ウェブ1丁目図書館

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コロナ後の世界は平等と独裁のどちらを選ぶのか

日本は、新型コロナウイルスの被害が比較的少なかったですが、大きな被害を受けた国もありました。欧米諸国が、特に被害が大きく、人々の行動が厳しく制限される事態に発展したことは記憶に新しいですね。

コロナ禍は、現代の国際社会が抱える問題を浮き彫りにしました。そして、これから解決していかなければならない課題も見えてきました。

社会にとって本当に大切なものに気づかされる

クーリエ・ジャポン編『新しい世界』は、2021年1月に出版され、当時の識者16名にインタビューした内容が掲載されています。欧米の識者が多く、日本人は含まれていません。そのため、日本には当てはまらない部分もありますが、コロナ禍が浮き彫りにした現代の国際社会が抱える問題点をどう解決すべきかを考えるには良い書籍です。

コロナウイルスの流行により、都市封鎖を行う国が見られました。市民の健康を守るためには、やむを得ない手段だと解される都市封鎖ですが、これは、民主主義があっけなく崩壊し、簡単に独裁に変わることを教えてくれました。社会のためなら、人々の自由と権利を制限すべきとの意見が見られるようになり、日本でも、個人番号により国民の行動をある程度監視することに肯定的な意見が見られるようになっています。コロナ禍がもたらした最も悪い影響と言えそうです。

一方で、コロナ禍は、社会にとって本当に大切なものが何かに気づかせてくれた面もあります。社会の根幹を支えてくれているのは、トラック運転手、スーパーのレジ係、看護師、医師、教員などであり、金融や法律を巧みに操れる人々ではなかったのです。

資本主義はお金の重要性を高めた

コロナ禍はまた、現代社会でのお金の重要性にも気づかせてくれました。人々の行動の制限は、お金の流れも制限することになり、それにより生活が苦しくなる人も出ました。ここで考えなければならないのは、これほどまでにお金が人々に大きな影響を与えていることです。ダニエル・コーエンさんは、「資本主義の世界に関して残念に思うのは、お金が人間関係においてこれほど大きな意味を持つようになってしまったこと」だと述べています。

お金こそが、幸福をもたらすものだとの価値観が広まって発生したのが過労死ではないでしょうか。

高度成長を経験した日本でしたが、やがて、経済成長が鈍化し始めます。それをどうやって解決すべきかを考えた時、日本人は、今まで以上に働くことを選びました。コーエンさんは、日本社会はアメリカ社会と同じ罠にはまっており、ワーカホリック社会になっているのかもしれないと危惧しています。そして、めざすべきは、成長でも脱成長でもなく、人間としての生活に最低限必要なものが何なのかを見据えることだと指摘しています。

努力や能力で成功したのではない

お金に関しては、ビリオネアと呼ばれる巨万の富を有している人々に対して誤解している面もあります。

トマ・ピケティさんは、「しばしば言われていることとは反対に、ビリオネアたちが裕福になれたのは、知識やインフラや研究施設といった公共財のおかげ」なのだと語っています。努力も、もちろん富を得るために必要ですが、成功にとって大きかったのは公共財を利用できる環境にあったことなのだと。

能力主義の文化は、成功者たちにそのような意識を持たせるよりも、傲慢になる方に導き、成功できなかった人々に対する優しさを忘れさせていきました。

よく真の成功者は、これまでの人生を顧みるとき、運や縁という言葉を多用するといわれています。自分の努力だけでは、決して成功できなかったことをわかっているからでしょう。

コロナ禍は、今の成功が本当に自分の実力によるものだけと言えるのかを問い直す機会になったのではないでしょうか。何の障害もなく、公共財を自由にそして安価に利用できる環境が整っていたから自分は成功できたのではないかと。自分が育った環境、お世話になった教師、祖国、人生の巡り合わせ。そういった運による部分を忘れていないかとピケティさんは指摘しています。


人類史では、疫病が社会を大きく変化させることが何度も起こっています。ペストは、多くの人々の命を失わせましたが、一方で、農奴の身分から解放される農民を増やしました。ペストで大量の死者が出たことが、農民の価値が上がり、賃金が上昇したことで経済的に自立できるようになったからです。

疫病の大流行(パンデミック)は、富者にも貧者にも平等に死の恐怖を与えます。それが、傲慢な考え方を改め、人々は平等であるべきだと考える転機となります。

しかし、パンデミックが起こると、個人の自由や権利を制限しようとする動きも見られるようになります。これは、独裁を後押しすることにつながります。

コロナ後の世界は、どちらに動いていくのでしょうか。