かつては、情報が入って来るのに数日を要していたことが、現在では数分で済むようになっています。このように迅速に情報を得られるようになったのは、ラジオ、テレビ、インターネットの発達によるところが大きいです。
一方で、短時間に多くの情報が入ってくるようになったことで、情報の真偽を確かめる手間が増えています。事実なのかフェイクニュースなのか、確かめるのが面倒な世の中になってきていますね。こんな時代になったからには、誰もがデータ・リテラシーを養わなければなりません。
信頼できる情報を見極めるデータ・リテラシー
日本を拠点に活動するフリージャーナリストのマーティン・ファクラーさんの著書『フェイクニュース時代を生き抜くデータ・リテラシー』は、インターネット、特にSNSをよく利用する人は一読した方が良いでしょう。
データ・リテラシーは、データ分析にとどまらずデータを解釈し行動につなげる能力を指す言葉としてアメリカで用いられています。ファクラーさんは、「グーグルやLINEに操られるのではなく、私たちが自らの人生の主導権を握り、身を守るための方策を学ばなければならない」と述べ、データ・リテラシーを身に付けることの大切さを説いています。
SNSが全盛の現代では、誰もが情報を発信し、そして、多くの情報を入手できます。しかし、大多数のユーザーは「信頼」を持っていません。投稿内容が正しいのかどうか、それを情報の受け手が判断できるだけの信頼をSNS利用者のほとんどが持っていないのです。そのような状況で、発信された情報が信頼できるかどうかを見極める手助けとなるのが、ジャーナリストです。SNSで情報を入手する際は、ジャーナリストが発信する情報と照らし合わせることで、真偽を確かめやすくなります。
アクセス・ジャーナリズムとアカウンタビリティー・ジャーナリズム
ジャーナリズムには、大きく分けて、アクセス・ジャーナリズムとアカウンタビリティー・ジャーナリズムの2種類があります。
アクセス・ジャーナリズムは、日本の記者クラブのように特定の情報源に依存する手法です。一方、アカウンタビリティー・ジャーナリズムは、記者が独自の取材によって権力者を監視し、責任を追及する手法で、代表的なのが調査報道です。
政府の公式発表を知るためには、アクセス・ジャーナリズムが必要です。しかし、それだけでは政府の言葉を鵜呑みにするしかありません。だから、アカウンタビリティー・ジャーナリズムも必要になります。現在の日本の大新聞は、アクセス・ジャーナリズムに偏っていますが、琉球新聞、沖縄タイムス、東京新聞のような地方新聞は、アカウンタビリティー・ジャーナリズムを展開し、権力からの独立性を保っています。
アカウンタビリティー・ジャーナリズムは、現政権の批判ばかりするので毛嫌いされることがあります。しかし、アカウンタビリティー・ジャーナリズムがなければ、政府が発信しない重大な情報が国民に伝えられない危険性があります。2019年5月に行われたオーストラリア連邦議会の選挙戦がその例として挙げられます。
同選挙では、中国がSNSアカウントを作り、大量のフェイクニュースを流し選挙を混乱させました。オーストラリア政府は、内部調査により事実を解明していたのですが、その調査結果を隠しているとのこと。これは、オーストラリア政府が、中国との貿易に悪い影響を及ぼすことを怖れているからだと考えられています。こういう情報は、アクセス・ジャーナリズムだけだと、国民に伝えられません。
フェイクニュースの特徴
新聞のように昔からあるメディアであれ、最近登場したSNSであれ、フェイクニュースが発信され、それを信じてしまう危険があります。特にSNSでは、多くのフェイクニュースが流れています。
フェイクニュースの作り方は、①偽造、②証拠のコラージュ、③キーワードの3つに分けられるとのこと。
偽造は、ニセ情報を作ることですが、フェイクニュースの発信者はニセ情報に正しい情報を組み合わせて発信してきます。これが、証拠のコラージュです。これをやられると、真実なのかウソなのか見破るのが難しくなります。また、長い説明を避け、短い言葉を使って情報を発信してくるのもフェイクニュースの特徴です。これが3つ目のキーワードです。
さらにフェイクニュースの発信者は、自分が流したいウソだけでなく、人目を惹きやすいスポーツや芸能の話題も織り交ぜてきます。X(旧ツイッター)では、このようなアカウントがよく見られ、趣味のようなポストを繰り返し、同じ趣味を持つ人だと思ってフォローしたら詐欺のDMを送って来ます。
また、Xでは、アカウントの乗っ取りも見られます。10年以上前に作ったアカウントなのにポストが数十件しかないものは、乗っ取ったアカウントと思って間違いないでしょう。多くのフォロワーを持つアカウントが乗っ取られた場合、フェイクニュースが拡散されやすくなったり、詐欺の被害が出やすくなります。使わなくなったXのアカウントは、削除しましょう。
情報源は複数持つ
データ・リテラシーを養うためには、複数の情報源を持つことが大切です。
情報源が1つだけだと、その情報が正しいのか判断する材料がなく、フェイクニュースに騙される確率が高まります。ファクラーさんは、情報リテラシーを磨き、自分の力で判断を下すためには、基本的に3つか4つのメディアに目を通して比較する必要があると述べています。
また、自分と同じ意見を持つ人の投稿ばかりを見ることも好ましいことではありません。自分と同じ意見ばかりを見ていると、自分は間違っていないと信じ込んでしまう危険があります。自分と異なる意見に耳を傾け、もしかしたら自分の考えはおかしいのではないかと疑問を持つことで、フェイクニュースに騙されにくくなります。
データ・リテラシーが足りないと、コミュニティの中の偏った意見に傾斜し、バランスを欠いた世界観をもつようになる。やがてそれは、差別的で攻撃的、排他的な方向へと暴走しかねない。(202ページ)
複数の情報源を持つこと、これこそがジャーナリストの助けを借りるということです。
インターネットだけでなく、テレビ、ラジオ、新聞も利用した方が入手できる情報の信頼性が高まります。そして、自分が見たこと、経験したことも、信用できる情報かどうかを判断する材料となることを忘れてはなりません。