ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

省エネ生活を手に入れたナマコ

二酸化炭素の排出量の増加が地球温暖化の原因と言われています。真偽はわかりませんが。

人類が文化的な生活を営むと、エネルギー消費量が増大するもの。電気もガスも、現代社会からなくなれば不便すぎて生活できませんから、快適な生活を保つためには、どうしても多くのエネルギーを使わなければなりません。それが、二酸化炭素の排出量を増やす原因です。

ところで、快適な生活を送るには、必ず、多くのエネルギーを消費しなければならないのでしょうか?

いや、そのようなことはなく、エネルギー消費量を少なくして快適に生活している生物がいます。それは、ナマコです。

キャッチ結合組織を持つとエネルギーの無駄をなくせる

お正月になったら、日本人に食べられてしまうナマコは、とても興味深い省エネ戦略を採用しています。

彼らが、省エネで快適な生活を送ることができるのは、キャッチ結合組織を持っているからです。キャッチ結合組織は、動物生理学を専門とする本川達雄さんが名付けたもので、ナマコやウニなどの棘皮動物(きょくひどうぶつ)に見られます。

本川さんの著書「ウニはすごい バッタもすごい」を読むと、このキャッチ結合組織がナマコの省エネ戦略に寄与していることがわかります。

手を上に高く上げてみましょう。なんてことはない動作ですが、長時間、手を上げ続けていると腕や肩がだるくなるはずです。これは、腕や肩の筋肉を収縮させ続ける、つまり、力を入れ続けると筋肉が疲労してしまうからです。

でも、誰かに腕を支えてもらえば、楽に腕を上げ続けていられるのではないでしょうか。何らかの支えがあれば、腕は疲れにくくなります。例えば、腕の皮膚が固まってしまえば、力を抜いても、腕を上げっぱなしにできるはずです。

そう、ナマコは皮膚を硬くすることで省エネ化を図っているのです。

表皮と筋肉組織を結合している真皮、筋肉と骨をつなぐ腱、骨と骨をつなぐ靭帯、これらは結合組織と呼ばれています。そして、ナマコは、この結合組織を硬くすることでエネルギー消費を抑えているのです。硬さを調節できる結合組織が、キャッチ結合組織というわけです。

ナマコの皮の 硬さは3段階

ナマコの皮は、硬い状態、標準状態、柔らかい状態の3段階に調節できます。

硬い状態は、外敵から身を守るためだと容易に想像できます。しかし、硬いだけでは動きをとれないので、普段は少々遊びを作って動けるようにしています。

では、ナマコは、いつ柔らかい状態になるのでしょうか?

実は、皮を柔らかくするのも、外敵から身を守る時です。ナマコは、魚に食べられそうになったら毒を出して応戦します。しかし、中には、毒が通用しない魚もいます。毒が効かない魚は、ガブッとナマコに食らいつきます。この時、ナマコは、皮を柔らかくします。

皮を柔らかくすると、魚が食べやすくなるではないかと思うでしょうが、これはナマコの作戦です。引っ張られた皮は穴が空き、そこからナマコの腸が放出されます。魚は、放出された腸を食べますが、その間に本体のナマコは逃げていくのだとか。

腸を失ったナマコはやがて死ぬのだから、皮を柔らかくしても無駄に思えます。

でも、心配ご無用。

ナマコは再生力の強い生物なので、1ヶ月もすれば腸は再生するのです。

エネルギー効率は筋肉の100倍

さて、ナマコのキャッチ結合組織のエネルギー効率です。

ナマコは、皮を硬くする場合、標準状態のわずか1.5倍のエネルギー消費で構いません。また、柔らかくする場合は、標準状態の10倍のエネルギーを必要とします。

柔らかい状態の方がエネルギーを多く消費するのは意外に思えます、でも、皮を柔らかくする時は、外敵に襲われている時ですから、通常よりも多くのエネルギーを消費して逃げようとします。皮を柔らかくする時は、コラーゲン原線維をばらさなければなりませんから、これにも多くのエネルギーを使います。


では、筋肉が収縮した時とキャッチ結合組織が硬くなった時のエネルギー消費量は、どの程度違うのでしょうか?

なんとキャッチ結合組織は、筋肉の10分の1のエネルギー消費で硬くできるのです。しかも、外力に抵抗する力はキャッチ結合組織の方が10倍も強いです。

したがって、キャッチ結合組織は筋肉との比較で、エネルギー消費量が10分の1、外力に抵抗する組織量も10分の1で済むので、筋肉の100分の1のエネルギー消費でしかないのです。

ナマコの省エネ生活

エネルギー消費量が少ないナマコは、食事量も少なくて済みます。

ナマコは、砂を食べます。砂には生物の遺体が分解した有機物や菌が作ったバイオフィルムが含まれています。それらをナマコは栄養としているのです。

もしも、筋肉を持つ生物が同じように砂を食べたとしても、そこから得られるエネルギー量は極めて少ないです。それなら、胃を大きくして、たくさんの砂を体内に入れれば十分な栄養補給ができそうです。しかし、サンドバッグ化した体は俊敏に動くことができず、外敵に食べられる危険性が増すので、やはり筋肉を持つ生物が砂を食べて生きていくのは困難です。


ナマコにとって海底は天国そのもの。

そもそもナマコは砂の上に住んでいる。砂はいたるところにあり、他の動物たちが見向きもしないから食べ放題。ナマコは食べものの上にいるわけだ。これはお菓子の家に住んでいるようなもの。広大なお菓子の家をナマコは独占しており、食いっぱぐれる心配がまったくない。
(209ページ)

しかも、ナマコは、低エネルギーで生きているので筋肉が少なく、捕食者は食べても大した栄養補給になりません。そのため、外敵に襲われる危険性が低いです。

食べる心配もしなければ、襲われる心配もしなくて良い。

自らの体の省エネ化が、安全な生活をもたらしてくれたのです。


人間は、エネルギー消費量を増やして快適な生活を手に入れました。しかし、エネルギー消費の増大は地球への負荷が強くなるでしょう。人類は、どこまでエネルギー消費を増やすことができるかはわかりませんが、どこかに限界があるはずです。

ブルーオーシャンを行くナマコには、関係のない話でしょうけどね。