ウェブ1丁目図書館

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小さなものの積み重ねが町の過疎化を防ぐ

京都府の北に綾部市という市があります。

綾部市は、小さな市で、少子高齢化で過疎が進んでいますが、近年、他の地域から注目を集めています。過疎化している町の中には、消滅の危機にあるところも多いです。ところが、綾部市では、数々の取り組みから、住民の満足度が高い町となっており、限界集落といったさびれていくだけの町とは違っています。

水源の里条例

上場企業や地方自治体の広報やマーケティングをサポートしている蒲田正樹さんの著書『驚きの地方創生「京都・あやべスタイル」』では、綾部市の取り組みや産業、代表企業などが紹介されています。どこにでもある過疎化が進んだ町が、どのようにして住民の満足度を高めているのか、興味深い事例とともに解説されています。

綾部市では、『あやべのイチバン』という小冊子を発行しており、その中で、綾部市発祥のものや綾部市がナンバーワンのものが掲載されています。

綾部市発祥のものでは、合気道上杉謙信で有名な上杉家、肌着などを製造しているグンゼなどがあります。また、ナンバーワンのものには、精密ねじの生産力世界一の日東精工、日本最大級の口径95センチの反射望遠鏡保有する天文館パオなどがあります。また、オンリーワンのものとして、京都府内で唯一国の登録有形文化財になっている由良川に架かる道路橋があります。

これら、発祥、ナンバーワン、オンリーワンは、住民の誇りにつながっていきます。

そして、綾部市が初めて制定し、綾部モデルとして全国に広がっていった「水源の里条例」も住民の満足度を高めています。

人が少ない地域が、若い人を増やす努力は大切でしょう。しかし、若い人を増やしても待機児童問題など、様々な問題を抱えることになり、これでは、住民の満足度は上がりません。それよりも、その地域には、他にはないお宝がいっぱいあることを住民に気づかせた方が満足度が高まります。それが、水源の里条例の意義です。

例えば、市茅野(いちがや)集落では、昔からシャガの花がたくさん咲いており、数十万株が群生していました。これを観光資源としてアピールしたことで、テレビが取り上げ、その後、京都、大阪、神戸から多くの人が訪れるようになったそうです。また、フォトコンテストの開催やコミュニティナースを育成するなど、綾部市は、住民の満足度を高める施策を進めています。

自給自足と現金収入の両立

綾部市の取り組みの中で注目したいのが、「半農半X」というライフスタイルです。

半農半Xは、自分が食べる食料は自給自足し、それとは別に現金収入を得るための仕事を持つというものです。これは、農業専従者になることを目指すものではなく、自分の食い扶持を確保して、何か他にできることを模索しようとするライフスタイルです。

「半X」のXは、何でも構いません。例として、著述業、経営コンサルタントイラストレーター、ケーキ職人、パン職人、保育士などが挙げられています。

商売として農業をする場合、様々な縛りがありますが、自分が食べる分だけを育てるのであれば、作物の形が悪いとか少々の不具合は許容できます。半農は、土地を借りたり買ったりすれば、すぐに始められます。問題になるのは、現金収入を得るための半Xです。

今は、インターネットの普及で場所を選ばずに仕事ができるようになっています。また、リモートワークも進んできているので、都市部に住まない働き方も社会的に認知されてきています。しかし、そのような働き方ができるのは、特殊な仕事であることも否定できません。それでも、綾部には、半農半Xの実践者や成功者がいるので、自分に当てはめて考えてみれば、そのようなライフスタイルを実現できる可能性はあります。

半農半Xの実現には、考え方を改めることも必要です。

「吾(われ)、唯(ただ)、足るを知る」という言葉があります。これが足りないとか、あれがあったらいいな、とばかり考えていると、欲望は際限なく膨らんでいきます。そうではなく、今あるもので、まわしていく、満足するといった暮らしを目指せば、半Xの実現のハードルが下がります。そのためには、「吾、唯、足るを知る」の精神を持つことが大切です。

そして、「いくつもの “スモール” を積み重ねる」発想も必要とのこと。1つのことで大きく稼ぐのではなく、小さな仕事をいくつも持ち、小口の収入を足していって、生活できるだけの収入を得るという発想です。複数の仕事を持つことで、1つの仕事がなくなっても、失われる収入は、それほど大きなものではありません。


地域の過疎化を防ぐためには、住民の数を増やすことだと考えるだけでは、過疎化を食い止めるのは難しいのではないでしょうか。

地域の誇りとなるものを見つけること、半農半Xのようなライフスタイルを提案し実践することなど、今いる住民の満足度を高めることこそ優先されるべき施策だと思います。子供が増えれば社会が良くなると考えているだけでは衰退していくだけです。