親ガチャという言葉があります。
自分で親は選べないから、どの家庭で生まれるかは運次第という意味で使われている言葉です。努力さえすれば、何でも実現できるわけではないので、人生にとっては運も重要な要素になります。受験も就職も、運に左右されることがあります。
では、会社に入ってからはどうでしょうか。配属、異動、昇進は、自分の希望通りに行かないことがあるので、運の要素が大きいと感じている人が多そうです。
総合職に期待されるもの
パーソル総合研究所シンクタンク本部 上席主任研究員の藤井薫さんの著書『人事ガチャの秘密』は、会社の人事は運で決まっているようなタイトルですが、読んでみると必ずしもそうではないことがわかります。
本書は、就職活動中の方から入社10年目くらいまでの若手・中堅社員を想定したものとなっていますが、それより上の年代の人が読んでも参考になります。
さて、就職活動を終え、新入社員となって出社すると、最初に研修を受ける会社が多いです。そして、研修を終えた新入社員は、どこかの部署に配属されます。この初期配属では、希望通りの部署に配属される人もいれば、まったく希望していない部署に配属される人もいます。どちらの場合でも、なんとなくガチャを引いたような気分になるかもしれませんね。
初期配属の場合、会社によって目的が異なるので一概には言えませんが、3年ごとに異動させる、まず営業を経験させるなどの方針で行われます。だから、初期配属の段階では、当たりハズレを明確にするのは難しいです。
総合職は様々な仕事を経験することになると言われていますが、会社の方針によって扱いが異なるので、必ずしもそうとは言えません。総合職は、付加価値が高い仕事をしてもらうことを期待して採用しており、そのため、会社は高い給料を支払っているのです。
10年間3部署異動
企業の異動配置方針としては、10年間で3部署経験させるというものが多く、アンケートによると全体の3分の1の会社がこの方針を採用しているとのこと。
この10年間3部署異動には、ジェネラリスト育成型と専門職育成型があります。
ジェネラリスト育成型は、総合職一人一人に様々な経験をさせるもので、多くの場合、総合職の採用数が極めて少ない会社が該当します。昇進スピードは早くないものの、総合職は、将来は少なくともグループ会社の役員として活躍することが期待されています。
専門職育成型は、最初の10年間は職種を変えず、勤務地を変更させるものです。
他にもさまざまなタイプの人事異動があり、それは、会社の方針によって異なります。
そもそも、会社はなぜ人事異動をするのでしょうか。
その第一の理由は、要員確保、要員適正化です。組織を維持するためには、部門間の人員の過不足の調整が必要になります。そのためには、人が多い部門から人が少ない部門への異動を行う必要があります。他にも、従業員と仕事のミスマッチ解消、不正防止、マンネリ防止、組織活性化など様々な理由で人事異動が行われます。
会社を支えるミドルパフォーマー
仕事をバリバリこなす人をハイパフォーマーと言います。
これに対して、人事の評価が真ん中くらいの人をミドルパフォーマーと言います。人事評価が真ん中と聞くと、全従業員の平均くらいの働きをしているように思ってしまいます。でも、そうではなく、会社や上司の期待にほぼ応えてくれるという意味での評価ですから、ミドルパフォーマーは、組織にとって重要な役割を果たしていると言えます。
従業員が30代半ばになると、人事の最大関心事は、管理職の選抜と登用になります。ミドルパフォーマーにとっては、管理職になるかどうかの重要な分岐点です。
管理職を望まず専門職として働くといった場合でも、ミドルパフォーマーが40代半ばになると、30代と同じ仕事をしていれば、人事評価が下がってくる場合があります。そうならないためには、40代半ばまでに管理職に伍してプロフェッショナルとして通用する専門能力を身に付けておくことが必要とのこと。
30代半ばからの10年間は、会社に頼りにされ安心してしまいますが、同じ場所で同じことを続けていると、いつの間にかミドルパフォーマーからローパフォーマーに扱いが変わってしまいます。管理職を目指さないから気楽に仕事をしていれば良いと考えることにはリスクがあるのです。
女性は管理職に昇進しやすくなっていくだろう
SDGsが注目されるようになり、日本企業は、女性の管理職登用を積極的に行うようになっています。
とは言え、まだ女性の管理職は男性よりも少ない状況です。そのため、女性の管理職登用は、これからも積極的に行われていくことでしょう。管理職の男女の比率が半々になるまでは、この傾向は続くでしょうから、女性の方は、管理職を目指して働いてはいかがでしょうか。
本書には、人事ガチャに戸惑っている方のためのQ&Aも掲載されています。納得がいかない人事に悩んでいる方は、Q&Aを読むことで、人事が、なぜそのよう配属をしたのかがわかるかもしれません。
知識がない状況では、どんなことも運に見えるものです。今の会社の処遇に不満がある方も、ぜひ、本書を一読してください。