ウェブ1丁目図書館

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自分の無知を知らないからネット上で誹謗中傷するのではないか

ネット上の誰かの発言に対し、「そんなことも知らないのかバカ」といったコメントを書く人がいます。最近では、ネット上の誹謗中傷から、精神的苦痛を受けたり自殺をする人が増えていることが社会問題となっています。

ネット上で「そんなことも知らないのかバカ」と誹謗中傷する人への対策がいろいろと考えられています。しかし、厳罰化しても、なかなか誹謗中傷する人が減らないのは、他に理由はいくつもあるでしょうが、自分が無知であることを知らないからでしょう。

読書は自分が無知であることを気づかせてくれる

個人の脳が記憶できる量なんて大したことはありません。全世界の人々の顔と名前すら記憶できないのですから、人間は、自分が知らないことの方が圧倒的に多いのです。

こんな当たり前のことに気づかない人が、世の中にたくさんいます。いや、本来、人間は自分が無知であることを理解するのが苦手な動物なのかもしれません。

伊藤忠商事株式会社の会長や中華人民共和国特命全権大使をつとめた丹羽宇一郎さんは、著書の『死ぬほど読書』で、「人間にとって一番大事なのは、『自分は何も知らない』と自覚すること」だと述べています。そして、それを教えてくれるのは読書だと主張します。

読書によって新しい知識を身に着けることができます。しかし、同時に自分は、まだまだ知らないことが多いのだと気づかせてくれます。ネット上で「そんなことも知らないのかバカ」と発言する人は、新しい知識を得ようとしていない人です。自分が無知であることを知っている人は、ネット上の他人の発言に対して違和感を覚えても、「もしかしたら、自分はそのことを知らないだけではないか」とまず考えます。そして、そのことについて調べ、自分の持っている知識の整理を行ってから、他人の発言内容が正しいのかどうかを判断します。

要するに新しい情報との出会いが少ないから、自分の知識が絶対的に正しいと思ってしまうのです。

無知を知り、他人の立場を考えることが教養

丹羽さんが考える教養の条件は、「自分が知らないということを知っている」ことと「相手の立場に立ってものごとが考えられる」ことの2つです。

どんなに知識があっても、他人の立場に立ってものごとを考えられない人は教養がない人です。

教養を磨くためには、仕事や人づきあいが大切ですが、それらに加えて読書も必要です。仕事でも、わからないことは出てきます。人づきあいでも、自分が知らないことを教えられることがあります。そして、読書は新たな発見をする機会を何度も与えてくれます。これら3つは自分の無知を教えてくれます。そして、これら3つは、相手の立場に立ってものごとを考える癖を身に着けることにもつながっていきます。

読書でどうやって相手の立場に立ってものごとを考える癖が身に付くのかと思うかもしれません。読書は、文字を読み進めるだけでなく、時に著者と対話するものです。著者が何を伝えようとしているのかを考えることもありますし、著者の考え方と自分の考え方が違うのはなぜなのか疑問を持つこともあります。読書の中での著者との対話もまた、相手の立場に立ってものごとを考えているのと同じです。

読書は孤独な行為だと思われがちですが、何人もの著者との出会いがあるのです。

読書からすぐに効用を得ようとしない

読書の効用についてはいろいろと語られています。

情報を得られることはもちろんのこと、感性を磨くのにも役立つと言われています。しかし、すぐに何かの役に立つことを期待して読書をしても失望するだけです。読書で得た情報が役に立つ知識になるには長い時間がかかります。自分が知りたい答えがすぐに見つかるとは限りません。

丹羽さんは、本から1つでも2つでも心に刻まれる言葉があれば儲けものと思った方がいいと述べます。

とくに人間への洞察や生き方に影響を与える言葉というものは、それを記憶しても、すぐに生かせるものではありません。
仕事や人との付き合いのなかで体験したことが、記憶にある言葉と結びつき、初めて「こういうことなのか」と腑に落ちることもあります。それまでは単なる知識にすぎなかった言葉はそこで知恵に変わり、心のシワになるのです。
その反対に、体験していたことで言葉になっていかなかったものが、本で出合った言葉でそういうことだったのか、と形を与えられることもあります。(147ページ)

本を読んで、すぐに役立つことは少ないです。でも、読書をしていれば、ある時、点と点が1本の線で結ばれ、疑問が解消する場面に出くわすことがあります。しかし、それはいつやって来るかはわかりません。だから、すぐに効用を得ようと思って読書をすると失望することになります。

読書をしようと思っても、どんな本を読んで良いのかわからない人は、自分が興味がある分野の本から読んでみましょう。マンガでも構いません。

自分が好きな分野の本を読んでいれば、やがて、他の分野についても興味が湧いてくるものです。そうやって、少しずつ視野が広がっていけば、ネット上の誰かの発言に違和感を覚えても、「もしかしたら、この人は自分が知らないことを知っているのではないか」と考えられるようになり、相手を傷つける誹謗中傷をしなくなるのではないでしょうか。