ウェブ1丁目図書館

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家事は手抜きしてなんぼ

家事は、日常生活を快適に過ごすために欠かすことができない仕事です。しかし、仕事と言っても、自宅の家事をしてお金がもらえることはほとんどないでしょう。

家事はきちんとしなければならないという認識を多くの人が持っていると思います。そして、家事の担い手は女性だという認識も日本社会に根強く残っていると思います。

最近では、家事は夫婦で分担するものだとの認識も広まっていますが、まだまだ日本社会では、家事の大部分を女性が担っている状況です。

古き良き日本の幻想

日本社会で、女性が家事の主要な担い手として強く意識されるようになったのは、昭和の高度経済成長期からのように思います。

フリーの翻訳家である佐光紀子さんの著書「『家事のしすぎ』が日本を滅ぼす」を読むと、そのように感じるわけですね。

明治41年に文部省検定を受けた「修訂三版家事教科書」という教科書があり、ここに主婦の心得が記されていたそうです。その中には、衣服のたたみ方などの家事の仕方が事細かく紹介されているのですが、主婦の心得は「一家の管理」だったようです。

一家の管理とはどういうことでしょうか。

それはつまり、使用人を雇って家事をさせるので、使用人の監督こそが主婦の心得とされていたのです。なるほど、使用人を雇うことを前提とした教科書だったんですね。庶民には、まったくもって関係のない話です。

しかし、戦後は使用人を雇う家庭は減り、高度経済成長期には核家族化も進んでいきました。その頃には、掃除機や洗濯機も登場し、戦前と比較して家事の手間は減りました。だからと言って、人が家事をしないわけではありません。

高度経済成長期は、父親が外でモーレツに働き、妻がそれを支えるのが当たり前という風潮が広まり、主婦が家事の主要な担い手となりました。

別に家事の手を抜いても構わないのですが、戦前の家父長制を維持しようという意図があったのか、政府は戦前の「伝統的な家事」のあり方を核家族に求めたようです。使用人がいない核家族では、全ての家事を主婦が引き受けざるを得なかったのでしょう。

温かい朝食と毎食後の食器洗いへの疑問

温かい朝食を推奨することは、家事の手間を増やします。一昔前まで、朝食は晩御飯の残りをお茶漬けにするか、卵かけご飯にして食べるかが定番でした。そう、温かい朝食は、つい最近食べるようになったのです。

海外でも、カフェオレとクロワッサン、シリアルと牛乳といったように簡素な朝食が悪いという風潮はなさそうです。

ところが、日本では、朝食をしっかり食べることを美徳とし、朝食を食べている家庭の子供の方が学力が高いと言い出す始末。でも、2015年のOECDの調査結果では、日本の子供の科学リテラシーは2位、数学的リテラシーは4位とのことですから、温かい朝食を食べない子供がいることを考えると、まずまずの順位ではないでしょうか。ちなみにトップはシンガポールで、朝も夜も外食という人が少なくないようです。


また、食器洗いについては、洗剤メーカーのアンケートによれば、1日3回以上食器を洗う人の割合は55.5%だったそうです。約半分が毎食後に食器を洗い、約半分が毎食後に洗わない場合もあるということですね。

毎食後に食器を洗っていると手間がかかりますから、2食分や3食分をまとめて洗った方が時間の節約になるのですが、食器は毎食後に洗うのが当たり前という感覚が日本では根付いているのでしょう。ちなみにイギリスでは27.3%、アメリカでは8.3%、スウェーデンでは7.7%が毎食後に食器を洗っているそうです。世界的に見れば、毎食後に食器を洗うことの方が珍しいようです。

ちなみに日本でも昭和の初めまでは、毎食後に食器を洗う習慣はなかったとのこと。毎食後に食器を洗うべきだという考え方は、比較的最近になって日本社会に根付いたようです。

子育ては女性の役割という刷り込み

主婦にとって最も重要な仕事と思われているのは子育てではないでしょうか。

中学校、高校、大学と進学させ、良い会社に就職させて日本の経済成長に貢献する子育てを母親に要求してきたのが日本社会です。

母親は、周囲から常に良い母親であることを期待されます。子供に持たせる弁当は食べ切ることができる量にするとか、宿題は必ずやっていくように指導するとか、とにかく母親がやるべきことが多すぎるのです。

女性に子育ての負担が重くのしかかるのですから、女性が働くことが難しい環境を日本社会が作っていたと言えます。働くのは男性で、女性はそのバックアップと子育て。女性が徐々に働くようになり、共働きの家庭が増えると、それが家庭環境の低下や弱体化の原因だとし、子供の人格形成に悪い影響を与えていると言いだすのですから、日本社会は女性が働くことを望んでいないのでしょう。

そもそも、子供を良い会社に就職させて日本の経済成長に貢献させようと言うのなら、子育ての中心が専業主婦では難しいのではないでしょうか。仕事をし、ある程度のキャリアを積んだ人が子育てに参加した方が、日本の経済成長に良い影響を与えると思います。

また、女性が子育てをする場合でも、ある程度の年齢に達してから第一子を出産した方が良いでしょう。確かに高齢出産は母親の体に負担がかかりますが、ある程度のキャリアを積んでから出産した方が職場復帰をしやすく、子育てにもゆとりができます。収入も安定しているので、夫が育児休暇を積極的に取ることができ、子育ての分担もしやすくなるでしょう。


これまでの日本社会は、女性に家事や子育ての大部分を押しつけてきました。それも、「きちんと」家事をこなすことを要求していました。

これでは、女性は無償の家政婦でしかなく、キャリアを形成することは不可能です。女性の社会進出を考えるのであれば、家事の簡素化や外注化を当たり前のものとして受け入れ、男性も家事や子育てに参加する必要があるでしょう。


最後に本書を読んで興味深く思ったのが、できるだけ物を持たない生活をするミニマリストが女性に多いという佐光さんの指摘です。日本社会では、女性に「きちんと」することを要求し、逆に男性にはそれをあまり要求してきませんでした。

女性の部屋が散らかっていると恥ずかしいことだと言う人は多いですが、男性の部屋が散らかっていても、それほど悪いことのようには言われません。

女性は、子供の頃から「きちんと」することを周囲から要求されてきたため、整理整頓をしなければならないという意識が強くなるのかもしれません。日本では断捨離中だと言うと褒められるけど、アメリカでは自分がミニマリストだと言うと変人扱いされるそうです。

部屋が散らかっていてはいけないというしつけが、女性に必要以上に家事をしなければならないと思い込ませているのかもしれません。

家事なんて手間がかからないように手を抜きながらやれば良いのです。

「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす (光文社新書)

「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす (光文社新書)