ウェブ1丁目図書館

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自分自身が気づいていない不満を探すことがマーケティングの訓練になる

マーケティングという言葉には、どこに多くの人がいるかを探し出し、そこで商売をして利益を獲得するといった印象があります。

そして、より多くの売上や利益を達成するために広告にお金を払い、顧客調査をすることこそがマーケティングだと考えられています。これで儲かっているのなら良いのですが、思うように成果が出ないと悩んでいる企業は多いのではないでしょうか。

消費者のニーズが多様化した現代の日本では、全ての顧客に同じものを売るという戦略は通用しなくなっています。だから、広告や顧客調査に多額の予算を割いて、人が多くいる場所を探しても、思ったほどの成果が上がらず、何をしたら商品が売れるのかわからなくなっています。

マーケティングは時代によって変わる

これまでのやり方が、通用しなくなるのは、一言で言えば時代に合わなくなっているからです。

近代マーケティングの父と称されるフィリップ・コトラーさんとネスレ日本株式会社代表取締役兼CEOの高岡浩三さんのマーケティングについての対談が収録されている『マーケティングのすゝめ』は、これからのマーケティングはどうすれば良いのか、そのヒントを教えてくれます。

マーケティングは、これまで1950年代の製品管理、1970年代から80年代の顧客管理、1990年代から2000年代のブランド管理の3本の大きな軸で発展してきました。

1950年代は、日本は新興国であり、景気が上昇局面にありました。この時のマーケティングは工場で造った製品に対する需要を生み出すことでした。当時は、市場に圧倒的に製品が不足していたため、製品の機能そのものが消費者にとっての価値でした。

1970年代になると、経済成長は鈍化し、消費者も欲しいものを手にしたので、新製品を発売したからといって売れるとは限らなくなってきました。この時代は、消費者は、製品を買うならより安くで手にできるものを選ぶようになっていました。

さらに1990年代以降は、パソコンやインターネットの発達により、消費者は十分な情報を得られるにようになったことから、製品を容易に比較できるようになり、その価値が彼らによって決められる傾向がいっそう強まっていきました。これにより、大量生産、大量消費型のビジネスモデルは崩壊し、多品種少量生産型経済が到来します。

マーケティングは、これらの時代に合わせて発展し、これからも、その手法を刷新していくことが企業に求められています。

マズローの欲求5段階説に合わせたマーケティング

マズローは、人の欲求を下から、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、尊厳欲求、自己実現欲求の5段階に分けました。

生理的欲求は生きていくために最低限必要な食べたいや眠りたいといった欲求です。生理的欲求が満たされれば、安全に暮らしたいという安全欲求が芽生え、それも満たされると友人が欲しいという社会的欲求があらわれます。

社会的欲求が満たされると、周囲から尊敬されたいという尊厳欲求が湧き上がって来ます。最近よく聞く承認欲求がこれに当てはまります。尊厳欲求を満たすと、自分がやりたいこと、なりたい自分を追い求める自己実現欲求に到達します。

これらの5段階の欲求にマーケティングを合わせていくことが重要であり、生理的欲求や安全欲求を満たすマーケティングは製品管理(マーケティング1.0)、社会的欲求を満たすマーケティングは顧客管理(マーケティング2.0)、尊厳欲求を満たすマーケティングはブランド管理(マーケティング3.0)とやり方を変えていく必要があります。

そして、自己実現欲求を満たすマーケティングマーケティング4.0)が、これからは求められていくとコトラーさんと高岡さんは述べています。

顧客の問題解決に主眼を置く

自分探しの旅に出たことがある人がいるかもしれません。また、いずれは自分探しの旅に出たいと考えている人もいるのではないでしょうか。

自分探しの旅とはいったいなんでしょうか。これまでの自分の生き方で良いのか、漠然とした疑問から、日常を離れるのが自分探しの旅のイメージです。旅に出た人は、目に見えない不安のようなものを抱えています。自分は何を不安に思っているのかよくわからない、そんな状態から自分探しの旅は始まることでしょう。

不安が目に見えていれば、その解決策を考えることができます。しかし、不安が何なのかわからない状況では解決策を考えようがありません。

マーケティング4.0とは、自分探しに出る人の手助けをすることと言えます。すなわち、顧客が認識していない問題を探り出し、それを解決するための製品やサービスを提供することが、21世紀のマーケティングに求められているのです。

先進国の消費者は、すでに物質的に満たされているので、日常生活に不便さを感じていません。でも、それは、消費者自身が、不便さに気づいていないだけとも言えます。その消費者が気づいていない問題を解決する手助けをするのがマーケティング4.0です。

ネスレが展開する「ネスカフェ アンバサダー」は、オフィス内でおいしいコーヒーが飲めるというサービスです。オフィス内には自動販売機があり、近くにはコンビニもある、スターバックスドトールコーヒーもあるといった状況だと、消費者はコーヒーを飲むことに不自由を感じていません。

こんな恵まれた環境で、新たにコーヒーを売ることはできないと思うものですが、ネスカフェ アンバサダーは、職場にコーヒーマシンを設置することで、1杯20円から30円でおいしいコーヒーが飲めることを訴求し、消費者の無意識のニーズに応えました。


缶コーヒーは安いけど味はいまいち。
コンビニは、ちょっと遠い。
カフェに入ると割高。


こういった消費者自身が、問題だと気づていないことを見つけ出し、解決することが、これからのマーケティングには求められています。

これまでのマーケティングでは、消費者調査で把握できる顧客が認識している問題を解決することに力が入れられてきました。このマーケティングでは、従来の製品やサービスを改善するリノベーションが行われます。掃除機の吸引力を強くするとか、テレビの画質を良くするとかいったものは、リノベーションにあたります。

しかし、これでは顧客が認識していない問題解決にはつながりません。顧客が認識していない問題を解決するためには、新しいものを生み出すイノベーションが必要です。そして、イノベーションをもたらすためには、顧客が認識していない問題を発見することを主眼としなければなりません。


顧客が認識していない問題を発見することは容易ではありません。そのようなことを学校で教えてもらっていません。職場でも、顧客が口にする不満を改善する仕事はしていても、顕在化していない問題を探す仕事をしている人は少ないでしょう。

まずは、自分自身が認識していない問題を探してみると、顧客が認識していない問題を探す手立てが見つかるかもしれません。