ウェブ1丁目図書館

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エネルギーで時間を買う人類

物理学では、エネルギーを仕事をする能力と定義します。人間にとっても、エネルギーは仕事をするために必要な活力とでも言えそうです。

一般に人間は、食物からエネルギーを補給していると考えられていますが、その他にも自動車や電化製品などを使って、ガソリンや電力からエネルギーの供給を受けて生活しています。人間が食物を食べて自前で生み出すエネルギーを消費する他に機械を動かすことでエネルギーを消費することは、仕事のスピードを上げることができるので、短時間でより多くの仕事をこなせます。

人間社会の発達は、人類がエネルギーを外部調達してきたおかげと言えます。しかし、エネルギーを使うことで、我々現代人は疲弊しやすくなっているとも考えられます。

ビジネスは時間を操作する活動

地球環境の悪化、我が国の赤字国債の山や高齢化問題などは、ますます深刻化しています。これらの問題の解決策がなかなか見当たらないのは、数学・物理学的発想が現代人の思考の根底にあるからだと指摘するのは、動物生理学を専門とする本川達雄さんです。著書の『生物学的文明論』では、生物学者の視点から、これら現代人が抱える問題をどう解決すべきかを提言しています。

現代の貨幣経済も、数学・物理学的発想が背景にあります。その貨幣経済の発展が、地球環境を悪化させる原因となっていることを多くの人が感じているでしょう。地球環境の悪化が貨幣経済に偏りすぎた人間社会に原因があるとするなら、その背景にある数学・物理学的発想で環境問題をどうにかしようとすることは難しいはず。

そこで、生物学的発想です。環境問題を解決する糸口が、生物学的発想から見つかるかもしれません。

人類が、エネルギーを外部調達し、自動車や飛行機で速く遠くに行くことは、エネルギーを使って時間を速めていると言い換えることができます。世の中にあるエネルギーを使って動かす機械は、エネルギーと時間を交換するものばかりです。

中には、エアコンのように快適に生活するためにエネルギーを使っている機械もあります。しかし、これも見方を変えれば、夏は暑く仕事なんてしていられなかった昔と比べると、一年中快適な室温で仕事ができるようになっているのですから、時間を速めていると言えます。蛍光灯やLEDなどの照明器具も、それらがなかった時代は夜に仕事をできなかったのをできるようにしたのですから、時間を速める道具と考えられます。

このようにエネルギーを消費する道具を使うことは、時間を速めるためのものなのです。そして、人類がビジネスのためにエネルギーを消費する行為は、時間を操作する行為に他ならないのです。

エネルギー消費が疲労を生み出す

動物は、種によって寿命が異なりますが、一生の間の拍動の回数はほぼ同じになると言われています。ゾウがネズミより寿命が長いのは、拍動がネズミよりも遅いからです。この拍動の速度が、動物の時間間隔に影響を与えていると考えられています。

同じ1分でも、拍動の早い動物の方が、拍動の遅い動物よりも時間が遅く流れているように感じます。寿命が10年の動物は、日本人の寿命の8分の1でしかありませんが、時間感覚は人間が80年生きるのと同等となるようです。だから、同じ1分という時間でも、動物によって流れる速度が異なって感じるのです。

日本人が1人当たり1年間に消費するエネルギー量は、原油換算で約4,000kgとされています。これは、日本人が食物から獲得しているエネルギー量の40倍の量に相当するそうです。

これを時間で考えると、日本人が消費している時間は、食物から得ている時間の約40倍を外部から調達していることになります。18世紀以前の日本社会では、ほとんどの仕事が人力でしたから、日本人が消費していた全エネルギー量は、食物から得たエネルギー量と大差ありませんでした。それが、21世紀となり、日本人は、食物から得たエネルギーの40倍ものエネルギーを外部調達して生きることになったのです。

これは、ほんの200年ちょっと前と比較すると、時間が流れる速度が40分の1になったような感覚です。このように現代日本人は、体の時間と社会の時間との間に極端なギャップが生じているから、大きなストレスを感じているのではないかと本川さんは指摘しています。原因がはっきりしていない疲労感は、エネルギーを使って極端に活動時間を短縮化していることが原因なのかもしれません。

エネルギーで時間を買うとエントロピーの増大を速める

ビジネスとは、できるだけ速くゴールに到達することと言えます。そのためには、多くのエネルギーを消費しなければなりません。

しかし、エネルギーを消費して時間を買う行為は、地球環境への負荷を高めてしまいます。万物は、時間の経過とともに無秩序化していきます。無秩序化をエントロピーと言い、エントロピー増大の法則は、熱力学第二法則と言われます。エネルギーの消費で発生した二酸化炭素地球温暖化の原因になっているのかどうかはわかりませんが、エネルギーの消費は熱を放出したり、大気汚染の原因となることから、地球環境に影響を与えることはまちがいないでしょう。


サンゴが棲む海は、貧栄養であり生物が棲むのに不利に思えます。しかし、サンゴは、褐虫藻と共生することで二酸化炭素と酸素を交換し、その他の栄養も交換して生きています。この共生関係が、他の生物の生息にも役立っています。

このような共生関係が生態系を維持しています。数学的・物理学的発想では、「4-1=3」となります。しかし、これを生態系に当てはめることはできません。ある生物の死滅は生態系全体の崩壊につながるので、「4-1=0」となり得るのです。

生態系などどうでも良いと考える人もいるでしょうが、生態系から人類が受けているサービスを貨幣価値で測定すると、全世界のGDP国内総生産)の合計に匹敵するそうです。人間の活動によって100億円のGDPを生み出しても、それにより生態系が生み出すGDPが150億円減少したなら、GDPは50億円減少することになります。

しかし、これは、数学的・物理学的発想で計算した金額です。生物学的発想の場合、ある生物の死滅があらゆる生物に影響を及ぼして生態系が破壊されますから、失われるGDPはさらに多くなるでしょう。


最近では、環境にやさしい製品やサービスが注目されるようになっていますが、それらの多くは、数学的・物理学的発想から抜け出せていないように思えます。今よりも、エネルギー消費を抑えるという程度であり、他の生物との共生により生態系を維持しようとしているようには見えません。

お金でエネルギーを手に入れ時間を買うという発想から抜け出すことが、エントロピーの増大を遅らせることになるのではないでしょうか。