ウェブ1丁目図書館

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多くの企業が参考にすべきビジネスモデルは巨大IT企業ではない

情報技術(IT)を活用した企業が、現代の人々の暮らしに大きな影響を与え、そして、巨額の利益を得ています。特にアメリカ発のIT企業は、世界中でビジネスを展開し、大成功を収めています。

ビジネスで成功するための手本として、それらアメリカ発の巨大IT企業が取り上げられることが多くなっていますが、日本国内でも、個性的な方法で成功している企業はたくさんあります。

巨大IT企業の真似は、そうそうできないので、参考にするのが難しいです。でも、日本国内で活躍している企業は、おもしろい発想を愚直な検証でビジネスに育てているので、そのアイディアを参考にして自社のビジネスに応用しやすい面があります。

ファンをコーヒーの営業マンにしたネスレ日本

東京理科大学大学院教授の宮永博史さんは、著書の『ダントツ企業』で、7つの企業を紹介しています。どの企業も、超高収益を生み出していますが、その手法は他の企業も参考にできる点がいくつもあります。

ネスカフェゴールドブレンドというコーヒーやキットカットというチョコレートは、多くの人が一度は飲んだり食べたりしたことがあるでしょう。それらを製造販売しているネスレ日本では、多くの人がコーヒーを飲む機会を増やすためのネスカフェアンバサダーというビジネスを手掛けています。

以前は、コーヒーは、自宅か喫茶店で飲むものでした。それが、現在では、自動販売機やコンビニの登場で、どこでもいつでも手軽にコーヒーが飲めるようになっています。このような状況でコーヒーをさらに売るのは難しく思えます。

しかし、コーヒーの需要はまだあるもので、職場でもコーヒーを飲みたいと思っている人に対して、ネスレ日本は、コーヒーを売り始めます。それが、ネスカフェアンバサダーです。

アンバサダーは、コーヒーの営業や販売を行う人ですが、ネスレ日本で雇われていたり代理店契約をしているわけではありません。完全なボランティアで、ネスレ日本の営業を行っています。そんなことする人がいるのかと思いますが、ネスレのファンであれば、それをしてくれる人がいます。

アンバサダーは、専用のコーヒーマシンを無料でネスレ日本から借り、定期的にネスレ日本からコーヒーを仕入れ、代金を支払います。職場に置かれたコーヒーマシンにコーヒーを補充する手間も、代金を回収する手間も、すべてアンバサダーが負担するので、ネスレ日本はリスクを負いません。

高価なコーヒーマシンを無料で貸すという点がミソです。ネスレ日本は、コーヒーマシンではなく、コーヒーを売ることを優先しています。だから、多くの人においしいコーヒーを飲んでもらうためにコーヒーマシンを無料で貸すという発想が生まれたんですね。

稼働率99.99%のATM

今では、コンビニにATMが設置されているのは当たり前ですが、21世紀になるまでコンビニにATMはありませんでした。

最初にコンビニにATMを設置したのは、セブン銀行でした。セブン-イレブンのお店に行けば、セブン銀行のコンビニが置いてありますし、駅でも見かけるようになっています。

セブン銀行の店舗はどこにあるのか。そして、セブン銀行普通預金口座はどうやったら開設できるのか、セブン銀行からお金を借りるにはどうすれば良いのか。

こんな疑問を持った人がいるかもしれませんが、セブン銀行は、預金者から資金を集め融資するといった業務は一切行っておりません。セブン-イレブンなどに設置されたATMから得られる手数料がセブン銀行の収益となっています。その営業利益率は、2017年2月期でなんと24.8%もあり、コンビニ事業の12.3%の2倍にも達しています。

ATMを利用した時の手数料は、利用者が負担することもありますが、基本的に利用者がお金を引き出した口座がある銀行が負担します。例えば、利用者が、みずほ銀行の預金口座からお金を引き出した場合、みずほ銀行セブン銀行に手数料を支払うようになっています。

このようなビジネスモデルであることから、ATMの利用回数を増やすことが、多くの収益を獲得するための手段となります。そのためにATMに不具合が発生しないようにしなければなりません。そして、ATMに現金を十分に補充することも重要になってきます。

セブン銀行の利用者が増えれば増えるほど、ATMから現金が減っていくスピードが速くなります。そうすると、現金の補充の間隔が短くなり、何度もATMを止めて現金補充作業をしなければならなくなります。これでは、利用者を増やすほど、現金補充の費用が掛かってしまい、利益が削られてしまいます。

そこで、セブン-イレブンの店舗の売上金をセブン銀行のATMに入金することにしました。これにより、ATMの現金の減少スピードが遅くなり、稼働率を上げることができました。また、セブン-イレブンの店舗も、レジの現金をATMに入金することで、わざわざ銀行に現金を持っていく必要がなくなりました。

この仕組みにより、現金補充は2週間に1回程度に削減することが可能になり、ATMの稼働率99.99%に上げることができました。

コンビニにATMがあると便利なのにという消費者の要望に応えた結果、どの銀行のATMよりも利便性が良くなったのです。


本書では、他にも、大手家電メーカーの早期退職者を雇い家電業界に殴り込んだアイリスオーヤマ、未経験者をドライバーに雇いサービスの質を向上させた中央タクシー、ピンポイントで天気予報を提供するウェザーニューズ半導体ウエハーの切削と研磨で高い技術力を持つディスコ、スマホのCPU市場で95%のシェアを持つARMの事例が紹介されています。

巨大IT企業のビジネスモデルは、ほとんどの企業にとって参考にしたくてもできませんが、本書で紹介されている企業の事例は、多くの企業のヒントになるはずです。