何をやっても長続きしない。
こういう気持ちは、多くの人が持っていると思います。実際には、長続きしていることがあるはずですが、すぐにやめてしまったことを思い出しては、「自分は何をやっても長続きしない人間なんだ」と自分自身にレッテルを貼っているのかもしれません。
長続きしない原因は何かを考えてみると、多くの場合、「すぐに結果が出なかったから」という答えにたどり着くのではないでしょうか。この「すぐに結果が出なかった」ということが、実は重要なことなのです。
行動の結果は60秒までに起こることが大切
「行動の結果は直後に起こる(行動に伴う)ことが大切である」と説くのは、専門行動療法士で臨床心理士である奥田健次さんです。
奥田さんの著書「メリットの法則」では、直後とは、行動が起きてから60秒までが目安になると述べられています。この60秒は、莫大な動物の行動実験から明らかにされたものです。
長続きしない行動の代表と言えば、ダイエットでしょう。ダイエットが長続きしないのは、ダイエットを始めて60秒後に結果が出ないからです。食事量を減らす、運動をするという行動を1ヶ月、2ヶ月と続けて、やっと体重が減るものです。
何をやっても長続きしない原因は、「行動の直後に結果が出ないから」というなんともシンプルなものだったんですね。
それなら、行動の直後に結果が出るような仕組みを作ってしまえば、長続きできるはずです。
長続きさせるための仕組みで、身近なものはポイントカードです。コンビニでも家電量販店でも、来店して買い物をすればポイントが貯まる仕組みは、買い物という行動の直後にポイントが貯まるという結果が起こります。再来店しやすくなるのは、行動の直後に結果が出ているからなのです。
しかし、ポイントを貯めても、10万円分のポイントが貯まるまでは、景品と交換できなかったり買い物にポイントを使えない条件であれば、あまりにハードルが高いのでポイントを貯めようと思わなくなります。だから、100円や200円など、ゴールにたどり着ける程度のハードルを設定することが大切です。
アメを与える
「アメとムチ」という言葉を聞いたことがあると思います。
行動の結果が良ければメリットを与えるのがアメ、行動の結果が悪かったらデメリットを与えるのがムチです。スポーツ選手や労働者の管理には、時にアメとムチを使い分けるのが効果的だと言われることがあります。
ある行動を長続きさせるためには、行動の直後に結果が出ることが望ましいです。良い結果が出た時には直後にアメを与えると、スポーツ選手でも労働者でも、やる気が持続しやすくなります。
では、悪い結果に対してムチを与えるとどうなるでしょうか。
「メリットの法則」に興味深い例が紹介されていました。
あなたは、携帯電話のアプリを起動させようと思っています。でも、どこを押せばアプリが軌道するか忘れてしまいました。そこで、試しに画面に表示されているたくさんのアイコンの中から1つを選んで押してみました。しかし、アプリは起動しません。
アイコンを押す前後で、アプリが起動していないという状況に変化はありません。この場合、あなたはどうするでしょうか?
おそらく、今度は別のアイコンを押してみるはずです。それでも、目的のアプリが起動しなければ、次々とアイコンを押して行き、最終的に目的のアプリの起動に成功することでしょう。
このようなことを日々行っていれば、やがて、「目的のアプリの起動にはこのアイコンを押せばよい」と理解し、その後はすぐにアプリを起動させられるようになります。
上の例では、アプリが起動したという結果はあなたにとってアメです。では、ムチは何でしょうか?
ムチは、アプリの起動に失敗した時に振るわれます。しかし、上の例では、アイコンを押してアプリが起動しなくても、ムチが振るわれることはありませんでした。それにもかかわらず、あなたは目的のアプリが起動するまで、何度もいろんなアイコンを押す行動をやめませんでした。
これはいったいどういうことでしょう。
もう気付いていると思いますが、人間も人間以外の動物も、アメを与えれば行動が強化されるので、ムチを振るう必要はないのです。
仮に上の例で、間違ったアイコンを押した時に携帯電話から電流が流れる罰が与えられたらどうしますか。電流の苦痛に耐えて正解にたどり着くまでアイコンを押し続けるでしょうか?おそらく、多くの人は、電流の苦痛を味わうくらいなら、アプリは起動しなくても構わないと思うのではないでしょうか。
つまり、ムチをビシビシ振るって行動させようとしても、ムチを振るわれた方は、ますます行動の意欲を失っていくのです。
好ましい行動をしてもらうためには、アメだけを与えれば良く、ムチは必要ありません。
ムチには副作用がある
行動分析学では、ムチが良い結果を導かないだけでなく、ムチの副作用についても熟知されています。
ムチの副作用には、以下のものがあります。
- 行動自体を減らしてしまう
- 何も新しいことを教えたことにならない
- 一時的に効果があるが持続しない
- 弱化(ムチ)を使う側は罰的な関わりがエスカレートしがちになる
- 弱化(ムチ)を受けた側にネガティブな情緒反応を引き起こす
- 力関係次第で他人に同じことをしてしまう可能性を高める
ムチの効果は一時的には発揮されても持続しません。そして、ムチを振るわれた方は行動自体を減らしてしまいます。
アメは高い効果をもたらしますが、ムチは大した効果を発揮しないばかりか多くの副作用をもたらします。動機づけには、良い結果にはアメを与え、悪い結果にはアメを与えないだけで良いのです。
行動分析学の法則は、とてもシンプルです。しかも、非常に高い効果をもたらします。
奥田さんは、不登校の児童を何人も登校させることに成功していますが、その方法は行動分析学に基づいたシンプルなものです。不登校に限らず、様々な問題は意外とシンプルな方法で解決するのかもしれません。
さて、景気が悪いのは消費が冷え込んでいるからだという言葉を聞いたことがあると思います。これは、正しいでしょうか。
きっと、消費の冷え込みが景気の悪化と考えている限り、循環論に陥り、景気が良くなることはないでしょう。行動分析学は、循環論に陥らずに問題を解決する術を我々に提示してくれています。
- 作者:奥田 健次
- 発売日: 2012/11/16
- メディア: 新書