ウェブ1丁目図書館

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自分の存在を知られていないのにセルフブランディングに力を入れてどうなるの?

ウェブの世界では、「セルフブランディング」という言葉を目にすることが、しばしばあります。

セルフブランディングは、自分自身をブランド化する活動であり、自分が周囲からどう見られたいかをアピールするものです。例えば、芸能人だと、歌手や芸人など様々なジャンルがあり、そして、芸人であれば、どのような芸を披露するかによってブランド化されていきます。体を張った芸、漫才など。

さらに漫才でも、伝統的な漫才だったり、流行を取り入れた漫才だったりと、漫才師ごとに異なる特色があります。その特色がブランドとなり、漫才師の売りとなっていきます。

ところが、ウェブ上で見かけるセルフブランディングは、空虚に感じることが多いです。ブランドどころか、「そもそも、アンタ誰?」といった程度に映る人ばかりの印象ですね。

ブランディングの前にマーケティング

「そもそも、アンタ誰?」なんて思われている時点で、ブランディングなんて言っている場合ではないことに気づかなければなりません。自分自身や自分が手掛ける製品、サービスの認知度が低いのですから、ブランディングの前にまずマーケティングに力を入れるべきなのです。

コピーライターの川上徹也さんは、著書の『自分マーケティング』の中で、実績のある人はブランディングが重要だが、実績がなく世に知られていない人はマーケティングを行う必要があると述べています。

ここで、マーケティングとは、「自分(の商品)のイメージを自分から相手に伝える行動」を意味します。一方のブランディングは、「相手に、自分の商品に対していいイメージを持ってもらう行動」です。

この2つの定義を見れば、自分に認知度がない状況でのブランディングは無意味だとわかります。誰も知らないのに他者からどう見られるかに力を入れているのですから。それよりも、まず自分を売り込まなければ認知度が上がりませんから、マーケティングに力を入れなければどうしようもありません。

ウェブ上のセルフブランディングが空虚に思えるのは、「そもそも、アンタ誰?」の状態にある人ばかりが、ブランドを語っているからです。そして、彼らの活動は、セルフブランディングの方法を発信するものばかりです。他者より秀でた製品やサービスを持っており、その良さをどう伝えていくかの視点が抜けています。

川上さんが言う「自分マーケティング」は、そのようなセルフブランディングとは違い、自分や自分が手掛ける製品、サービスの強みをどうやって世の中に伝えていくべきかを説いたものです。

一点突破で強みを伝える

川上さんは、自分マーケティングは、自分が「何によって憶えられたいか」という問いを突き詰めていくことだと述べています。

例えば、演歌歌手だと、その人の顔を見たり名前を聞いたりしただけで、すぐに「演歌歌手」とイメージできる状態になることが理想です。単に「芸能人」や「歌手」といった大きなくくりでしか記憶されていないのなら、自分は演歌を歌っている歌手だということをアピールしていかなければなりません。

しかし、演歌歌手はたくさんいますから、単に演歌歌手というだけでは、自分の売りとしては弱いです。だから、演歌の中でも、まだ誰も扱っていない分野を見つけ、その分野に特化した曲を歌わないと自分のことを認知してもらいにくいです。

例えば、宇宙の壮大さをテーマにした演歌を歌っていれば、「宇宙と言えば、あの演歌歌手」と人々に記憶されやすくなります。一方、演歌ならどんな曲でも歌えることをアピールしても、訴求内容が広く浅いため、人々の記憶に残りにくいです。

宇宙でブレイクスルーすることに成功したら、次の段階に進み、そこでも自分マーケティングを展開していきます。この段階になれば、イメージを管理するためのブランディングも必要になってきます。ブランディングの前にブレイクすることが先で、そのためには、自分の強みを生かした一点突破を意識した自分マーケティングに注力することが大事です。

受け手目線と発信者目線

川上さんは、一点突破の戦術として以下の9つを挙げています。

  1. 業界の「あたりまえ」を言語化して発信する
  2. 自分が興味あることにどっぷりハマる
  3. 誰かの役に立つことを徹底的に提供する
  4. 狭い分野でナンバー1になる
  5. ノウハウを法則化してわかりやすく伝える
  6. とにかく自分が欲しいものを作る
  7. 自分に求められているものを提供する
  8. わかりやすいキャラを構築する
  9. 二つのジャンルを掛け合わせる


上の9つの戦術のうち、1、3、5、7は、受け手目線です。一方、2、4、6、8は発信者目線です。そして、9は、受け手目線と発信者目線の両方です。

どの戦術を選ぶかは、その人の自由ですが、成功しやすいのは、受け手目線の戦術です。早く結果を出そうと思うなら、受け手目線の戦術を選ぶのが得策と言えそうです。

本書では、島田紳助さんの漫才の戦術についても紹介されています。以下の2つの要素を徹底的に考えることが、漫才では大切だと述べています。


X=自分軸
Y=世の中のトレンド軸


自分軸(X)は、自分の戦力や自分に何ができるかの軸です。そして、世の中のトレンド軸(Y)は、時代による笑いの流れや変化です。

このX軸とY軸が交わったネタを披露できれば、大きな笑いが取れます。X軸がどんなに優れていても、Y軸と交わらなければ笑いを取ることはできません。つまり、自分の技術をどんなに磨いても、世の中のトレンドに合わせられなければブレイクすることはできないのです。

しかも、X軸は皆同じではないので、どうやったらY軸と交わることができるかは、人によって違ってきます。上で紹介した9つの戦術には、受け手目線と発信者目線がありますが、発信者目線の戦術を選択としたとしても、受け手目線を無視して良いわけではありません。

また、Y軸は不動ではなく、時代によって変化しますから、常にX軸をY軸に近づけていく努力をしなければ、やがて衰退していきます。


実績がない状態でのセルフブランディングは、成功への遠回りになっている可能性があります。自分のことを誰も知らない状況なら、まずは自分を知ってもらうためのマーケティングに注力すべきです。

ウェブ上で言われているセルフブランディングは、「実力以上に自分を良く見せる方法」のように思います。そのようなブランドをまとっても、いずれは見破られてしまいます。

誰にでも得意分野はあります。


「自分は、それを使って何ができるのか、そして、周りからどう記憶されたいのか」


難しい問いではありますが、世間に自分を認知してもらうためには、絶対に答えられるようにならなければなりません。