ウェブ1丁目図書館

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ウォー・ギルトの意味は理解できなくても平和主義が生まれた日本

日本の平和主義は、第2次世界大戦後に誕生しました。

戦後、アメリカが進駐し出来上がった日本国憲法の第9条で戦争の放棄がうたわれていることから、これが現在の平和主義の誕生に貢献したことは言うまでもありません。しかし、日本の平和主義は、憲法第9条だけが生み出したのではありません。

アメリカの占領下で、GHQ民間情報教育局(CIE)が実施した「ウォー・ギルト・プロブラム」も、日本国民に平和主義を植え付けることになりました。

ウォー・ギルトとは何か

日本政治外交史、占領史研究を専門とする賀茂道子さんの著書『GHQは日本人の戦争観を変えたか』では、戦後のGHQの占領下で行われたウォー・ギルト・プログラムについて解説されています。ウォー・ギルト・プログラムという言葉自体を知っている人が少ないでしょうから、CIEが、そのようなことを占領時に行っていたことを知っている人も少ないと思います。

ウォー・ギルトを直訳すると「戦争犯罪」となります。しかし、ウォー・ギルトと戦争犯罪は意味合いが異なっており、それを日本語に訳すのは難しいとのこと。CIEが日本に対してウォー・ギルト・プログラムを必要と考えたことからも、日本ではウォー・ギルトの概念が、これまで存在していなかったことを意味していると言えるでしょう。

戦後、戦争犯罪は、ABCに分けられ裁判となりました。A級は「平和に対する罪」、B級は「通例の戦争犯罪」、C項は「人道に対する罪」です。日本では、C項で訴追された者はいなかったので、戦後の裁判ではA級戦犯B級戦犯が裁かれたことになります。

戦後の裁判とウォー・ギルト・プログラムは別のものですが、裁判の結果も日本人が平和主義を掲げるようになる一因だったと思います。

いかなる状況下でも非人道的行為は許されない

戦時中、日本軍はアジア各地で残虐な行為を行ってきました。しかし、そのような残虐行為は、日本国内で報じられることはなく、ウォー・ギルト・プログラムで初めて知った国民も多くいました。

ウォー・ギルト・プログラムでは、ラジオを利用して『真相はこうだ』、『真相箱』、『質問箱』という番組を流し、日本が戦争を始めた理由、日本軍が行った残虐行為、戦時中に国民に隠されていた情報を発信していきました。このような番組が放送されたのは、当時の日本人にほとんど贖罪意識がなかったからとのこと。

平時でも戦時でも、非人道的な行為は罪であるという普遍的理念が、当時の日本人にはなかったことを重く見たことが、ウォー・ギルト・プログラムを必要とした理由です。

しかし、CIEのウォー・ギルト・プログラムは、その思惑通りにはうまく進みませんでした。日本軍の残虐行為は非難されてしかるべきだとの考えは国民に浸透しても、アメリカの原爆投下は許されるのかといった国民の感情は、占領開始当時から継続していたからです。トルーマン大統領は原爆の使用が終戦を早め多くのアメリカ人と日本人の生命を救ったとし、当時の世論調査でもアメリカ国民の8割が原爆投下を支持したとの結果が出ていました。しかし、CIEは、その事実を日本国民に伝えることを避け、そのような調査もないと嘘をつきます。CIEは、原爆投下批判に敏感だったからです。

いかなる状況でも、非人道的行為を行ってはならないという民主主義的価値観を日本人に植え付けようとしたCIEにとって、アメリカの原爆投下は、その説明を苦しくしたのかもしれません。

軍国主義の排除

とは言え、CIEのウォー・ギルト・プログラムは、その後、日本が戦争をしていないことから大きな結果を残したと言えそうです。

賀茂さんは、ウォー・ギルト・プログラムの最も大きな功績は、人々がもともと持っていた「軍国主義が悪い」という実感にお墨付きを与えたことではないかと述べています。それにより人々は戦争を主体的に捉えることを避けてきたのだと。

戦時中、日本軍は、噓と隠蔽により国民を騙し続けてきました。その受難の記憶が国民に強い厭戦感情を生み出し、今日の戦争は絶対悪とする「絶対平和主義」につながっていったと賀茂さんは指摘しています。

また、東京裁判も、戦犯選定に日本の多くの保守派が協力し、軍国主義を排除しようとした面がありました。

戦後の日本は、戦争の責任を軍国主義に押し付け、二度とこのような悲劇が起こらないようにしようとしたのでしょう。ウォー・ギルト・プログラムが民主主義的な価値観を日本人に植え付けようとするより、国民のこんな悲劇はもうこりごりだとの感情の方が上回り、絶対平和主義が生まれたように思います。

もしも、アメリカが原爆を投下しなければ、ウォー・ギルト・プログラムは、日本国民にもっと民主主義的な価値観を持たせることができたのではないでしょうか。

日本軍の残虐行為と原爆投下のどちらがひどい行為だったのか。

この問いは、ずっと残るはずです。そして、日本人が、こう問い続けることが平和主義の維持につながることでしょう。