ウェブ1丁目図書館

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日本に住み続けるためには火山と上手に付き合うしかない

2022年1月15日にトンガで火山が大噴火しました。

あのような大噴火が、人がたくさん住む地域で起こっていたら、どれだけ多くの犠牲者が出たか想像もつきません。

ところで、現代の日本では、火山の大噴火が起こると思っている人は、とても少ないのではないでしょうか。20世紀に日本で起こった大噴火は、1914年の桜島と1929年の駒ケ岳の2回だけなので、日本で火山が大噴火することを想像できないのは当たり前と言えそうです。しかし、世界有数の火山帯である日本列島に住む限り、地震とともに火山の噴火は避けることができない自然災害なのです。

日本は世界有数の火山国

火山の噴火は、それ自体による被害も大きいですが、その後、長期間に渡って様々な影響を人類にもたらす点でも厄介です。例えば、江戸時代に起こった浅間山の噴火は、多くの餓死者を出しています。

地震学を専門とする島村英紀さんの著書『火山入門』によると、日本には、活火山だけで110あまりもあり、陸上にある火山の7分の1が集まっているそうです。そして、地震では、マグニチュード6を超える大地震の22%が日本に集中しています。日本は、世界有数の火山国であり、地震国なのです。

日本が、地震国だと言われてその通りだと思う人は多いですが、火山国だと言われてもあまり実感がありません。先にも述べたように20世紀に起こった大噴火は2回だけで、しかも、その時代に生きていた人のほとんどがすでに他界しているため、日本が火山国だとの実感がわいてこなくても仕方がないのかもしれません。

日本には、東日本火山帯西日本火山帯の2つの火山前線があり、活火山はこの火山前線の上に並んでいます。そのため、東日本に住んでいても、西日本に住んでいても、噴火の脅威から逃れることはできません。

江戸時代は火山の噴火が多かった

1783年(天明3年)に起こった浅間山の噴火では、約1200人の地元の人が犠牲になりました。そして、この噴火が原因で東北地方で多くの餓死者を出しました。

不幸なことに同年には、アイスランドラキ火山も噴火し、大量に出た火山灰が世界全体の気候を変えてしまいます。その異常気象が食糧不足を招き、1789年のフランス革命のきっかけを作りました。

ラキ火山の噴火の影響は日本にもおよび、浅間山の噴火とともに食糧不足を起こし、6年間も天明の大飢饉が続きました。全国での餓死者は推定で6万人と伝えられています。

また、1792年(寛政4年)に起きた普賢岳の噴火では、有明海を挟んだ20キロメートル離れた対岸の熊本県を大津波が襲い1万5千人もの死者を出しています。1822年(文政5年)の北海道の有珠山の噴火では火砕流が出て約100人が亡くなっています。

さらに離島で火山が噴火したこともあり、1785年(天明5年)に起きた青ヶ島の噴火では130~140人が死亡しています。1902年(明治35年)の伊豆鳥島の噴火では島民125人全員が死亡しました。伊豆鳥島の噴火は、噴火した日がはっきりせず、島の外では噴火に気づかなかったそうです。

世界に目を向ければ、1815年のインドネシアのタンボラ火山の噴火では1万人が死亡し、その後の食糧不足や疫病の流行を含めると死者は9万人にも上ります。イタリアのポンペイでは、西暦79年にベスビオ火山からの火砕流で約2千人が犠牲になりました。

火山噴火の被害は思わぬところにも出る

火山の噴火による被害は、火砕流や土石流が街を飲みこんで破壊するものを想像しますが、上で見たように気候変動を引き起こし餓死者を出すといった被害も歴史的によく見られます。

また、現代社会では、これらとは違った被害も報告されるようになっています。

例えば、航空会社の飛行機。ある大手会社の統計で飛行機の操縦席の前方窓ガラスの交換が、1980年は月に数枚程度だったのが、1982年の後半から1~2年の間は、1社だけで月に40~50枚にも増えたそうです。その原因は、メキシコのエルチチョン火山の噴火です。

エルチチョン火山が吐き出した火山灰は、1万6千メートル上空に到達し、風に乗って世界を取り巻きました。そして、数ヶ月後にはゆっくりと火山灰が降りてきてジェット機が飛ぶ成層圏に漂い始めます。火山灰は、鋭利な石英の粉のため、飛行機の前方窓ガラスをヤスリをかけたように傷つけました。さらに火山灰が飛行中の飛行機のエンジンを停止させるトラブルまで引き起こすこともありました。

島村さんは、もしも富士山が噴火したら火山灰の影響が首都圏に出るだろうと予想しています。

火山灰がわずか1ミリ積もっただけでも道路や滑走路の白線が消えたり、鉄道の線路の切り替えができなくなったりして、交通は大混乱するだろうし、空港も閉鎖される。また、電線がショートして送電が止まる。そのうえ雨が降ると道路は滑りやすくなるし、電線にくっついた火山灰が水を含んで重くなり、電線を切ってしまう恐れもある。
(中略)
また、コンピューターやハードディスクなど精密機械に火山灰が入ると動作しなくなる。現代では多くのものがコンピューターで制御されているから、たとえば電気だけではなくガスや水道の供給や、多くの産業活動も影響を受けてしまう可能性が高い。(139ページ)

火山の噴火は、地震と同じような被害をもたらすだけでなく、火山灰が降ってくるので地震以上に我々の生活に長期に影響を与える可能性があります。特に精密機械が使えなくなると、現代日本では生活が立ち行かなくなる人が続出するでしょう。キャッシュレス決済ができず困るお店や人も増えるに違いありません。

噴火の予知は難しい。

火山の噴火による被害を小さくするためには、噴火の前兆を知り、すぐに避難行動に移ることです。

しかし、現代の科学では、火山の噴火を予知することは極めて難しく、噴火を当てることはできないと言っても過言ではありません。科学が発達した現代でも、マグマの動きを詳細に予測できませんし、噴火にいたる段階も学問的に明らかにされていません。地下で何が起こっているのかがはっきりとわかっていないのです。

だから、火山の噴火の前兆を理論的に明らかにすることはできず、過去の経験に頼った予知しかできません。その過去の経験による予知でさえ、噴火の前兆を言い当てた例が少ないので、精度の高い予知は期待できない状況です。

1929年の駒ケ岳の大噴火から約100年の間、大噴火が起こっていないから安心だろうと思うかもしれませんが、これは、今までの日本の火山の歴史から見ると異常な状態であり、いつ大噴火が多発する普通の状態に戻っても不思議ではありません。むしろ、地球物理学的には、噴火が多い普通の状態に戻ると考えるのが自然とのこと。

このように火山の入門的な知識を知ると、日本がいかに危険な火山地帯であるかがわかります。

でも、日本は、火山の恩恵を受けてきたのも事実です。

将来的には、火山のおかげで、地熱発電で電力需要を満たせるようになるかもしれません。火力も原子力も使わないで発電できるのですから、今よりもクリーンで安全なエネルギー供給が期待されます。

昔も、そして、これからも、日本に住む限り、火山と上手に付き合う宿命から逃れることはできないのです。