ウェブ1丁目図書館

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話や文章がおもしろい人の特徴。それは副詞にあり。

おもしろい話をする人や上手に文章を書く人がいます。

おもしろい話も上手な文章も、その人の体験が興味深いものであることが多いですが、それだけでは、おもしろく話せませんし、上手に文章を書けません。

昨日、偶然経験したことが珍しいことだったとしても、話し方や書き方によっては、あまりおもしろく感じないことがあります。反対にそれほど珍しい体験でなくても、話し方や書き方を工夫するだけで、相手に興味深い体験をしたように伝えることができます。

ところで、話や文章におもしろさを感じるか感じないかは、どこで決まるのでしょうか。

副詞の性質

話や文章をおもしろくしているのは、副詞です。

副詞とは、何ぞやと聞かれても、それを説明するのはなかなか難しいのですが、文章論を専門とする石黒圭さんの著書『コミュ力は「副詞」で決まる』では、副詞を品詞のゴミ箱と述べています。

品詞は、文を組み立てるときに果たす役割に基づいた語の分類で、名詞、動詞、形容詞の三大品詞が代表的な品詞です。副詞は、これら三大品詞に分類されない自立語なので、品詞のゴミ箱と言われています。

では、副詞とは具体的にどんなものでしょうか。いくつか列挙してみましょう。

  • ゆっくり
  • きれいに
  • かなり
  • たくさん
  • ときどき
  • もう
  • ぜんぜん
  • 幸運にも
  • やっぱり
  • とくに
  • ぶっちゃけ


おそらく、ほとんどの人が、日常会話で発したり聞いたりしているのではないでしょうか。使用頻度は高いのに一段低く見られがちな品詞。それが副詞なのです。

上の副詞をよく見ると、以下の5つの性質があることがわかります。

  1. 描写性:出来事をリアルに写し取る
  2. 程度性:物事の捉え方に物差しを当てる
  3. 予告性:内容を先回りして表現する
  4. 評価性:事態に話し手の評価を込める
  5. 期待性:自らの基準とのズレを語る


「ゆっくり」は描写性に含まれます。「ビュービュー」などの擬音語や「ぴかぴか」などの擬態語も、出来事をリアルに写し取っている副詞です。

「たくさん」は程度性を表していますね。

「ぜんぜん」は、その後に「ない」といった否定が来るので、予告性のある副詞です。

「幸運にも」は、話し手の評価がこもっているので、評価性を持っています。

「やっぱり」は、自らの基準とのズレがあった時に使われやすいので、期待性のある副詞になります。

おもしろい話や上手な文章には、きっと、随所に副詞が含まれているはずです。擬音語や擬態語といったオノマトペも、臨場感を出す副詞であり、会話や文章に適度に出てくると、情景が想像しやすいですね。

「やっぱり」には思考の過程を一瞬でわからせる機能がある

外国人が、日本語を学ぶ際、習得が難しいのが、「やっぱり」だそうです。「やっぱり」は、「なるほど」「たしかに」「けっこう」などと同じ認定の副詞に分類されますが、どれも外国人には使い方が難しいようです。

本書では、「犯人はやっぱり住み込みの執事だった。」「日本人はやっぱり和服が似合う。」など、「やっぱり」を使った例文がいくつか紹介されています。これらの文章に使われている「やっぱり」を見るだけで、話し手の思考の過程が見えてきませんか。

「犯人はやっぱり住み込みの執事だった。」を見ると、話し手は、最初に執事が怪しいと思っていたことがわかりますよね。そして、「やっぱり」を文中に入れたことで、別の人物も犯人の候補として挙がっていたことを想起させます。最初に怪しいと思った人物が犯人なのか、その後で怪しいと思った人物が犯人なのか揺れ動いた後、最終的には、最初に怪しいと思った人物が犯人だったことが、「やっぱり」を使うだけで聞き手にわかるようになっています。

たった4文字でこれだけのことを表現できるとは、なんと便利な副詞だと感心しますが、それが外国人が理解するのを難しくしているのでしょう。

状況に応じて副詞を使い分ける

話がおもしろいのも、文章に引き込まれてしまうのも、その状況に適した副詞を上手に使っているからです。

「ドアを開けて入ってきた」という文章で話は通じますが、「ドーンとドアを開けて入ってきた」のように「ドーンと」というオノマトペを使えば、勢いよく人が入ってきたことがわかります。「少しドアを開けて入ってきた」であれば、遠慮気味に入ってきたように表現できます。

「助かりました」という場合も、「本当に助かりました」と副詞を上に付けることで、感謝の意を込めることができます。

一方で、副詞の使用は、ハラスメントにつながりかねない場合もあるので注意が必要です。たとえば、「たかが」「勝手に」「しょっちゅう」は、ネガティブな印象を相手に与えやすいです。

「たかがパートのくせに」「許可なく勝手に」「しょっちゅう失敗して」のような使い方は、言われた相手を不快にします。

本書のタイトルに「コミュ力」が入っているように副詞は対人関係を良くすることもあれば悪くすることもあります。その場に合った副詞を選ぶことで、人間関係を円滑にできます。

副詞を選ぶ場合に何より必要なのは、当該の文脈に合った言葉をあきらめずに探すという姿勢です。最初に思いついた言葉で満足せず、もっとよい言葉がないか、考えつづける姿勢がその人の表現力を高めます。(203ページ)

例えば、「すぐに」という副詞は、「すばやく」「即座に」「瞬時に」「一瞬で」など別の副詞に置き換えることが可能です。いつも「すぐに」ばかりを使うのではなく、文脈に合った別の副詞がないかを探すことで、咄嗟の時に相手を不快にする変な副詞を使わないようになるはずです。

副詞の使い方で世代がわかる

言葉は生き物と言われます。

新しい言葉は常に生まれています。特に若者が新しい言葉を作る傾向にあります。そのため、若者言葉と呼ばれているのですが、今の若者が使っている言葉を若者言葉というのはちょっと違うようです。

例えば、「本気」という漢字。

今の高齢世代だと「ほんき」と読み、それ以外の読み方はしません。ところが、中年世代になると、「ほんき」の他に「マジ」と読むことがあります。そして、若者世代になると「ガチ」と読む人もいます。

かつては、「マジ」が若者言葉とされていましたが、今の若者は「本気」を「マジ」とは言わず「ガチ」と言うようになっていますから、「マジ」は若者言葉ではなく中年言葉と言えます。

石黒さんは、若者言葉というくくりは、社会言語学の観点からはあまりふさわしくないと述べています。言葉は世代とともに移り変わってゆくので「世代語」として理解すべきものなのだと。

10年後、20年後に「本気」と書いて「バチ」と読むようになっていたら、「ガチ」は中年が使う言葉と言われるようになるでしょうね。