ウェブ1丁目図書館

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既得権益が科学技術の発展を妨げている可能性がある

排気ガスを出さない電気自動車は、環境への負荷が少ないので、今後、生産台数が増えていきそうです。

ただ、これからもっと電気自動車の生産技術を高め、販売価格も低くしていかなければならないでしょうから、完全に電気だけで走る自動車が主流になるには、まだ時間がかかりそうです。

また、技術的な面以上に電気自動車の普及に時間がかかるのは、電気自動車が普及すると困る人の影響もあるのではないでしょうか。

ハイブリッド車の必要性

ジャーナリストで翻訳家のケイ・ミズモリさんの著書「超不都合な科学的真実」では、興味深いことが述べられています。

科学的にすでに証明された医療技術などが、世に普及しないのは、なぜなのでしょうか。

それは、既存産業に従事する人々に好ましくない影響を与えてしまうからというのが、ミズモリさんの主張です。


電気自動車の普及を遅らせているのも、既存のガソリン車が、世の中から消えてしまうと困る人がたくさんいるから。

そんなバカなと思うでしょうが、ハイブリッド車が走っているのを見ると、その主張も一理あるのではないかと想像してしまいます。

1990年に米カリフォルニア州では、1998年までに販売される全自動車の2%、2001年までに5%、2003年までに10%を無排気車輌(ZEV)に規制する法案が可決されました。そのため、大手自動車メーカーは、積極的に設備投資を行い、電気自動車を開発し発売しました。そして、GMは、10億ドル超の投資を行って、スポーツカー「EV1」を開発し、世に送り出しました。

EV1の性能は優秀で、リース価格は、月額350~570ドル程度で、総計1,117台が生産されたそうです。他にも、フォード、ホンダ、トヨタ、日産も電気自動車を開発し、これからは電気のみで走る自動車が普及していくだろうと思われました。

ところが、2001年にカリフォルニア州の空気資源委員会が、ZEV規制を緩和して、ハイブリッド車のような部分的なZEVを認めたのです。GMダイムラー・クライスラーは、これを連邦政府の方針に反するとして、カリフォルニア州と空気資源委員会を訴えたのですが、2002年10月9日にブッシュ政権が異例の訴訟介入をして、規制は燃費を基準にするように主張しました。

結局、自動車業界は、訴訟を取り下げることになりました。

この一連の流れを見ると、ハイブリッド車よりも電気だけで走る自動車の方が先に普及していた可能性があったのに政府の介入でハイブリッド車の普及が優先されたように思えます。

電気自動車を売る気がなかった?

ところで、なぜ、アメリカでの電気自動車の販売は、リース契約だったのでしょうか。

電気自動車のリース期間は3年、契約期限満了後はメーカーに返却する義務を消費者は負っていました。リース取引では、リース期間満了後に所有権が借り手に移転する契約となることが多いです。それなのに所有権が移転しないリース契約だったのは、メーカー側も、最悪の場合、電気自動車が回収される運命にあることを想定していたのではないかとミズモリさんは推測しています。

いったいなぜ?

これまでは、ガソリン車が主流であり、自動車メーカーの上層部は、石油業界の意向を無視することができなかったからだと考えられます。

ある時を境にガソリン車の生産販売を中止すると、石油業界で働く人々に大きな打撃を与えます。賃金が減る人も知るでしょうし、仕事を失う人もいるかもしれません。石油関連企業の倒産という事態も起こり得ます。

環境への負荷を考えると、ガソリン車よりも電気自動車の方が優しいことは、多くの人が理解しています。しかし、いきなりすべての自動車を電気自動車に変えることは、多くの人の生活を破たんさせかねません。そうすると、ZEV規制を緩和して、ハイブリッド車もありとした方が、石油業界で働く人たちの生活を守るためには好都合です。ハイブリッド車が普及した大きな理由は、石油業界への配慮があったからなのかもしれません。


電気自動車は1990年代から話題となってきましたが、実は、その歴史は古く19世紀末頃に誕生しており、1920年頃まで富裕層は電気自動車に乗っていたそうです。

ところが、電気自動車は廃れてしまいました。その理由は、石油の方が圧倒的に電気よりも安く、入手が楽だったからです。

現代から見ると、ずっと電気自動車の開発に力を入れておくべきだったんじゃないかと思いますが、当時の人々からすれば、目先の利益の方が重要だったのでしょう。排気ガスが環境汚染につながるという意識もなかったはずです。

また、どのような分野でも、ライバルの出現は脅威です。自らの存在を脅かす危険性がある芽は、早く摘んでおくに越したことはありません。

科学技術の発展を妨げているのは、既存の産業に利害を持っている人たちなのかもしれませんね。