あなたは、毎年、健康診断を受診することを職場で義務付けられていませんか?現在、多くの職場で健康診断を義務付けていますが、これが寿命を延ばすどころか縮めてしまっていると指摘している医師がいます。その医師の一人が近藤誠さんです。
近藤さんは、著書の「成人病の真実」の中で、定期健診が人を不幸にすると主張しています。
定期健診を受けようが受けまいが死亡率に大差はない
定期健診を受ける目的は、ガン、脳卒中、心臓病、糖尿病、高血圧といったいわゆる生活習慣病を早期に発見し、適切な生活指導を受けたり、治療を受けたりして、健康を維持し寿命を延ばすことですよね。病気はひどくなる前に治療した方が良いという常識があるから健康診断は有効だと思うわけです。
ところが、定期健診を受けたからといって、寿命が延びたり死亡率が下がったりしたというデータはありません。前掲書の261ページから262ページに渡って、アメリカで実施された健康診断のデータが掲載されています。実験は、1万人以上の35歳から54歳の男女を集め、くじ引きを引くようにして二分し、片方は放置し、もう片方は定期健診を受けるといったもの。
7年後、放置群と健診群を比較したところ、放置群は1,000人中39.2人が死亡し、健診群は35.6人が死亡しました。
これを見ると、放置群の方が死亡者が多いので、健診を受けた方が寿命が延びると思ってしまうでしょうが、両者の差は統計学的に意味のない差です。定期健診を受けようが受けまいが、寿命に影響を与えていないといえます。
さらにイギリスで行われたくじ引き試験の結果も紹介されており、こちらは放置群が1,000人中9.2人が死亡し、健診群は10.0人が死亡していました。アメリカの試験と同じく大差ありません。
これらの試験は1970年代に行われたものです。40年以上も前に健康診断を受けようが受けまいが死亡率に大差ないことがわかっていたのに、現在も日本では健診を受けるように指導しているのですからおかしな話です。
医者が介入するほど死亡者数は増える
定期健診を受けようが受けまいが死亡率に大差ないのなら、どっちを選択しても構わないと思うでしょうが、健診を受けた方が死亡者数が増えているといったデータもあります。
フィンランドで行われたくじ引き試験では、40歳から55歳の男性を対象に心血管疾患になりやすい因子があった約1,200人を選び、そのうち610人は本人の自由に任せておく放置群、612人は医者がライフスタイルに介入する介入群に分けられました。介入群の人たちは5年間、4ヶ月ごとに担当医のアドバイスを受け、場合によっては薬も処方されました。なお、介入群で、途中に脱落した人は26%だったとのこと。
その結果、介入群では心血管疾患の危険因子が減少したそうです。
「やっぱり、定期健診は有効じゃないか」
そう思うでしょうが、試験開始から15年後の死亡者数をみると、そうとは言えません。同書の266ページのデータを以下に示します。
- 心臓死:放置群=14人、介入群=34人
- がん死:放置群=21人、介入群=13人
- 総死亡:放置群=46人、介入群=67人
確かにガンでの死亡者数は介入群の方が少なかったので、生活習慣のアドバイスを受けることで死亡者数を減らせる可能性はあります。しかし、心臓死が放置群よりも介入群の方が2倍以上も多いというのはどうなんでしょうか。しかも介入群の方が総死亡者数が多いのですから、医者に関われば関わるほど不健康になっていくと言えなくもありません。
成人病から生活習慣病への変更が病人を増やした?
現在、生活習慣病という言葉が広く使われていますが、以前は、成人病と言われていました。内容は同じなのに名称が違うだけで、イメージがまったく異なります。
生活習慣病と聞くと不摂生が原因で病気になるように思いませんか?ガンも心臓病も高血圧も糖尿病も、日ごろの行いが悪かったと思わせるような名称ですよね。
対して、成人病の場合はそうではありません。成人、つまり、大人がかかる病気といった印象を受けます。ガンや心臓病などは大人になると、一定割合で発症するものだというイメージがありますよね。
前者は、何か治療が必要だとか生活習慣の改善が必要だとか思います。だから、治療や生活習慣の改善で病気が治ると考える人が多くなります。これが、健康診断を受けなければならないという思い込みにつながるんでしょうね。
そもそも、人間に限らずすべての動物は老化します。老化するということは、死へ向かって一歩ずつ前進しているということです。生活習慣を改善しようが治療を受けようが、死への歩みを止めることなんてできません。それをあたかも健康診断を受けることで、死への歩みを止めることができる、あるいは、死へのゴールを遠くにすることができると思わせているのではないでしょうか?
同書の273ページには、ちょっと古いですが、1999年のがんの死亡者数の推移を表したグラフが掲載されています。このグラフを見ると、40歳まではガンで亡くなる人はきわめて少ないのですが、55歳を過ぎたあたりから二次関数的に急激に死亡者数が増加しています。これは、長生きすればするほど、ガンにかかって死亡する確率が高まるということです。すなわち、ガンで亡くなるということは、それだけ長生きした証とも言え、生活習慣が原因というよりも老化が原因と考えた方がいいのではないでしょうか。
このように考えると、生活習慣病という言葉は不適切で、以前使われていた成人病の方が、病気の性質をより適切にあらわした言葉と言えます。生活習慣病という言葉が、単なる老化現象を病気と思わせているようにも思えますね。これは、老人を病人と言っているのと同じです。
健康診断が有効と言えるためには、健診を継続的に受けることで寿命が延びなければなりません。しかし、そういったデータはありません。むしろ、人間ドックを受けた人の9割以上が何らかの異常を指摘され、無症状、無自覚のまま、治療が始まるのですから、薬による副作用というデメリットだけが残ると言えるでしょう。
健康診断を受けて誰が得するのか?
僕は、この点について、もう一度、しっかりと考え直した方がいいと思うんですけどね。
- 作者:近藤 誠
- 発売日: 2004/08/03
- メディア: 文庫