地球は丸い。
現代では小学生でも知っている常識ですが、近年、この常識が変わりつつあります。球体だった地球が、どうも少しずつ平面体に変わってきているようです。
「そんな馬鹿な」
と思うでしょうが、そう思っているあなたも、すでに地球がフラットになりつつあることを感じているはずです。
フラット化の10の要因
地球が平面体に変わりつつあることは、トーマス・フリードマンの著書「フラット化する世界(上)」に書かれています。
コロンブスはスペイン国王と女王に、世界は丸いと報告し、それを初めて発見した人物として、歴史に名をとどめいている。私は帰国して自分の発見を妻だけに、それもささやき声で伝えた。
「ねえ、きみ」こっそりと打ち明けた。「世界は平らなんだ」
(16ページ)
もちろん、現在も地球は球体をしています。でも、人類の活動がグローバル化するにつれて、世界はフラット化しつつあるのです。
それは、すなわち人々の活動を邪魔する壁が取り払われているということです。トーマス・フリードマンは、世界をフラット化したのは以下の10の要因だと述べています。
- ベルリンの壁の崩壊と、創造性の新時代
- インターネットの普及と、接続の新時代
- 共同作業を可能にした新しいソフトウェア
- アップローディング
- アウトソーシング
- オフショアリング
- サプライチェーン
- インソーシング
- インフォーミング
- ステロイド
一つ目の「ベルリンの壁の崩壊と、創造性の新時代」はわかりやすいですね。1989年にドイツを東西に分断していたベルリンの壁が市民たちによって破壊されました。これにより東西冷戦が終結、以後、ドイツはひとつに統一されます。
今までベルリンの壁によって人々の移動は制限されていましたが、壁がなくなったことで、その制約が取り除かれました。そう、ドイツ国内はフラット化したのです。
現代はアップローディング全盛期
上記の10のフラット化の要因の中で、僕が最も世界が平らになりつつあると実感しているのが4つ目のアップローディングです。
僕がこうやってブログを書いているのも、アップローディングできる環境が整っているから。そして、このアップローディングを誰でも簡単にできるようにしてくれたのがアパッチです。
『アパッチとはなんだ?』ときくと、ウェブサーバー・テクノロジーのフリーウェアだという。オープンソースのチャットルームのようなものをオンラインでやっているコンピュータおたくの集団が無料で提供しているというのだ。私は唖然とした。『どうやって買えばいい?』ときくと、こういわれた。『ウェブサイトから無料でダウンロードできますよ』私はきいた。『具合が悪くなったときは、誰がサポートするんだ?』すると、『わかりません―ちゃんと動きますよ!』という答が返ってきた。それが私のアパッチ初体験だ・・・・・。
(136~137ページ)
今では、多くのサーバーにアパッチが使われています。僕が利用しているレンタルサーバーもアパッチが使われていますね。世界的に普及しているアパッチが、IBMやマイクロソフトといったコンピュータ関連の大企業によって作られたものではなく、世界中の有志たちによって作られ、日々、バージョンアップの作業が行われているのですから驚きです。
しかも、彼らはお金を取ることなく無償でアパッチと関わっています。
以前はIBMもGOというウェブサーバーを市販していましたが、アパッチの方が性能がよくしかも無料であることから、IBMはほんの少しのシェアしか取ることができませんでした。そして、IBMは、自分たちもアパッチの開発にかかわることを決断したのですが、それに対してコンピュータおたくたちは以下のような条件をつきつけました。
IBMとの協力の見返りにアパッチ・グループが要求したのは、オープンソーシングにIBMの最高のエンジニアを割り振り、他の連中と同じようにただで役に立つ作業をするようにということだった。
(151ページ)
大企業が中小企業や個人を飲み込むことはよくありますが、個人のそれもお互いの顔も見たことのない奇妙な集団が、IBMの優秀なエンジニアを自分たちの作業仲間に組入れ、しかもタダ働きさせているのですから、これまでとは全く違う世界ができあがりつつあると考えられます。
アパッチがウェブサーバーの大きなシェアを確保したこと。
それが、現在、誰もが低コストで簡単に文章でも、写真でも、動画でもオンラインにアップローディングできるようにしたのです。
滝が下から上にも流れ出した
アパッチのようなオープンソースは、ウェブ上の百科事典ウィキペディアも有名です。ウィキペディアは、閲覧者が編集可能なので、そこに間違った情報が掲載されていても誰かが修正します。しかし、必ずしも正しい情報が掲載されているとは言えません。それでも、百科事典としての機能は十分に果たしています。
インターネットがなかった時代なら、権威者や知識人が作った百科事典を利用するしかありませんでした。それもお金を払って。でも、ウィキペディアの登場によって、個人が持っている断片的な知識も百科事典に反映されるようになったので、これまで埋もれていた情報も閲覧者は知ることができます。
これは、出版という壁、完全な知識を有していることといった壁が取り払われ、ウェブ上にフラットな世界が出現したことによって実現したことなのです。まるで、権威者が上から下に滝のように情報を流していたのが、個人が下から上に向かって情報を流せる滝ができたようなものです。
他にもオープンソースの例として知られているのがブログシステムのWordpressです。
Wordpressも、もちろん無料で使えます。アパッチを搭載したウェブサーバーにWordpressをインストールすれば、誰でもブログを開設できます。別にWordpressを使わなくてもアメブロやFC2ブログを使えば、誰でも無料でブログを始めれますが、自由度の高さという点ではWordpressの方が優れています。
このように手軽にブログを開設できるツールが登場したことで、これまでは世の中に出ることのなかった個人の意見が、インターネットにつなげる環境さえあれば世界中誰でも知ることができるようになりました。情報は、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といった大手メディアからしか得られなかったのが、容易にアップローディングできる環境が整ったことで、人々は正解中の隅々にある情報も入手可能となったのです。
インターネット黎明期には、テレビやラジオの情報を個人が開設したウェブサイトで紹介していたのが、今では、個人がブログにアップロードした文章や写真、動画が大手メディアで使われるようになっています。
それは、アパッチのようなオープンソースが滝を逆流させるほどの力を持っていたということであり、現に個人の小さな力が同時多発的に滝の流れを下から上にも流れるようにし続けているのです。
人間はアップロードを好む。したがって、フラット化の要因一0のうち、アップローディングは最も破壊的にひろがる力を秘めている。ゲームに参加するためにその力を使う人間がどれほどいるか、さらに、どれほど早く使うかが、アップローディングの破壊的な力のひろがりを左右する。(中略)アップロードはまだまだ規模としては小さい。しかし、個人がアップロードし、共同作業を行うツールは、ドンドン普及しているし、人々がアップローディングの経験からフィードバックが得られれば得られるほど、大きな組織やヒエラルキー的な構造にその影響が及ぶに違いないと思う。
(183ページ)

- 作者:トーマス・フリードマン
- 発売日: 2006/05/25
- メディア: 単行本