ウェブ1丁目図書館

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忘れることは知識のアップデート。上書き保存で脳内を整理。

学校教育、特に義務教育では知識を身につけること、つまり覚えることが重視されます。

初歩的な内容については、四の五の言わずに暗記した方が良いと思います。そうでなければ、次に進めませんからね。でも、どこまで行っても暗記主体の勉強では、やがて、忘れることを罪深く感じるようになります。

覚えておくべきことはありますが、忘れなければならないこともあります。しかし、現代人は覚えることばかりを重要だと考えてきた結果、上手に忘れることができなくなっているのではないでしょうか?

記憶し続けることはパソコンに任せる

これまでの教育は、人間の頭脳を倉庫のようなものだと見てきたと指摘するのが、外山滋比古さんです。外山さんは、著書の「思考の整理学」の中で、創造的人間がこれからは重要となり、そのためには、上手に知識を捨てていくことが大切になると指摘しています。

従来の教育では、頭が良いことは、多くのことを暗記し、それを覚え続けていることと考えられていました。確かに物知りの人が近くにいると、仕事がしやすくなることはあります。部下が上司にわからないことを質問します。そして、上司が部下に教えます。教えられた部下は、以後、その通りに仕事をこなしていきます。

部下が一人で仕事をできるようになるための知識を与えた上司は、良い仕事をしたと言えるでしょう。そして、来年も再来年も、部下に同じことを教え、日常業務がスムーズに流れていきます。


しかし、ある時、その上司にライバルが出現します。それはコンピューターです。

倉庫としての頭にとっては、忘却は敵である。博識は学問のある証拠であった。ところが、こういう人間頭脳にとっておそるべき敵があらわれた。コンピューターである。これが倉庫としてはすばらしい機能をもっている。いったん入れたものは決して失わない。必要なときには、さっと、引き出すことができる。整理も完全である。
コンピューターの出現、普及にともなって、人間の頭を倉庫として使うことに、疑問がわいてきた。コンピューター人間をこしらえていたのでは、本もののコンピューターにかなうわけがない。
(111ページ)

インターネットが出現する前のパソコンであれば、誰かがパソコンの中に情報を入れる必要がありました。なので、パソコンの中に入っていない情報については、それを知っている人が重宝されました。

しかし、現在ではパソコンの中に情報が入っている必要はなくなりました。ネットに接続できる環境さえあれば、グーグルの検索窓に知りたいことを入力して、Enterキーを押せば、探している情報は大概見つかるようになったからです。

ここまでインターネットが普及すると、もはや、多くの情報を暗記し、それを記憶し続けることに以前ほど重要性はなくなっています。

これからは忘れることも大切になる

コンピューターができることを人間がする必要はなくなってきます。多くの情報を頭の中に保存しておくことは、まさにコンピューターがすることであって人間のすることではなくなってくるでしょう。

だから、これからは覚えた知識を忘れてしまうことも考えなければなりません。ところが、一度覚えたことというのは、意外と忘れられないのです。忘れることなんて簡単だと思うのですが、これがなかなか難しいのです。


現代の日本人は、とにかく覚えることが重要だと学校で教えられてきたため、忘れろと言われても、なかなか忘れられなくなっています。外山さんは、ある事柄を忘れるためには、他のことをすれば良いと述べています。

この点、だれが考えたのか知らないが、たいへんうまいことをしているのが、学校の時間割。国語をやったら、数学、そのあとは社会をして、理科、体育をしたら図工。こういうように、一見、脈絡のないことを次々やる。詰め込みだと見る人も出てくる。もうすこし、組織的にしてはどうかというので、二時間続きの授業を試みたりする高校があるけれども、すこし考えが違っているように思われる。倉庫型の頭をつくるのならともかく、ものを考える頭を育てようとするならば、忘れることも勉強のうちだ。忘れるには、異質なことを接近してするのが有効である。学校の時間割はそれをやっている。
(119ページ)

暗記するためには、同じことを反復継続するのが効果的です。それは、おそらく誰もが経験していることでしょう。

しかし、一度の入力で記憶できるコンピューターがあるのに、脳を倉庫代わりにしてコンピューターが短時間できることを人間が時間をかけてすることはどうなのでしょうか?考える力を身につけるためには、様々なことを経験した方が効果的です。

捨てる技術を高めれば脳内がより整理される

知識は多ければ多いほど良い。

その通りかもしれません。しかし、ただ知っているだけでは、その知識を役立てることはできないでしょう。

「知識はそれ自体が力である」(ベーコン)
と言うけれど、ただ知識があるだけでは、すくなくとも、現代においては力になり得ない。知識自体ではなく、組織された知識でないとものを生み出すはたらきをもたない。
(129ページ)

どんなに多くの知識を持っていても、複数の知識を組み合わせて使えなければ、ただ知っているだけになります。


では、どうやって知識を組み合わせれば良いのでしょうか?

ひとつの方法は、今まで身につけてきた知識のうち不要なものを捨てることです。外山さんは、知識が増えて一定限度を超すと飽和状態になると指摘しています。知識が飽和状態になれば、知識欲が低下し、やがて新しい知識を身につけても、今までほど仕事などで効果を発揮しなくなります。

経済学で出てくる収穫逓減の法則が、人の知識の習得にも当てはまるということですね。

だから、不要になった知識は捨てていくべきなのですが、これが意外と難しいのです。

ラクタの整理ですら、あとになって、残しておけばよかったと後悔することがある。まして、知識や思考についての整理であるから、ひょっとしたら、あとで役に立つのではないかと考えだしたら、整理などできるものではない。それでも、知識のあるものはすてなくてはならない。それを自然に廃棄して行くのが忘却である。意識的にすてるのが整理である。
(131~132ページ)

人間は、誰だって年をとれば忘れっぽくなるから、知識は自然に捨てることができます。でも、知識の整理というのは、自然に忘れることではなく意識して知識を捨てることなのです。

アップデートすれば捨てるべき知識がわかる

パソコンのOSやアプリケーションが新しいものにアップデートされると、今まで使っていたOSやファイルが不要になります。パソコンの場合は、これら不用になったファイルが自動的に捨てられます。

人間の脳も、新しい知識を入れるごとに過去の知識と照らし合わせる作業をすれば、パソコンのアップデートと同じように役に立たなくなった知識を捨てることができるのかもしれません。知識を頭に詰めていって飽和状態になる人は、新しい知識と過去の知識を照らし合わせて、古くなって役立たなくなった知識を捨てることができないのではないでしょうか?

古くなった知識も大事だから残しておこうと考えていると、いつの間にか新しい知識を頭に入れる作業ができなくなるはずです。人間の脳がたくさんのことを記憶できるとしても、やはり要領には限界があるでしょう。

限りある記憶の容量を有効に使うためには、古くなった知識を新しい知識に上書きしてしまうこと、これが最も効率的な方法です。そして、どんな分野でも最新知識を持っている人は、きっと古い知識に新しい知識を上書きしているはずです。


新しいことを覚えられないという人は、脳内の整理がうまくできていないのでしょう。そして、脳内の整理ができないのは、過去の知識を忘れることができないからです。

だからと言って、過去の知識を忘れてから新しい知識を入れようとしてはいけません。新しい知識を入れ続けながら、過去の知識を捨てていくのです。

それを効率的に行う方法が上書きなのです。

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)