ウェブ1丁目図書館

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朝の目覚めが良くなることは老化の兆候

人間は、夜に寝て朝に起きるのが一般的です。

でも、その他の動物たちは、細切れで何度も睡眠をとります。

人間のように1日に1回の睡眠を原則とすることを単相性睡眠、動物のように何度も眠ることを多相性睡眠と呼びます。ただ、人間だから必ずしも単相性睡眠であるとは限りません。赤ちゃんは1日に何度も睡眠をとる多相性睡眠です。

また、睡眠時間の長さも人によって異なります。1日8時間睡眠の人もいれば7時間睡眠の人もいます。他には、目覚めの良さや悪さにも個人差がありますね。

なぜ動物は眠るのか?

そもそも動物はなぜ眠るのでしょうか?

誰もがすぐに頭に浮かぶのは、「疲れをとるため」という理由でしょう。しかし、動物は単に体の疲れをとるためだけに睡眠をとるのではないと、分子生物学者の粂和彦さんは、著書の「時間の分子生物学」の中で述べています。

私たちは、一日の疲れを感じて横になる気がしますが、少なくとも、体の休息のためだけに眠るのではないことははっきりしています。もちろん、エネルギーの節約をしていることは確かですが、実は睡眠全体を通して考えると、眠るよりも静かに横になって目を閉じている状態のほうが、代謝率(エネルギーの使用量)は低いからです。(中略)実際、睡眠の大部分を占めるノンレム睡眠中、脳は眠っていますが、体の方は、寝返りはしますし、軽く休んでいる程度の状態です。
ですから、現在のところ、睡眠は「脳の休息」の意味がもっとも大きいだろうと考えられています。
(138ページ)

丸一日ずっと家にいるよりも、外出して活発に体を動かしている日の方が、夜すぐに眠たくなります。誰もが、今日はよく動いたから体が疲れて眠くなっているんだと思うことでしょう。

しかし、何もせずじっとしているよりも、睡眠中の方が代謝率が上がるのですから、眠らずに起きていた方が体の疲れをとるのに適しているはずです。

それなのに動物が眠たくなるのは、体が疲れた時なのですから不思議です。いや、実は体をよく使うことは脳をよく使うことになるから、動物は活発に動いた日の方が脳もよく使っているので、すぐに眠たくなるのかもしれません。

人は、他の動物と比較すると考える能力が発達しています。そして、頭を使うことと考えることをほぼ同義と思い込んでいます。しかし、脳全体の働きからすると、実は考えることよりも体を活発に動かす方が脳をよく使っているのかもしれません。

だから、体を活発に動かした日の方が、そうでない日よりも脳が休息を要求してくるのだと考えることはできないでしょうか?

睡眠は年齢とともに変化する

冒頭でも述べましたが、赤ちゃんは1日に何度も寝ます。でも、大人は基本的に1日に1回の睡眠です。そして、高齢になると夜の睡眠の他に昼寝もするようになります。

このように人間は、年齢によって睡眠の回数が異なっており、その質にも違いが見られます。

若い人なら、夜寝ると真夜中に目が覚めることなく朝まで眠り続けることが多いでしょう。そして、起床時にすぐに目が覚めるといったことはなく、まだまだ寝足りないような気持ちのまま、通学や通勤の用意をし始めます。そう、若者にとって起床は、1日の中でも辛いイベントなのです。

ところが、年齢を重ねるうちに人は朝の起床を苦痛に感じなくなっていきます。

睡眠には、脳は起きてるけども体が眠っているレム睡眠とそれ以外のノンレム睡眠があります。そしてノンレム睡眠は、眠りの深さによって第1段階から第4段階まで分けられます。第1段階が最も浅い眠りで第4段階が最も深い眠りです。

三〇代以前の成人では、二~三回目の睡眠単位まで深睡眠があり、また明け方近くのノンレム睡眠でも、段階2の比較的安定した睡眠が認められます。しかし、それ以後、深睡眠の割合は減り続け、明け方の睡眠は段階1のノンレム睡眠レム睡眠などの非常に浅い睡眠ばかりになり、朝早く目が覚めるようになります。
老化の最初の兆候として、物忘れしやすくなったとか、肌のつやがなくなった、白髪が出てきたなどいろいろなことが挙げられますが、睡眠研究者の間では、朝、以前よりもすっきり目が覚めるようになって、起きるのが辛くなくなったというのが、もっとも早く認められる老化の兆候だとよく言われます。
(146~147ページ)

年齢を重ねると夜の睡眠が浅くなります。そのため、夜間の睡眠不足を補うために昼寝がしたくなります。粂さんによれば、それは自然の摂理にかなったものだとのこと。

最近、高齢者の方が車の運転中に意識を失って事故を起こすといったニュースを見ますが、もしかしたら、夜間の睡眠の浅さが関係しているのかもしれません。何の苦も無く朝早く起床できるようになったら、健康になったのではなく老化し始めていると注意し、日中は眠気に逆らわず仮眠をした方が良さそうです。

7時間睡眠が最も長生きできる?

睡眠の長さに関しては、7時間睡眠が最も長生きできるとされています。これは、アメリカの大規模研究の統計結果で、8時間以上の睡眠をとっている人は、7時間睡眠の人よりもやや平均寿命が短かったようです。

この研究結果を知ると、寝過ぎは良くないと思ってしまいそうですが、粂さんは長く寝ることで寿命が短くなるとは考えていません。

その理由は、先にも述べたように年齢を重ねるほど睡眠が浅くなることと関係しています。高齢になるほど眠りが浅くなり睡眠時間が短くなっていきますから、長生きの人ほど平均睡眠時間が短くなる傾向にあります。したがって、長生きするほど睡眠時間が短くなっていくのです。すなわち、長生きの結果、睡眠時間が短くなるということにすぎないわけです。

また、アメリカでは日本よりも睡眠時無呼吸症候群の患者が多く、本人は長く眠っているつもりでも、実際にはしっかりと睡眠時間を確保できていないことがあります。こういった人は短命になる傾向がありますから、それが統計で長時間睡眠が寿命を短くするという結果になっているのではないかとも指摘しています。

睡眠の量は、個人差、年齢、日中の活動度、体調などでかなり変化するので、一概にどれだけの睡眠時間が適切とは言えない部分があります。

目安としては、二〇代では約八時間、四〇~五〇代では約七時間程度の睡眠時間が平均ですが、日本人の場合、この二〇年ほどの間に国民の平均睡眠時間はこれより一時間程度短くなっています。だからといって、以前の長さの方が良かったと言い切る根拠もないのです。
ということで、理想的な睡眠時間は一概に言えません。自覚的な基準として、朝、気持ちよく目が覚め、日中、眠気がひどくならない程度の睡眠時間が取れていればよいと、私は考えています。
(149~150ページ)

とりあえず、翌日に疲れが残らない睡眠時間を確保していれば問題なさそうです。

また、朝が苦手な方は早く寝ることをまず考えますが、これは違うとのこと。生物時計の仕組みからは、早起き早寝が正解です。

そして、日中に眠くなるのなら昼寝をすることも大切です。仕事中に寝ることに抵抗を感じる人がいるでしょうが、ヨーロッパではシエスタという昼寝タイムがありますし、日本企業でもシエスタを採用しているところがあります。

朝の目覚めが良くなったという人が多い職場ほど、シエスタを導入した方が良いでしょう。

時間の分子生物学 (講談社現代新書)

時間の分子生物学 (講談社現代新書)

  • 作者:粂 和彦
  • 発売日: 2003/10/20
  • メディア: 新書