ワーク・ライフ・バランス、つまり、仕事と私生活を調和させる生き方が提唱されるようになっています。
これまでの日本社会は、仕事一辺倒でしたが、これからは、仕事以外の私生活も充実させることが大切だと言われていますね。育児、趣味、地域活動など、仕事以外の活動を充実させることで、仕事もうまくゆき、心にもゆとりが生まれ、より良い人生とすることができます。
このようにワーク・ライフ・バランスは、ただ仕事と私生活の比率を同じにするのではなく、私生活を充実させることで、今以上に良い仕事ができ、さらに私生活が充実していくという好循環を目指していくものです。
仕事の対価
生きていくためには、何かしらの仕事をしてお金を稼がなければなりません。だから、仕事の対価は、お金と言えます。しかし、ただお金のために働くというのでは、ワーク・ライフ・バランスを実現するのは難しいでしょう。
伊藤忠商事株式会社の会長や中華人民共和国特命全権大使をつとめた丹羽宇一郎さんは、「仕事は人生そのもの」だと、著書の『仕事と心の流儀』で述べています。ほどほどの金銭的報酬を超えれば、あとは仕事の対価は「人間としての成長」だと。
仕事をすると、喜び、悲しみ、怒り、やっかみ、ひがみなど、様々な感情を経験します。このような経験をできるのは、仕事以外にはありません。だから、仕事を通して、人間への理解が一層深まり、自分自身も人間として成長できます。このような仕事の効用を考えると、ワーク・ライフ・バランスの中心となるのは仕事と言えそうです。
でも、ただ仕事をしているだけでは人間力を高めることはできません。人間力を高めるためには、日々の勉強が必要です。それは、学校に通うことだけではなく、人との交わりや読書も含まれます。人との交流は心の成長に役立ちますから、私生活の充実にも貢献します。
どれだけ勉強しなければならないのかという問題も出てきますが、充実した人生を送るためには、一生続けることになります。1日に10分でも20分でも努力することで、ある時、わからなかったことがわかる瞬間が出てきます。丹羽さんは、これを「DNAのランプがポッと点く」と表現しています。
どんなに疲れているときでも、毎日、短い時間の努力を積み重ねることを忘れてはいけません。
読書は投資
丹羽さんは、読書を自分を成長させるための投資だと考えています。人との交わりも自分を成長させるためには大切ですが、読書もまた人生を豊かにしてくれます。
読書によって、知らなかったことを知ることができます。インターネットで調べればすぐに答えが見つかることが多いですが、インターネットは、自分が知らない言葉を検索することはできません。だから、新たな発見という点では、読書が優れています。
論理的思考や想像力が鍛えられるのもまた読書です。自分の考えを論理的に組み立てて話す技術は、長年の読書によって磨かれていきます。読書で異文化と触れたとき、様々な想像が沸き上がってきます。
他に洞察力を養ったり、自分が無知であることを知ることができるのも読書です。
では、読書をするといっても、どのような本を読めば良いのでしょうか。丹羽さんは、自分が今関心を持っている本を読めば良いと述べています。他人が良いと思った本でも、自分にとって良い本だとは限りません。その時の自分の立ち位置によって良い本は変わってくるものです。仕事のために本を読まなければならない場合でも、仕事を成功させようと思いながら読むことで、興味がわいてくることがありますから、読書が無駄になることはありません。
また、読書でも人付き合いでも、日々勉強をすることで、目の前に転がっているチャンスを手にする確率が高くなります。チャンスは、どこにでも転がっているものですが、ただ情報を漫然と眺めているだけでは、それがチャンスだとは気づきません。日ごろから勉強している人が、チャンスに気づくのです。
新しいことにチャレンジする場合でも、チャンスに気づかなければチャレンジできません。新しいことにチャレンジできる態勢を整えておくためにも、日ごろから読書をしておく意義があります。
ワーク・ライフ・バランスは、仕事と私生活を調和させることですが、その軸となるのは仕事と言えます。しかし、長時間労働でワーク・ライフ・バランスを実現できないことは、誰もがわかっているはずです。仕事の対価を金銭的報酬としか考えない場合、ワーク・ライフ・バランスの実現は難しいでしょう。
仕事を通して人間力を養うことで、ワーク・ライフ・バランスをどうやって実現できるかを考えられるようになるはずです。そのためにまず読書から始めてみてはどうでしょうか。