ウェブ1丁目図書館

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微妙な日本語のルールを意識した文章は読み手をひきつける

文章中の鍵括弧は、会話を表現するものですが、締めくくり方は以下のどちらが正しいのでしょうか。

「秋は台風が多いよ。」
「秋は台風が多いよ」。

句点を閉じ括弧の前に打つのか、それとも後に打つのか。

句点を閉じ括弧の後に打つのが多数派のように思えますが、実際のところはどうなのでしょうか。

文章は時代によって変化する

朝日新聞でデスクなどを歴任し、朝日カルチャーセンターで文章の書き方を指導する植竹伸太郎さんの著書『凡文を名文に変える技術』によると、戦前から戦後にかけては、閉じ括弧の前に句点を打つのが一般的でしたが、閉じ括弧の前で文が終わるのは当たり前だからと、新聞社や出版社では句点を閉じ括弧の前に打たなくなったそうです。

だから、現在では、閉じ括弧の後に句点を打つのが一般的となっています。でも、かつては、閉じ括弧の前に句点を打っていたのですから、どちらでも構わないのでしょう。

このように文章や言葉は、その時代によって使われ方が変わる傾向にあります。他に使われ方が変化した例として「全然」があります。「全然」を使ったら、その結びは否定になるのが当たり前だったのですが、最近は「全然」の後に否定が来ない使われ方もされます。

「全然~ない」が昔も現在も一般的な使われ方ですが、「全然~だ」という使われ方も現在は認められています。以前、何かのテレビ番組で、ギャグとして「全然」の後に肯定の言葉を持ってきたことから、「全然~だ」という使われ方をするようになったと紹介されていました。

最近では、「やばい」という言葉が、危険の意味以外にも、すばらしいことを意味する言葉として使われています。文章や言葉のルールは、時代によって変化するものなんですね。

ルールを知っていた方が文章は読みやすくなる

『凡文を名文に変える技術』は、主にエッセーを書く際の技術が解説されていますが、エッセー以外でも文章を書く際に知っておいた方が良いルールや言い回しが紹介されています。

まったく同じ意味の以下の文章を見て何か感じないでしょうか。

  1. 東へ歩き、デパートに向かった。
  2. 東に歩き、デパートへ向かった。


どちらも意味は同じですが、前者は「東へ」「デパートに」となっているのに対して、後者は「東に」「デパートへ」となっています。「に」も「へ」も、行き先の前に使う助詞です。どちらを使っても、違和感を感じることはほとんどないですが、広く方向を表すときは「へ」を使い、具体的な場所や到達点を表すときは「に」を使うそうです。したがって、方向を表す東の後には「へ」を使い、到達点を表しているデパートの後には「に」を使う方が良い文章と言えます。

次に以下の文書を見てみましょう。

  1. リンゴが赤い。
  2. リンゴは赤い。


どちらも、同じことを言っているのですが、なんとなく意味合いが異なる感じがしませんか。助詞の「が」と「は」は主語の後に使いますが、「が」は新しい情報(未知)の場合に使い、「は」はすでに知っている情報(既知)の場合に使うとするのが有力な説とのこと。

言われてみると、そんな気がします。「リンゴは赤い」は、一般的に知れ渡っているリンゴの色という情報を伝えている感じがします。一方、「リンゴが赤い」は、青かったリンゴが、いつの間にか熟して赤くなっているような、これまでと状況が変わったことを伝えている意味合いを含んでいるように読めます。

このように文章を書く際のルールや一般的な解釈のされ方を知っていると、同じような文章でも、読み手に微妙な違いを与えることができます。

他に「見る」や「行く」など、よく使われる言葉を別の言い方に変えることでも、文章から単調さを消すことができます。「見る」なら、「望む」「見上げる」「窺う」など、別の表現が可能ですから、何度も「見る」動作を文章中に登場させる場合は、状況にあった別の言い回しがないかを考えてみましょう。

書いた文章は必ず読み返す

文章を書く目的は様々ですが、人に読んでもらうために文章を書く場合は、書いた文章を必ず読み返し、誤字やおかしな表現が含まれていないかを確認しましょう。

文章を書いている時は、正しい表現をしているように思っていても、読み返すと、助詞の使い方がおかしかったり、一文がやたらと長くて言わんとしていることが伝わりにくくなっていたりするものです。パソコンやスマホを使って文章を書くと、漢字の変換ミスもよく起こります。

また、パソコンやスマホだと漢字に簡単に変換できるので、手書きの場合には難しくて絶対に使わない漢字をやたらと使ってしまうこともあります。「でたらめ」を「出鱈目」という当て字に変換してしまうこともあるので注意が必要です。


日本では、国語の教育が充実しているので、ほとんどの人が文章を書くことができます。そのため、小学校を卒業したら、文章の書き方を誰かに学ぶことはそうそうありません。

しかし、日本語の文章は、思っているほど簡単ではありません。小学校を卒業した後も、誰かに文章の書き方を教わるなり、本を読んで学ぶなりしないと、自分が伝えたいことを正確に文章で表現するのは難しいです。

『凡文を名文に変える技術』では、日本人は受験英語の影響を受けているせいで、本来、日本語にはない表現を使う人が多いと述べられています。私も、本書を読むまで受験英語の呪縛に囚われていたことに全く気づきませんでした。試験で英文を日本語に訳したような文章を書いており、しかも、何の違和感も感じていませんでした。

高校受験や大学受験で、英語をしっかり勉強した人ほど、日本語の文章術を解説した本を読むべきですね。