ウェブ1丁目図書館

ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。なお、当ブログはアフィリエイト広告を利用しています。

インターネットが民主主義を危うくする

インターネットが登場したことで、人々はそれまでよりも多くの情報を入手できるようになり、また、不特定多数の人々に自由に発言する機会も増えました。

これぞ、民主主義。

インターネットが革命を起こし圧政に苦しむ人々を解放し、また、これまで隠されていた事実を多くの人が知るようにもなりました。

インターネット。なんてすばらしい発明だ。インターネットは、平和で民主的な社会を創造するこれまでにない画期的な道具だ。

と思っている人がいるかもしれません。でも、インターネットは、非民主的であり、真実を求めようとする人を少なくしているのが現実でしょう。

信頼性の低い情報であふれた世界

哲学者のマルクス・ガブリエルさんへのインタビューを収録した『世界史の針が巻き戻るとき』を読むと、世界が信頼性の低い情報であふれているのではないかと考えさせられます。

そして、信頼性の低い情報の氾濫に手助けをしているのが、インターネットやデジタルなのではないかと。

ガブリエルさんは、それについて、書き手の知識が足りないから信頼性が低いということではなく、「そもそも情報の前提から問わないといけない」と述べています。昔ながらの紙のメディアであれ、SNSであれ、現実を著しくゆがめて伝えていることがあります。薄々、そうだろうなと気づいている人もいるでしょう。

フェイクニュースの類が発信されることは、現代だけでなく過去にもあったはずです。しかし、現代ほどフェイクニュースがあふれている時代は、かつてなかったでしょう。

きっと、その対策としてフェイクニュースに規制をかけることを思いつくでしょうが、それよりも、もっと大切なことがあります。真実を求めることです。インターネットは、真実を求めない人や我々にとって有害なことを止められる裁判官のような役割を演じる人がいない空間となっており、それが、フェイクニュースがあふれる状況を作っているのです。

このような状況に対して、ガブリエルさんは、インターネットこそが民主主義の土台を揺るがしているのだと指摘しています。

民主主義は遅い

民主主義は、「自分が信じているものを何でも自由に言える権利で成り立っている」と考えている人は多いはずです。言論の自由表現の自由という言葉から、そのように考えることは仕方ないのかもしれません。

しかし、民主主義はそういうものではありません。

実在する裁判所、インフラ、税システム、官僚、役所など、様々な機関からできた複雑なシステムこそが、人々の権利を守っているのであり、このシステムが維持されている状況が民主主義なのです。特定の人間が、このシステムを乗っ取ることは容易ではありません。このような複雑で強固な仕組みがあるから、あなたは、他者に攻撃されにくくなっているのです。

先ほども述べたようにインターネットの世界には、裁判官のような役割を演じる人はいません。そして、人々が、真実を追い求めようとせず、「フェイクかもしれないけど、それを前提にネットを楽しめばいいじゃない」と考えるようになることで、インターネットは、ますます非民主主義的になっていくのでしょう。

民主主義では、多くの手続きが必要です。この手続きがあるから我々の権利は守られているのであり、スピードが重視されるほど、我々の権利は容易に侵害されやすくなるのです。

人工知能は存在しない

インターネットが発達し、近年注目を集めるようになっているのが人工知能(AI)です。

AIは、今後、人から多くの仕事を奪っていくと脅威に語られることもあれば、これから、社会はもっと便利になり我々の暮らしが今まで以上に快適なものになるだろうとの期待も集めています。

どちらにしても、AIは、過剰評価されているのが現状ではないでしょうか。

AIについて、ガブリエルさんは興味深いことを述べています。

紙の書類の束を大量に保管している資料室があったとします。この状況を知能と言うでしょうか。言わないですよね。では、オンライン上にこれらの紙の書類に書かれている内容を保存した場合はどうでしょうか。これも、知能とは思いませんよね。物理的な紙に書いていた情報をデジタル化しただけですから、知能とは言えません。

両者の違いは、情報を早く探せるかどうかです。当然、デジタル化した情報の方が、紙に書かれた情報よりも早く取り出せるので、前者の方が探すのに時間も手間もかかりません。しかし、書かれている内容は同じなのですから、紙からデジタルに置き換わっても、それは知能ではありません。だから、ガブリエルさんは、「『人工知能』なんてものが存在すると思わないほうがいい」と述べています。

自動化は経済崩壊を引き起こす

また、最近はデジタルによる自動化も行われるようになっていますが、これについても、「自動化が最適化だというのは、昨今信じられている壮大な神話」だと切り捨てています。そして、自動化は物事を凡庸化するとも。

何もかもが自動化していけば、やがて経済は崩壊します。経済は、消費によってお金が循環することで成り立っていますが、機械は物を買いません。多くの仕事が機械に置き換わることで、お金の循環の円が小さくなり、経済は停滞し、我々は貧しくなっていきます。

ただ、このようなことは産業革命のときにも指摘されたことですから、実際に自動化で人々が貧しくなっていくのかはわかりません。しかし、現代の資本主義が貧困層を増加させてきたことを考えると、自動化は貧しい人々を増やしていく可能性は否定できません。

ここで、世界の貧困率は下がっていると反論するかもしれません。確かに1990年から比較すると、貧困者数は減り、貧困率も下がっています。2023年時点では、世界人口80億人のうち貧困者数は11億人です。1990年の世界人口が約60億人、貧困率が36%でしたから、この時の貧困者数約21億人と比較すれば、大幅な改善となっています。

しかし、1900年の世界人口約16億人と比較するとどうでしょうか。当時の貧困者が11億人もいたのでしょうか。相対的な貧困率は下がっていても、絶対的な貧困者数は増加しているのではないでしょうか。


ガブリエルさんは、下層にいる人の数がこれほど多くなったことは人類史上ないと指摘しています。そして、これからは、善行からお金儲けをする「モラリティの資本主義」へと移行していかなければならないとも述べており、「とやかく言わずすべての企業に倫理の専門家を雇わせて、資本主義を修正すべき」だと強調しています。

インターネット、デジタル、AI。

それらに大きな幻想を抱いていると、民主主義は危うくなるかもしれません。