世の中には、様々な揉め事があります。
当人同士で解決できれば良いのですが、場合によっては裁判になることもあります。また、揉め事が刑事事件であれば、逮捕された犯人は裁判を受けなければなりません。
民事でも刑事でも、裁判になれば、裁判官が判決を言い渡します。法律に則って粛々と裁判は行われるものですが、判決とは別に裁判官が自分の言葉を述べることがあります。
大岡越前のような言葉から突き放した言葉までいろいろ
何度も裁判の傍聴をした経験を持つライターの長嶺超照さんの著書『裁判官の爆笑お言葉集』は、裁判官が判決の際に語った言葉が100件ほど収録されています。
タイトルに「爆笑」と入っていますが、大笑いするものは少なく、人情味にあふれた言葉や被告人を突き放す言葉が多いです。
例えば、酒に酔って裁判所の窓を叩き割り逮捕された被告人の裁判で、反省の色が見られない被告人に対し言い放った一言。
ここは、あなたが裁かれる場だ。
口では反省しているというが、
本当に反省した態度が見られない。
次回公判までに反省文を提出しなさい。(98ページ)
裁判官が、被告人に反省文の提出を求めることがあるんですね。まるで小学校の終わりの会で女子児童に悪さを告げ口された男子生徒に対して言う先生の言葉みたいです。
また、刑務所に入りたくて放火をした被告人に対しては、こんなことも言っています。
刑務所に入りたいのなら、
放火のような重大な犯罪でなくて、
窃盗とか他にも・・・・・。(47ページ)
裁判官が、犯罪を指南するとは驚きです。生活に困って罪を犯し、刑務所に入りたい人がたくさんいるんでしょうね。そういう人たちに重大犯罪をさせないための言葉なのでしょうか。
被告人の中には、時に真面目な人もいて、減刑を嘆願する多くの人の署名が裁判で提出されることがあります。これに対して裁判官が述べた言葉がこちら。
嘆願書がある人とない人で、
刑に差を付けていいと思いますか。
あなたはやったことで判断される。
そこが裁判所のキツいところ。(107ページ)
裁判官は、罪を裁かなければなりません。例え善人であっても、罪を犯せばそれに見合った判決を言い渡します。たくさんの人の署名がある嘆願書を提出したら減刑されるのなら、お金持ちは、財力にものを言わして多くの署名を集め無罪を勝ち取ることができます。
罪を憎んで人を憎まずと言いますが、それを裏返せば、どんな善人でも犯した罪に対し、その重さに応じてつぐないをしなければならないということでしょう。
他に「罪は万死に値する」といった厳しい言葉を放った裁判官がいる一方で、母親を殺害した男に対し「お母さんの顔を忘れないように」と人情味ある言葉を述べた裁判官もいます。
「判決は、淡々と出します」と述べ住民勝訴の逆転判決を言い渡した裁判官も、なかなかしびれますね。
裁判に関係したマスメディア用語
本書では、所々にコラムがあり、その中に「いかにも法律用語っぽい」マスメディア用語も紹介されています。
例えば、容疑者という言葉をよく耳にしますが、これは、法律用語ではなくマスメディア用語です。罪を犯したと疑われるが、まだ起訴されていない人という意味で容疑者という言葉が使われていますが、法律用語では「被疑者」といいます。
書類送検という言葉もマスメディア用語です。被疑者を逮捕せず捜査している場合に警察官が検察官に送ることを書類送検と言っていますが、法律用語では、逮捕されているかどうかにかかわらず「検察官送致」というそうです。書類送検と言われると、軽い罪のような印象を持ちますが、検察官送致と言われると大事件を犯したように聞こえますね。
他に起訴事実という言葉も耳にすることが多いですが、法律用語では「公訴事実」となります。
マスメディアでは、視聴者や読者にわかりやすくするため、法律用語を使っていないのかもしれませんね。
『裁判官の爆笑お言葉集』は、2007年に出版され、その後も長く読まれ続けているベストセラーです。傍聴しないと聞くことができない裁判官のお言葉が、100件ほど収録されています。ニュースで聞いたような言葉からネットの掲示板に書かれているような言葉まで様々あり、厳粛な裁判の場でこんな言葉も言うのかと驚かされるものもあります。
感情が表に出た言葉もあり、裁判官も人の子なんだなと感じさせられます。