにして掲載しようと思ったのですが、そのデータを公表しているところからクレームが来そうなので、やめることにしました。

ざっくりデータを紹介すると、乳房に発症した癌が原因で死亡した女性の数は、この50年間で約7倍となっています。毎年の死亡者数も、ほぼ右肩上がりで増えています。そして、乳癌を発見するためのマンモグラフィ検診の受診者数も、近年右肩上がりに増えています。

乳癌を早期発見し、治療すれば完治するのであれば、普通に考えて、マンモグラフィ検診の受診者数の増加に伴って、乳癌での死亡者数は減らなければなりません。でも、実際には死亡者が増加する一方です。


現代人の生活習慣が悪化していることが原因で、乳癌になる女性が急激に増えているのが、死亡者数の増加の原因だという人もいるでしょうが、これだけ健康に関する情報が溢れており、必要な栄養を補給できる社会であるにもかかわらず、50年前より、生活習慣が悪化するなんてことはありえません。

間違った健康常識の流布と無意味な治療が、乳癌での死亡者数を増やしている原因だと僕は思うんですよね。もちろん、乳癌検診を受けて癌を早期発見すれば治るというのも、間違った健康常識の一つだと思います。


「『余命3ヵ月』のウソ」は、健康なうちに読んでおくことをおすすめします。

健康な状態だと素直に内容を理解できるでしょう。でも、癌が見つかってからだと、何とかして治したいという気持ちが先行して、不必要な治療を選択してしまう危険があります。例え、同書を読んで、その内容を理解できたとしても、きっと気持ちが内容を否定してしまうでしょうね。

特に詰め込み教育を受けてきた世代は、権威に弱いので、大きな病院の医師に勧められると、早期発見早期治療を選択しやすいと思います。いったん覚えたことは、それが覆ることなく、永久に正しいんだと思い込んでいる人が多いですから。

僕も詰め込み教育世代なので、気を付けなければいけませんね。