ウェブ1丁目図書館

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戦前の天皇は絶対的権力を持って国を統治してはいない

現代日本では、天皇は象徴とされています。

戦前は、天皇は神として崇められ絶対的な権力を持っていたのが、戦後、人間宣言により今の象徴天皇になったというのが、多くの国民の理解ではないでしょうか。

しかし、戦前も、天皇が絶対的な権力を持っていたわけではないし、戦後も、天皇は単なる象徴となったのではありません。

神と人を分けるもの

戦前と戦後で、天皇の地位がどのように変わったかについては、憲法学・史学を専門とする竹田恒泰さんの著書『天皇は本当にただの象徴に堕ちたのか』で詳しく解説されています。新書にしては、ページ数が多く読み応えがあり、大日本帝国憲法日本国憲法の条文、学会での解釈を交えながら、論理的に話が進んでいきます。

戦前は、天皇を神と崇めていた。そのように言われるようになったのは、戦後からです。昭和天皇人間宣言により神から人になったことを当時の新聞は報道していますが、大した内容として扱っていませんでした。そもそも、人間宣言と称される詔書は、明治維新五箇条の御誓文の精神に基づいて戦後復興を目指す方針を示すのが主目的でした。

国文学的に見た場合、天皇は戦前から人であり、当時の国民も天皇が神だとは考えていませんでした。

神と人を分けるものは何か。

それは、寿命です。神には寿命がなく、人には寿命があります。

日本神話では、当初は人にも寿命がなかったのですが、イザナギが亡くなった妻イザナミに会いに黄泉(よみ)の国に行った際、イザナミの変わり果てた姿に驚き、急いで黄泉の国から脱出しました。そして、その出口を大きな岩でふさごうとしたとき、イザナミが、そんなことをするのなら、この世の人々を毎日1,000人殺すと言いました。これに対して、イザナギが、それなら、毎日1,500人の人を産んでやると言いました。

これが、人に寿命ができた原因です。神には寿命がなく、人には寿命がある。これこそが、神と人を分けるものです。

天皇は、神の子孫なので本来寿命がないはずです。しかし、天孫であるニニギが、美しいコノハナサクヤビメを妻に迎え、その姉である醜いイワナガヒメと結婚しなかったことから、2神の父であるオオヤマツミがニニギに呪いをかけ、寿命を与えました。そのため、ニニギの子孫である天皇も寿命を持つようになります。

したがって、国文学的に見た場合、天皇は神の子孫であるものの寿命を持つので人となります。

天皇を現人神と敬ったのはどういう理由か

戦前に天皇を現人神(あらひとがみ)として敬ったことが、天皇を人ではなく神と信仰していたように考える人がいます。

しかし、天皇は、高天ヶ原(たかまがはら)の神を祭る存在であり、祭りの対象として神殿で祭られる存在ではありません。国民の幸せを願い、神に祈りを捧げてきたのが天皇であり、その祈りを通して国を治めてきたのです。現人神とはそういうことで、決して神として祀られる存在ではなかったのです。

天皇の地位は歴史的事実を根拠とする

大日本帝国憲法が、天皇を国家の元首としたのは、天皇が神だからではありません。天皇は、2000年に渡り国を統治してきた事実があるから元首とされたのです。

君主と国民との間に対立関係があった西洋の歴史と異なり、日本では、天皇と国民の間に対立関係はありませんでした。国民にとって天皇は守るべき存在であり、それによって国民は幸福になれると考えていました。

その証拠とされるのが京都御所とのこと。

京都御所は、城郭のように石垣や堀で覆われていません。兵が駐留する施設もありません。これは、天皇は城によって守られてきたのではなく、日本国民が天皇を守り続けてきたことを意味しているのです。

このように考えると、天皇は、神の子孫であるから国を統治していたのではなく、国民の意思によって国の上に立った存在だったと言えます。そして、大日本帝国憲法は、このような天皇と国民の歴史的な関係を文章としたものであり、決して、西洋から輸入してきた憲法をそっくりそのまま採用したのではありません。

それゆえ、明治天皇が行使したのは、憲法制定権力ではなく、憲法成文化権だったと言えるのです。

このような天皇と国民の関係から、大日本帝国憲法において、天皇は絶対的な権力を持ってはいませんでした。天皇が持っていたのは、権力ではなく権威です。それは、日本国憲法にも受け継がれています。例えば、内閣総理大臣は国会で指名され、天皇が任命することとなっていますが、これは、天皇の絶対的権力で内閣総理大臣を決めているのではなく、国会の決議に対して天皇がお墨付きを与えている、すなわち、権威を与えていることを意味しているのです。


天皇は、戦前は神で、戦後に人になったのではありません。そして、天皇は、戦後に単なる象徴になったのでもありません。

日本国憲法アメリカが押し付けた憲法だと言われますが、それも誤解です。日本国憲法は、大日本帝国憲法を改正したものなのです。