ウェブ1丁目図書館

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部長は短気だから怒るのか

ある行動をする時、そこには何か理由があるもの。

部長が、部下を叱りつけているのを見ると、「あの部長は短気だから」と、その理由付けをするのではないでしょうか。毎日、遅刻している同僚を見て、彼はだらしない性格だから遅刻するんだろうなと思ったこともありませんか。

ある人の行動に対して、なぜ、その行動をしたのかを考える時、行動した人の性格を理由とすることが多いと思います。

性格が行動の原因となっているのであれば、問題行動を改善することは非常に難しいでしょう。あの人の性格だから仕方ないと割り切るのは一つの手ではありますが、やはり、問題行動をどうにかして止めてもらいたいと思うのであれば、何らかの工夫をしなければなりません。

行動とは何か?

問題行動と述べましたが、そもそも行動とは何なのでしょうか。

自らの意思で体を動かしていれば、他人の視線では、それは行動しているとなります。では、頭の中で何かを考えている状態は行動ではないのでしょうか。呼吸は行動ではないのでしょうか。考えていくと、行動とはどういう状態なのかわからなくなってきます。

行動分析学を専門とする杉山尚子さんの著書「行動分析学入門」では、オージャン・リンズレーが唱えた行動の定義が紹介されています。それによると、「行動とは、死人にはできない活動のことである」ということです。

この定義に従えば、生きているものだけができる活動が行動となります。「怒る」ことは、生きているものにしかできないので行動です。しかし、「怒らない」ことは、生きている人にもできますし、死人にもできるので行動ではありません。同じように「車にひかれる」、「上司にほめられる」、「静かにしている」も死人にできることなので行動ではありません。

行動の定義がわかったところで、部長が怒らないようにするにはどうすれば良いかを考えます。最も簡単な方法は、部長をこの世から葬り去ることです。怒らないことは死人でもできる行為だから、部長を亡き者にすれば、二度と怒られることはありません。行動分析学では、このような方法を抹殺法といいます。しかし、抹殺法は、問題解決の最良の方法とは言えないでしょう。

性格を変える

抹殺法が使えないとなると、部長の短気な性格を変える努力をしてみましょう。

しかし、ここで一つの疑問がわいてきます。

部長は短気だから怒るのですが、怒るから短気だとも言えなくもありません。そうすると、短気とは、怒るという行動に対してつけられた「名前」や「ラベル」と言うことができます。このように行動に対してラベルを貼ることを行動分析学では、ラべリングといいます。

短気とは、怒る行為に対して貼られたラベルである以上、短気という性格が、怒るという行動の原因だと説明することはできません。したがって、部長が怒らないようにするにはどうすべきかの問題は、他に解決策を求めなければなりません。

行動の直後に注目

部長が怒ると、その直後に何が起こるでしょうか。

それを考えることが、部長が怒る原因を見つけることになりそうです。

部長が部下を怒った後、部下が仕事でミスをしなくなりました。もしかして、部長は、部下が仕事でミスをしなくなることを期待して怒っているのではないか、そう思いませんか。


部長が怒る➡部下がミスをしなくなる


このような行動のすぐ後、あるいは行動と同時に起こる状況の変化と行動との関係を行動随伴性といいます。

行動随伴性に注目すると、何が原因で行動をするのかが見えてきます。

部長が怒るのは、部下が仕事でミスをしなくなるからだと推測すると、部長が怒る前は部下が仕事でミスをしている状態だと考えられます。実際に怒られる前に部下が作成した書類を見ると、書類に誤字脱字が多くありました。ところが、部長に怒られた後に作成した書類には、誤字脱字がありませんでした。

これでどうやら、部長は、部下が作成する書類に誤字脱字が無くなるように怒っているのだと推測できます。


書類に誤字脱字がある➡部長が怒る➡書類に誤字脱字が無くなる


しかし、これだけでは、まだ部長が書類に誤字脱字が無くなるのを期待して怒っているのかどうかはわかりません。そこで、部下が作成した書類を部長に渡す前に誰かが確認して誤字脱字を修正してから提出してみました。すると、部長は怒りませんでした。

でも、まだ部長が怒る原因が、書類の誤字脱字かどうかはわかりません。部長が怒らなかったのは、たまたま機嫌が良かったからかもしれないからです。

だから、今度は、わざと誤字脱字のある書類を部長に提出してみました。すると、部長は再び烈火のごとく怒りだしました。これでどうやら、部長は書類の誤字脱字がなくなるように怒っていたのだなと判断できました。


行動分析学は、行動の法則を明らかにして、行動の問題を改善していこうとする実践的な学問です。

短気だから怒ると決めつけていては、行動の問題を改善できません。「部長はAB型だから」と血液型のせいにすると、そもそも部長の存在が行動の問題となってしまいます。それこそ、抹殺法を使うしかなくなります。

行動の原因を見つけるためには、行動の直後の状態を観察すること、すわなち行動随伴性に焦点を当てることが大切です。