ウェブ1丁目図書館

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大使館のおかげで世界の国々が身近に感じられる

普段、日本国内で生活していると滅多に関わることがないのが大使館。

海外旅行に行って何かトラブルが発生した場合に現地の日本大使館にお世話になる可能性はありますが、多くの人にとって大使館は身近な存在ではありません。だから、大使館でどんな仕事が行われているのか知っている人はあまりいないでしょう。

しかし、世界各国に日本大使館があり、日本国内にも各国の大使館があることを考えると、非常に重要な仕事をしていることはなんとなく想像できます。

エルサルバドルに大使として赴任

元メキシコ住友商事会社社長の樋口和喜さんは、2017年6月から2020年11月まで外務省特別職特命全権大使としてエルサルバドル共和国に駐在した経験を持っています。著書の『商社マン、エルサルバドル大使になる』では、大使の間、エルサルバドルでどのような仕事をしてきたのかが紹介されており、大使館がどのような仕事をしているのかを端的に知ることができます。

特命全権大使の任命は、皇居正殿の『松の間』で行われ、1ヶ月後にエルサルバドルに出発。

エルサルバドルは、中米にある太平洋側の小さな国で、スペイン語が話されています。メキシコでもスペイン語は話されており、当地で仕事の経験があった樋口さんは、もちろんスペイン語を話すことができます。エルサルバドル大使に任命されたのは、当時の経験から中米のエキスパートと見られていたことが理由ではないかとのこと。

エルサルバドルと聞いても、どんな国なのかわからない人が多いはず。そして、エルサルバドルの人も、日本がどのような国か知っている人は少ないでしょう。大使の仕事は様々ありますが、現地の人たちに日本がどのような国かを知ってもらうことも、そのうちのひとつです。

日本企業のビジネス支援

大使館の使命には、日本企業のビジネス支援もあります。

樋口さんの在任中では、滞在ビザ、税金、治安対策、感染症対策などの各種相談への対応、日本企業の意匠問題や入札案件での競合先の不正問題への対応などを行ったそうです。

エルサルバドルへのハイブリッド自動車輸入税免除についてもエルサルバドル政府に働きかけ実現したとのこと。政治的な問題に関わることはなんとなく想像できますが、日本企業からエルサルバドルに出張する際、現地の事業者にアポを取り最初の打ち合わせに同行するといった民間の活動を後押しすることも大使の仕事のようです。

反対にエルサルバドル企業から日本企業を紹介してほしいとの依頼に応じることもあるのだとか。

大使館の仕事は、想像していたよりも民間と関わっているんですね。

他にも、日本酒を現地に売り込んだり、エルサルバドルの特産品であるコーヒー、カカオ、藍を日本に紹介することもしています。そして、樋口さんは、コーヒー豆収穫の実地体験にも参加しています。日本が他国と友好関係を築くため、最初の一歩を踏み出すのも大使の仕事のようです。

日本の文化を伝える

外交手段にパブリック・ディプロマシー(広報文化外交)と呼ばれるものがあります。大使が任国の国民に日本とは何か、日本の外交とは何かを訴え、国民からの支持を集め、外交に役立てるというのがパブリック・ディプロマシーです。

樋口さんは、エルサルバドルの知日家や日本武道競技者と積極的に交流することから、日本の広報を始めます。そして、現地の空手連盟と柔道連盟とコンタクトを取り、剣道、合気道も含めた4競技の合同デモンストレーションを行ったそうです。また、セミプロ野球リーグの始球式にも参加したり、東京オリンピックパラリンピックの広報活動として、オリンピック模擬競技会も開催しています。

日本の版画や絵画の展示会、日本舞踊の講演、SNSでの情報発信も行っているようで、フェイスブックのフォロワーは、2022年3月時点で9万9千人に達したとのこと。また、樋口さんは、ラジオ番組にも定期出演し、エルサルバドルの人たちに日本がどういう国なのかを広報していました。


本書を読むまでは、大使館は身近な存在ではないと思っていました。でも、それは、単に自分が各国の大使館がどのような活動をしているのか意識しようとしていなかっただけだと気づきました。

おそらく、日本国内でも、各国の大使が様々なところでパブリック・ディプロマシーをしているはずです。スーパーで、コーヒー豆やアボカドを買えるのも、他国のパブリック・ディプロマシーのおかげかもしれませんね。当たり前のようにこれらの商品を手にできるようになっているのは、他国のパブリック・ディプロマシーが成功している証明と言えそうです。

大使館の仕事は、各国の国民が世界中と繋がることが当たり前の世界にすることなのだと気づかされました。