ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

深き知性から人類が進むべき道を探る

世界は、これからどうなるのか。

未来を確実に言い当てることはできないので、この問いに答えられる人は皆無でしょう。それなら、未来がどうなるかを考えても、どうせわからないのだから、想像するだけ無駄だとなります。

しかし、未来を完全に言い当てられないにしても、今起こっていること、過去の事実から、なんとなく人類が進んでいく方向性は予想できそうです。最近の気候変動の激しさを見ると、自然災害が今よりも多くなりそうだということを多くの人が予感しているのではないでしょうか。それなら、自然災害への備えが、これからの人類には重要となり、これまで以上に防災や避難に力を入れる必要があると考える人が増え、そして、自然災害に強い社会になっていきそうです。

消費の均衡を目指す

サイエンスライター吉成真由美さんが、豊かな知性を持つ6人にインタビューをした『知の逆転』は、人類がこれから進むべき道を模索するのに良い材料となるに違いありません。

生物学者ジャレド・ダイアモンドは、現在発展している国と発展途上の国で、人々の能力に違いがないことを指摘しています。両者の違いは、単に地理的な差でしかないのだと。

それなのに先進国と発展途上国では、人々の豊かさが全く違います。この差が、世界を不安定にする原因だと考えられます。

今以上に世界を安定させたいのであれば、発展途上国の消費拡大とともに先進国の消費量を減らすことが重要になります。両者の不均衡は、発展途上国から先進国にテロリストが送られてきたり、消費量の低い国から高い国々への人口移動をもたらします。日本で考えると、世界屈指の海産物消費国であることから、他国よりも海産資源の消費が非常に多く、消費の不均衡を招いています。

主要タンパクの補給を魚に頼っている日本人は、魚の乱獲によりタンパク源を失うことになるので、海産資源の保存に取り組む必要があるでしょう。

核による支配

言語学者ノーム・チョムスキーは、核兵器が人類の危機を拡大している可能性が高いと述べます。

保有国同士は戦争しないという核抑止力が正しいのであれば、アメリカがイランや北朝鮮の核開発を認めることこそ、世界平和につながるはずです。その2国だけではなく、世界中の国が核保有国になれば、戦争のない世界になるでしょう。

しかし、この理屈がおかしいことは誰もが直感的に理解できます。それは、銃社会アメリカで、銃を使った犯罪がなくならないことと同じでしょう。

チョムスキーは、アメリカの本音は、核抑止ではなく各支配だと述べます。少数の国だけが核を保有することは、アメリカの支配力を強くします。しかし、核保有国が増えると、アメリカの支配力が弱まります。

チョムスキーは、他にも、唯一市場原理で動いているのは金融部門だけだが、破綻を繰り返し、そのたびに政府が救済していることを述べ、資本主義と社会主義という言葉に何の意味もなくなっているとの興味深い指摘もしています。

読む能力は人間特有のもの

神経科医のオリバー・サックスは、言語のような高次の脳機能ないし認知機能は個人差や文化の違いが大きく影響しており、また、音楽や数学の能力は領域特定化していると述べます。

人によって得意なこともあれば不得意なこともあり、それを認められる社会を望む人は多いことでしょう。

言語の一側面として「読む能力」があります。これは、他の生物には見られない人間特有の能力です。類人猿は、記号を識別するところまではできますが、文字を読むことはできません。

読む能力は、誰もが持つ人類共通の能力です。教育を受ければ誰もが習得できます。人類の未来は、全人類が教育を受け、文字を読めるようになることでより良い方向に行ける可能性を秘めています。

人間ができることをロボットができるようにする

2011年3月11日の東日本大震災では、福島原発が大きな被害を受けました。

その約30年前のスリーマイル島原発事故と同じように誰も修復作業のために中に入れない状況でした。30年経っても、ロボット工学は大した進歩をしていなかったと、認知科学者のマービン・ミンスキーは語っています。

コンピュータは、計算が非常に得意なので、チェスや囲碁で人間に勝つことは大したことではありません。そんなことよりも、人間ができるレベルのことをコンピュータにさせられるようになることの方が重要です。ドアすら開けられないロボットでは、人の代わりに作業をすることはできません。

スリーマイル島原発事故の教訓から、人間に代わって作業ができるロボットの開発が行われていれば、福島原発事故後の修復作業は変わったものになっていたでしょう。

インターネットの将来はわからない

現代社会ではインターネットの重要性が高くなっています。先進国では、ほとんどの人が日常的に使い、あって当たり前の道具となっています。

インターネット利用者がストレスなくウェブサイトを閲覧できるようにサーバーへの負荷を分散するサービスを提供しているアカマイ・テクノロジーズ社を設立したトム・レイトンは、多くの人にとって日常となっているインターネットの将来を予想できないと述べています。

変化するスピードが速いインターネットの世界ですから、今あるサービスがずっと存続するできるかわかりません。ある時、画期的なサービスが登場するかもしれません。

事実から意味を汲み取る

インターネットは、世界中の人々の知識を集約できる可能性を持っています。ウィキペディアのようなサービスが、まさにそれです。

しかし、集合知が科学を発展させるかというと、そうではなさそうです。DNAの二重らせん構造を解明したジェームズ・ワトソンは、科学を促進させることは、個人を尊重することだと述べます。

インターネットの普及は、個人の発言を抑制している可能性があります。あるものが別のものより優れていても、それを言うことがはばかられる社会では、科学の進歩はありえないでしょう。

また、ワトソンは、ほとんどの人が単に物事を受け入れるだけだと指摘します。単に受け入れるのではなく、これが最良の方法かと問いかけることが科学の発展には欠かせません。事実から意味を汲み取る能力を育てることが教育には必要とされています。

「人流を抑制すれば感染が収まる」と信じて緊急事態宣言を何度も発出する態度は、人の言っていることを単に受け入れたものであり、事実から意味を汲み取っていないと言えるでしょう。


地性豊かな6人のインタビュー内容は、示唆に富むものばかりです。

例えば、環境問題を考える際、先進国と発展途上国との消費格差をなくすことが重要だと気づかされますし、核が平和を不安定なものにしていることを知ることができます。

人類の未来がどうなるのか、それはわかりません。しかし、人類が進みべき道を探るヒントを本書は教えてくれます。