ウェブ1丁目図書館

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原理原則に従うことで不測の事態に対応できる

不測の事態が起こった時にどう対応すべきか。

このような問いに対しては、様々な答えが返ってきそうです。事前のトレーニングが大事だと答える人もいれば、常に冷静であることが重要と答える人もいるでしょう。日ごろからあらゆる事態を想定しておくと答える人もいるかもしれませんね。

しかし、不測の事態なのですから、そもそも事前に想像することは困難ですし、それに対応するためのトレーニングを積むことも難しいです。不測の事態に対応するためには、個別の事象への対応力を高めることよりも、原理原則に従った行動ができるように訓練することの方が重要です。

原理原則が未知への対応を可能にする

国際線機長であった横田友宏さんは、著書の『国際線機長の危機対応力』で、「『未知を変えるために、将来を予測していま行動する』力こそ、パイロットの本質」だと述べています。

今起こっている事象を見て対応するだけでは、パイロットになることはできず、事実が事実としての実態を持たない、兆しの段階でそれを捕まえ、どう発展するかを見極めることがパイロットには要求されます。そして、その兆しにすばやく対応し、何も起こらなかったかのように飛行機を操縦するパイロットこそ理想の姿だと横田さんは語っています。

未だ起こっていない事態に対応するのは難しいことです。しかし、原理原則にしたがって行動すれば、それが可能となります。気象条件が急に変化する空で、何事もなかったかのように目的地までフライトしているのは、機長が原理原則に従い、先手を打って行動しているからなのです。

もう一度言ってください

飛行機のコックピットには、機長と副操縦士がいます。機長が操縦し、副操縦士管制官との通信を行っている場合、管制官からの指示を機長が理解できた場合は了解と言います。そして、副操縦士は、機長が了解した合図を確認し、自分が聞いた指示を管制官に言います。

この時、機長は、副操縦士管制官に言った返事と自分が聞いた内容が同じであることを確認します。

もしも、機長が聞いた内容と副操縦士の返事が異なっていた場合、原理原則に従うと、管制官に対して「もう一度言ってください」と聞き直さなければなりません。機長と副操縦士管制官の指示を別々に聞いて、その理解が同一であることを確かめることで、指示の聞き間違いや勘違いが発生する確率を大幅に減らすことが可能になります。

飛行機の外のことが優先

パイロットにとって重要なことは優先順位を決めることです。優先順位をその時その時で決めていたのでは、大事故を起こす危険性が高まります。

優先順位を決める場合、原理原則に従うと、飛行機の外のことを第一に重視しなければなりません。飛行中に外のことと言えば、気象の状態です。第二順位は、管制官の指示です。そして、第三順位は飛行機内部の状況です。

このように優先順位があらかじめ決まっているので、複数のことが同時に起こった場合でも、機長は原理原則に従って優先順位を決定することができます。また、スイッチの操作は必ず一つずつ行い、一度に複数のことを同時にやらないことも原理原則となっています。


他にも、原理原則はいくつかあり、それらに従って判断することで、機長は飛行中の不測の事態に遭遇するのを未然に防ぐことができているのです。

心理的に異なる行動に備える

飛行機が着陸をやめて再び上昇することをゴーアラウンドと言います。ゴーアラウンドは、管制官の指示など様々な理由で行われます。

この時、着陸しようとする思考とゴーアラウンドしようとする思考は真逆です。横田さんによると、人間はそれまでの思考を続けることは上手でも、それまでとは違う思考に切り替えることは上手ではないそうです。そのため、着陸時にゴーアラウンドの指示が管制官からもたらされると、その指示にうまく対応できない場合があります。

そのような事態に備えるために着陸する際は、「何かあったらゴーアラウンド」と思いながら、滑走路に進入するのだそうです。

飛行機のパイロットに限らず、「何かあったら○○する」と決めておくことは、あらゆる作業で役に立ちます。自動車の運転中、交差点を曲がるときは、「子供や動物が飛び出してきたときはブレーキ」と思いながらハンドルを回すようにするだけで事故が発生する確率を減らせるかもしれません。


飛行機のパイロットの危機対応力は、瞬時の判断力を磨くことで養われるのではありません。危険なことが起こるよりずっと前にその兆しを見つけ、余裕をもって対処し、何も起こらないようにするのが真の危機対応力です。

旅客機は、安全に時間通りに目的地に乗客を送り届けなければなりません。しかし、空では予想もしなかった事態が発生することがあります。そのような事態に備えるには、個別の事態に対処するテクニックを学ぶだけでなく、原理原則に従って判断できる力を養うことも重要となります。

どのような仕事でも、危機に対応しなければならない場面はあるものです。その際、業界全体で原理原則を共有しているかどうかで、事故の発生確率は大きく変わってきそうです。

例えば、医療業界では、患者のたらい回しが問題となることがあります。これも、医療業界で原理原則を共有すれば解決できる問題かもしれません。

これまでにない事態に対応するには、原理原則にしたがった思考ができるように訓練しておかなければなりませんね。