ウェブ1丁目図書館

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生産性の向上とは時間を生み出すものに投資すること

企業の生産性を向上させる施策には様々あります。

その中でも、よく耳にするのが、これまで複数の人数で行っていた作業を1人でできるようにすることです。ワンオペとよく言われていますね。例えば、お店の店員が3人だったのを1人にするというのが、よく見られるワンオペです。

ワンオペは、作業人数を減らしても業務に支障が出ないので、確かに作業効率が高まっています。しかし、人員削減による効率化を生産性の向上と考えるべきではありません。

企業にとっての生産性とは何か

日本ファイナンシャル・プランナーズ協会理事の熊野英生さんは、「ひとりの個人が仕事の仕方を工夫するメソッドを『生産性上昇の方法』と称していることに疑問を抱く」と著書の『なぜ日本の会社は生産性が低いのか?』で述べています。

個人の力量に頼るのは、日本の組織の悪弊とも言えます。生産性は、組織やチームの成果であって、個業ではなく協業の効果としての最大化が求められます。ワンオペは、個業であり、組織やチームの成果とはいいがたいです。

ここで生産性とは、以下の式で表したものです。


生産性=アウトプット/インプット


インプット1単位で多くのアウトプットを生み出している状態を生産性が高いと表現します。アウトプットは企業が生み出した付加価値で、インプットは投入したコストです。コストは人件費もあれば、機械や設備の減価償却費、水道光熱費、交通費なども含まれます。

1990年代のバブル崩壊以降、日本企業は、分子のアウトプットを増やすことよりも、分母のインプットを減らすことに注力してきました。これが、長期的視点で見ると日本企業の生産性を低下させてきた原因であると熊野さんは指摘します。

協業の効果を重視するのが経営学の発想であり、それこそが、生産性向上のカギとなるのです。

固定費の削減ばかりを意識すると生産性は下がる

1単位のコストから、より多くの付加価値を生み出すためには以下の3点を意識する必要があります。

  1. 変動利益(限界利益)の拡大
  2. 売上数量の増加
  3. 固定費の削減


「2」の売上数量の増加は誰でもわかると思います。売る商品の数量を増やせば利益も増加します。「1」の変動利益の拡大は、商品1個当たりの利益を増やすことです。販売価格を引き上げたり、コストダウンをすることで変動利益は増やせます。

「3」の固定費の削減も付加価値の増加に貢献します。しかし、固定費には、機械設備などの減価償却費や人件費が含まれているので、これらを削減することは長期的な生産性の向上にはつながりません。

例えば、1時間に製品を100個生産できる機械設備を導入しても、時間が経てば他社もそれを導入し優位性がなくなります。さらに1時間に200個生産できる機械設備が登場した場合には、現在の機械設備は陳腐化し、優位性どころか、それを使うことで企業の生産性を悪化させてしまいます。なぜなら、新機械設備を導入した場合と比較し、古い機械設備では製品単位当たり減価償却費が多くなり、同じ製品を生産していても、より多くの原価が発生するからです。

新機械設備の導入で、製品の性能まで向上すれば、品質の面でも他社より見劣りしてしまいます。

一見、固定費の削減は付加価値を高めるように思えます。しかし、それは短期的な効果でしかなく、長期的な生産性の向上を考えると、固定費を抑えることばかり考えず、投資をした方が有利となります。

投資には、機械設備などの物的投資と人的投資があります。

日本の人的投資を3とすると、欧州は8、米国は6となるとのこと。熊野さんの試算によれば、米国並みの人的投資にすれば、日本企業の生産性は1.5倍にできるそうです。

かつての日本企業は、職場内訓練(OJT)に力を入れていました。しかし、最近では個人のスキルアップに力を入れるようになっています。個人の能力は、昭和の労働者よりも格段に向上しているのですが、チームの一員として働く協業が疎かとなっていることで組織全体の生産性が高まって来ないのです。

熊野さんは、生産性に関する書籍の多くは個人のスキルアップの指南書だと気づいたそうです。これらは、それなりに役立ちますが、どんなに個人の能力を高めても、企業の機能やビジネスモデルが変わらなければ、生産性は大きく向上しないと主張します。

時間を作る

ドラッカーは、成果を上げる者は、時間が何にとられているかを明らかにすることからスタートすると述べています。スタート地点は、仕事でもなく、計画でもなく、非生産的なことに費やしている時間を見つけることだと。

非生産的な活動を省き生まれた自由時間を使って、新たな成果を上げるための工夫をすることが明日への投資となるのです。

手洗いの技術をどんなに高めても、洗濯機以上に時間を節約することは不可能です。それなら、洗濯機を購入し、これまで手洗いに使っていた時間を別のことに充てた方が有意義な時間を過ごせます。これは、現代人なら当たり前の感覚として持っていることです。

ところが、日本企業の活動になると、なぜか、洗濯機を買わず、個人に手洗いの技術の向上を要求します。

生産性の向上は、時間を生み出すことで可能となります。そのためには、物的投資も人的投資も必要になります。しかし、長引く不況で、日本企業は経費の削減こそが生産性の向上だと考えるようになってしまいました。

自動車や新幹線は、人の移動時間を節約しました。
冷蔵庫は食品の長期保存を可能とし、買物時間を節約しました。
電話は遠隔地にいる相手に速やかに情報を伝えることで、通信にかかる時間を節約しました。

これらの恩恵を現代人は今も受けているのですが、当たり前になりすぎて気づいていないのかもしれません。もしも、これら便利な道具やサービスがなければ、どれだけ多くの時間を無駄にしてきたことでしょうか。

企業が生産性を高めるためには、投資によって時間を節約するしかないのでしょう。そして、消費者の時間を節約する製品やサービスを生み出すことで、社会は豊かになっていくのでしょう。

ところが、最近では、人々の時間を奪う製品やサービスが増えています。SNSなどのウェブサービスは、開発当初は利用者の時間を節約するためのものだったのでしょうが、今は、利用者の滞在時間を延ばして利益を得ようとするものが増えています。

このような時間を奪うサービスが増えているからこそ、時間を節約できる製品やサービスの需要が高まっているのではないでしょうか。