ウェブ1丁目図書館

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年金生活に入ったら生命保険は解約して良し

今や日本での世帯普及率が9割近くに達している生命保険。

果たしてこんなに多くの世帯で生命保険に加入する必要があるのでしょうか?何のために生命保険に加入しているのかと尋ねられても、「万が一に備えるため」といった漠然とした答えしか出てこない人がほとんどでしょう。

生命保険に加入しておいた方がメリットがある世帯は、基本的に結婚して間もなく、まだ子供が自立できる年齢に達していない世帯です。この状態にない世帯は、生命保険の見直しをし、不要な特約は解約を検討した方が良いでしょう。

老後の死亡保障はいらない

ライフネット生命の起ち上げに参加し、同社の代表取締役副社長である岩瀬大輔さんは、「現役から退いた高齢者には原則として生命保険は必要ない」と著書の「がん保険のカラクリ」の中で述べています。

そもそも、なぜ生命保険が必要なのか、どうして生命保険に加入すべきかどうかを検討しなければならないのかといったことを保険の本質から考えてみましょう。

保険の本質は「発生する確率は低いが、起きたときに大きな経済的損失を被る可能性がある事故に備えるため、大勢で少しずつお金を出し合って備える仕組み」である。代表的な例は自動車保険や、子供がまだ小さい間、世帯主が万が一の事故や病気で亡くなった場合に備えて買う死亡保険である。
これに対して、「自分の身に起きる確率が高い事象」については、保険ではなく貯蓄等の資産形勢によって準備されるものである。子供の教育費、老後の生活費は必ず必要になることが分かっているお金である。「偶然の事故に備えて大勢で少しずつお金を出し合う仕組み」である保険には適していない。
(141~142ページ)

例えば、年間100人に1人しかかからない病気があり、その治療代が10万円だったとしましょう。その場合、必要となる保険料は10万円を100人で分担するので、年間1,000円となります。これに保険会社に支払う手数料部分である付加保険料が同額発生すると考えると、年間の保険料は2,000円と計算できます。

年間2,000円の負担で、万が一病気になった時には10万円の治療代が支給されるのですから、多くの人にとって割が良くて安心できる保険と言えるでしょう。

一方、子供の高校入学に備えて入る保険はどうでしょうか?現在の日本では100%に近い割合で高校に進学します。3年間の学費が100万円だったとした場合、この保険に加入した100人中100人が保険金を受け取ることになるので、子どもの高校入学までに払込まなければならない保険料は合計100万円になります。さらに付加保険料が加算されるのですから、必要な授業料よりも保険料の支払いの方が多くなります。

ここで誰もが思うはずです。

「こんな保険に入るバカはいない」

でも、これと同じことを多くの人がしているんですよね。それは、定年退職した後でも、生命保険に加入し続けるという行為です。

何のための死亡保障なのか?

生命保険は、何に備えるかという観点から以下の3点に分類されます。

  1. 死亡による所得喪失(死亡保証)
  2. 病気による医療費支出(医療保障)
  3. 長生きのための費用(生存保障)

まず一つ目の死亡保障を見てみましょう。

そもそも、死亡保障は何のために必要なのでしょうか?それは、働き手が不慮の事故などで亡くなった時、今まで得られていた所得を失う危険に備えるためです。

そう考えると、定年退職後は、失うべき所得がないのですから、死亡保障は無意味と言えます。また、その頃には、子供も成人して自立しているでしょうから、経済的な援助をしなければならない家族も基本的にいません。

それなのに自分が死亡した後、誰のためにお金を残さなければならないのでしょうか?残す必要はないですよね。

葬式代を残しておく必要があると考えている人は、葬式代の全国平均が約230万円なので、それだけの貯金を残しておけば、死亡保障に入り続けなくても大丈夫です。

ただし、1994年以前に加入している生命保険が残っている場合は、解約せず継続した方が有利です。なぜなら、その頃の利回りは4~5%と非常に高いからです。ただ、定年退職後は、できるだけ支出を減らしたいので、「払済」という手続きで、それまで積み立てた解約返戻金を残り期間の保険料として払いこむことを検討した方が良いでしょう。

老後の医療保険も解約

二つ目の医療保障についても、老後は解約を検討すべきです。

年をとれば誰だって病気がちになり、通院や入院のための支出が多くなります。そういった高齢者が医療保障を受けようと思うと、毎月、高額の保険料を払わなければなりません。

人は老いれば誰しも病気に罹る。この費用を純粋に保険で賄おうとすれば、皆が払い込む金額(保険料)が高くなるか、事故時に払われる金額(保険金)が少額になってしまう。がん保険のセールス文句で「2人に1人ががんに罹る時代」と謳われてることがあるが、本当に2人に1人が支払いを受けられるがん保険を作ったならば、保険料がとても高くなるか、一人一人が受け取る金額が小さくなるかのどちらかになるだろう。
(147ページ)

でも、医療保障がなければ不安だという人は、しっかりと貯金をしておきましょう。保険会社に支払う保険料があるのなら、その分を貯金に回せば、基本的に医療費は間に合うはずです。また、高齢者は、健康保険が若年層よりも優遇されており、自己負担が2割や1割に減額されます。高額療養費制度もあるので、毎月の医療費の自己負担額の上限は5万円以下で済みます。

介護保険は個人の価値観で決める

最後は生存保障です。

老後は、病気になった時の医療費の負担が不安になりますが、それ以上に長生きすることの不安の方が大きいです。

場合によっては、介護を受けなくてはならないこともあるでしょう。その場合に備えて介護保険に加入するというのは、老後の不安を取り除くために有意義なことと言えます。ただ、介護保険についても、支払う保険料と受け取る保険金を比較しなければなりません。

50歳から70歳まで20年間、240万円を払い込む。要介護状態等になる確率は70代のうちが5%から12%、80歳から84歳になると男性が16%、女性が24%。この場合、平均して5年間給付を受けると300万円。約3割の人は最大600万円を受け取ることとなる。
この保険のリスク・リターンをどのように感じるだろうか。人によって様々だろう。200~300万円をかけ捨てになってもいい「保険」と考えて払い込んでおくか。それだったら同じ費用を手元に置いておきたいと考えるか。老後資金の中から、80歳を超えて長生きした時の資金として500~1000万円程度は介護資金として織り込んでおくか。まさにそれぞれの人の「保険観」によって決まることになろう。
(156ページ)

早い話が、保険に入るのも介護資金を貯金しておくのも、どっこいどっこいということですね。

こういう場合は、個人の価値観で決めるしかありません。どちらが安心できるのか。その基準で選べば良いでしょう。


こうやって見ていくと、人間は年をとればとるほど、保険が不要になると言えます。

でも、多くの日本人が高齢者ほど保険に加入しておいた方が良いと感じています。岩瀬さんは、同書で何度も、保険は発生確率が低いけども発生したら大きな経済的損失が発生する場合に備えるものだと述べています。

発生確率が高いことや発生しても経済的損失が少ない事象には、保険を掛けるべきではないのです。

そう考えれば、老後に病気になる確率は高いのですから医療保険は不要ですし、死亡する確率も若い時よりも高まっているのですから死亡保障も必要ないでしょう。

したがって、定年退職後に生命保険に加入し続けることには、大した意義はないのです。

がん保険のカラクリ (文春新書)

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