ウェブ1丁目図書館

ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。なお、当ブログはアフィリエイト広告を利用しています。

ユーザー体験を劇的に向上させることこそイノベーション

企業が成長するためには、イノベーションが必要だ。

よく耳にする言葉です。イノベーションは、日本語に訳すと技術革新になります。そうすると、イノベーションは、メーカーのように何かを作っている技術力のある企業にだけ必要なことのように思えます。だから、商品を仕入れて売る商社や小売店にとっては、関係のない話だと考える人が多いのではないでしょうか。

しかし、イノベーションは、技術革新と訳すものではなく、事業をしている限り、どの企業にも個人にも必要になるものなのです。

イノベーションは個人の能力の問題ではない

2017年にスタートアップを支援する会社を設立した田所雅之さんの著書『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』によると、イノベーションの本来の目的は、「ユーザーの生産性」や「ユーザーの生活の質」を劇的に向上させることにあるとのこと。

もちろん、技術革新もイノベーションには違いありませんが、上記の目的からすると、それは本質的なものではありません。

また、イノベーションは、既存の事業を改善していく持続的イノベーションと既存の秩序を破壊し市場そのものを再定義する破壊的イノベーションに分類されます。

多くの企業では、持続的イノベーションに力を入れており、破壊的イノベーションに取り組んでいません。それは、イノベーションを技術革新と訳したことと無関係ではないでしょう。技術革新という言葉には、テレビでも、パソコンでも、今作っている製品よりも高機能な製品を作るために技術を磨くものだとの印象を与えやすく、ユーザーの生産性や生活の質を劇的に向上させるという発想になりにくいです。

そして、何より、イノベーションは、たぐいまれな発想力を持った個人によって生み出されるものだとの思い込みが強いことも、破壊的イノベーションを生み出せない企業が多い理由だと思われます。イノベーションは、個々人の能力の問題ではなく、まず、イノベーションを起こせる組織を作らなければ実現しません。

イノベーションを専門とした部署が必要

これまで多くの企業では、既存事業の仕事の中でイノベーションを生み出そうとしていました。例えば、電化製品を作っているメーカーでは、テレビ事業部内やパソコン事業部内で、いつも通りの仕事をしている人にイノベーションを期待しがちです。

しかし、既存の事業部は、四半期や1年といった単位での予算の達成を重視することから、今すぐに利益につながらないイノベーションに力を入れることが困難な状況にあります。そのため、個人が面白いアイディアを思いつくことがあっても、既存事業が優先され、イノベーションを生み出しにくい環境になっていました。

イノベーション、特に破壊的イノベーションを生み出すためには、既存事業を行っている部署に任せるのではなく、イノベーションを専門とする部署を作る必要があります。

田所さんは、そのためには、組織を3階建てにする必要があると説きます。すなわち、1階にコアビジネス(既存事業)、2階に新規事業、3階にイノベーションを置く組織とするのです。

3階建ての組織にすることで、それぞれの階の目標が明確になります。コアビジネスは利益の最大化、新規事業は市場シェアを拡大するために売上を伸ばす、3階のイノベーションは破壊的イノベーションを生み出すことを最重要課題とします。

新規事業と破壊的イノベーションは同じように思えますが、新規事業は、破壊的イノベーションが起こって誕生した新しい市場でどう立ち回るかといった段階にあります。本書では、キャッシュレス事業をその例として紹介しています。すでに市場が見えている状況では、シェアの獲得こそが最重要課題となるので、PayPayのようになりふり構わずキャンペーンを打ち出してユーザーを獲得する作戦が威力を発揮します。

3階のイノベーションは、未来のマーケットに最適化することを目指す実験場であり、ユーザーの隠れたニーズを見つけることを業務とします。イノベーションの定義でも見た通り、ユーザー体験を劇的に向上させることに注力します。

田所さんは、最近、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれていることに対して、それは、高いユーザー体験を実現するための手段だと考えています。まさにその通りでしょう。近年、日本政府が進めているDXを企業は真似すべきではありません。日本政府が進めているDXは、脱税や不正の防止に注力するものですが、それにより国民に手間をかけさせる状況となっています。これは、ユーザー体験を損ねてでも、自らの利益を優先する施策なので、企業が真似すると顧客離れを起こすだけです。

既存事業との食い合いを恐れない

破壊的イノベーションは、時に既存事業の打撃を与えることがあります。破壊的イノベーションにより新規事業が生まれると、既存事業と競合し顧客を奪い合うことがあるからです。

その例として、本書では、コダックが挙げられています。

コダックは、カメラのフィルムを製造販売していましたが、デジタルカメラの登場で、フィルムカメラの市場を一気に失いました。コダックは、1975年に初めてデジタルカメラの試作機を作ったのですが、写真フィルムの販売に深刻なダメージを与えると判断し、デジタルカメラ製造を封印しました。

しかし、デジタルカメラは他社が手掛け、大きな市場となり、反対にフィルムカメラの市場は縮小していきました。コダックが、既存事業と新規事業の食い合いを避けなければ、今もデジタルカメラ市場で大きなシェアを持っていたかもしれません。


イノベーションは、個人の能力に依存する面もありますが、それ以上にイノベーションを生み出せる組織にしておくことの方が重要です。特に破壊的イノベーションは、既存事業との食い合いを起こす場合があるので、既存事業部内で生み出すことは困難です。

自社の製品やサービスで、「ユーザーの生産性」や「ユーザーの生活の質」を劇的に向上させるためには、破壊的イノベーションを生み出せる組織にしておかなければなりません。