ウェブ1丁目図書館

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知識の横展開が情報過多の現代で生きていく技術となる

1つのことを深く知ることは、専門性を磨くことになります。何年も、その分野について勉強していれば、他の人よりも専門性が高まっていきます。専門分野を持つことは、自分の売りになるので生きていくための武器になります。

一方で、広い範囲のことを学ぼうとすると、各分野の知識は浅いものとなり、自分にとっての武器にならないと考えられがちです。しかし、広く知識を身につけることもまた、専門性を磨くための助けとなりますし、生きていくための知恵となります。

リベラルアーツは様々な分野を渡るのに欠かせない

幅広い分野に精通している著名人として、すぐに思いつくのは、フリージャーナリストの池上彰さんです。テレビ番組で、誰にでもわかりやすいように政治や経済、世界情勢について解説している姿を見たことがある人は多いと思います。

池上さんが、どの分野に関しても、わかりやすく解説できるのは、特定の分野だけでなく、様々な分野に興味を持って学んできたからです。著書の『知の越境法』では、「いろんなことに興味を持って手を出すことで、多様な経験を積み重ねていく、それが、その人の成長につながっていく」と述べています。

最近では、社会に出て即戦力となる人材を育てることが大切だとの意見が強くなっており、専門性を追求することが良しとされる風潮があります。しかし、人を自由にするためには、専門性の追求の前に様々な分野について、広く教養教育(リベラルアーツ)を受けることが重要です。

池上さんが、マサチューセッツ工科大学に取材に行ったとき、いま最先端のことはすぐに陳腐化するから教えても仕方がないとの回答を受けたそうです。すぐに役に立つ知識はすぐに役に立たなくなります。即戦力の人材を育てることは、言い方を変えれば、使い捨ての人材を育てることなのです。

また、ウェルズリー大学では、経済学は教えても経営学は教えないとのこと。その理由は、経営学は役に立ちすぎるからです。経営学もまた、すぐに役に立つ知識ですが、陳腐化するのも早いです。そのような実学は、ビジネススクールで受ければ良いとウェルズリー大学は考えています。

時代が変われば、必要とされる知識や技術も変わります。変化が激しい時代なら、なおさら、即戦力の知識ではなく様々な分野を渡り歩ける幅広い教養が必要になってくるのです。

横に広がる知識

日本では、リベラルアーツを学ぶためにゆとり教育が行われた時期がありました。

しかし、ゆとり教育を始めた直後、OECD経済協力開発機構)が3年おきに実施しているPISA(学習到達度調査)の順位が下がりました。これを受けて、ゆとり教育は失敗だったとされ、日本の教育方針が転換されました。

ところが、日本のPISAの順位が下がった2003年と2006年は、これまで参加していなかったシンガポールや香港が加わったことで順位を下げただけであり、点数自体は下がっていませんでした。それどころか、ゆとり教育をしっかりと受けてきた世代が、2009年と2012年にPISAの成績を上げていたのです。

知識は横に結びつくと、新しい発見につながっていきます。ゆとり教育は、この知識の横展開を可能とする教育だったのかもしれません。学問の分野を理系と文系に分け、理系なら理系の勉強、文系なら文系の勉強だけをしていては、知識の横展開は難しいでしょう。

池上さんが、様々な分野の専門家にインタビューし、視聴者の疑問に答えるような質問ができるのは、知識の横展開ができているからなのでしょう。複数の人との会話が盛り上がるためには、知識を横につなげられる人の存在が欠かせません。同じ分野の知識を持っている人だけが集まっても、知識の化学反応を起こすことはできません。知識の横展開ができる人が触媒となり、より大きな知識の化学反応が起きるのです。

また、個人の頭の中でも、多くの知識の引き出しを持つことで、知識と知識が結び付くことがあります。自分には関係がないと思っていることが、実は、自分が今持っている知識を磨くための役に立つかもしれません。しかし、その時がいつやって来るかはわかりません。だからこそ、自分が興味がない分野についても学ぶ姿勢が大切なのです。

フェイクニュースを見破るのが難しいのは、自分の知識に偏りがあるからとも言えます。世の中で起きていることの何が問題なのかを理解できないのも、知識に偏りがあるからです。


すぐにお金になる知識を求めたい気持ちはよくわかります。でも、すぐにお金になる知識は、誰にでも真似でき、すぐに陳腐化します。逆に手間暇がかかる手段は、簡単には真似されません。より高い専門性を持つことは、真似されにくい知識を身につけることにつながります。しかし、知識の横展開ができなければ、新しいものを生み出すのは難しいです。

専門性ばかりを追い求めるのではなく、自分の専門分野以外に目を向けることも、情報過多の現代で生きていくためには必要な技術なのです。