人間の活動による環境破壊が深刻化していると言われるようになって数十年。いまだにどうすれば地球環境を守れるのか答えは出ていません。いや、環境破壊を行っている人間が地球上からいなくなれば、現在の環境問題は全て解決するのですが、それは言わない約束となっています。
日本人のエコ意識は高いと思います。テレビをつければ公共広告はもちろんのこと、企業のCMでも「環境に優しい」「自然を守る」といった表現が使われていますから、現代の日本人が環境問題を意識する機会は多いでしょう。しかし、環境問題を意識する機会が多い日本人よりも、アフリカなどでテレビも見ずに原始的な暮らしをしている人々の方が環境への負荷が小さい生活をしています。日本国内でのエコ運動が、なんか虚しく感じますね。
無駄がなければ生活できない社会システム
どんなに日本人が活発にエコ運動を行っても、日本国内に住む限り無駄がなければ生きていけないので、環境に負荷を与え続けることになります。日本は、無駄を作り出して経済を回す社会システムが当たり前になっていますから。
「景気を良くするためには消費拡大が大切」
そう言って、まだ使える家電や自動車の買い替えをすすめます。でも、まだ使えるものを捨てて新品を買う行為は環境に負荷を与えますから、環境を守りたいのであれば家電や自動車の買い替えサイクルは長い方が好ましいです。
こういった矛盾した行動は、環境問題に詳しい武田邦彦さんの著書「その『エコ常識』が環境を破壊する」によると、「将来の不安」から起こるのだとか。
通勤時に乗車駅の売店で買った新聞を降車駅のごみ箱に捨てるのが当たり前となっています。しかし、捨てられる新聞は、わずか30分ほど前に売られていた新聞なので、情報の価値が減耗しているとは言えません。捨てる人にとっては必要なくなったから、新聞をゴミ箱に投げ入れたのでしょうが、そのゴミ箱から数メートル先の売店では同じ新聞が売られていることをどう受け止めたら良いのでしょうか。
これこそが、現代日本が無駄がなければ回らない社会システムになっている典型例なのです。産業革命が始まった時、畑を耕す仕事は人の手から機械に取って代わられました。今なら笑い話なのですが、当時、農民たちは機械打ち壊し運動を始めます。
なぜ、このようなことが起こるかというと、それまでの農民は機会が入ってきたら自分の職場が奪われることは理解できますが、次はどうなるかが想像できないで不安になります。クワをふるっていた農民にとっては、やがて自分の子孫になったら、多くの農民がロンドンに移り、そこのオフィス街に勤め、洒落た証券会社のビルの間を歩いているなどとは想像することができないので、将来が不安になり子孫を守るために機械打ち壊し運動に走ることになったのです。
「現状を変えると職を失う。だから、口先で”もったいない”と言い、実際は使い捨てしよう」というのは、将来が見えないからです。
(94ページ)
一度経験したら安全安心
反対に人間は、一度経験したことに対して安全や安心を覚えます。そして、その経験が長くなれば長くなるほど危険性を疑わなくなります。
その良い例が、石鹸は安全だけど合成洗剤は危険だという思い込みです。
中性洗剤は、石鹸よりも100倍以上の安全性が確認されています。その実験データを示されても、合成洗剤の方が怖いと感じる人の方が多いです。石鹸は長い期間使用されてきたから安心できるのでしょう。
考えてみますと、私たちが石鹸に安心感を持つのは確かですが、それは主として石鹸が「自分が生まれる前からあった」からという理由と考えられます。昔は今より寿命がずいぶん短かったのですから、昔使ったものが安全とは限りませんが、人間は新しいもの、自分(人間)がつくったものが怖いという本質的なものを心の中に持っています。自分自身がつくったものを排斥するという意味で合成洗剤に対して私たちは敵意を感じるのです。
(115~116ページ)
科学は日進月歩で進化を続けています。だから、冷静に考えれば、昔のモノよりも新しいモノの方が安全性が高いと推測できるのですが、いまだ使ったことがないものを我々はなかなか信用できません。
石鹸は、ヤシ油や牛脂から作られます。合成洗剤の方が安全性が高いというデータがあっても、石鹸の方が安心できるという理由だけでヤシや牛の命が奪われるのです。
そもそも、人間の体から分泌されるものは水溶性だから、人体に洗剤を使用する必要はありません。したがって、石鹸で体を洗わなくても問題ないのですが、一度習慣化すると、それに疑問を感じなくなるのが人間なのです。
日本人はゾウの2倍エネルギーを消費する
人間が活動するのに必要な1日のエネルギー量をワットアワーで計算すると、100から150ワットとなるそうです。したがって、食物からこれくらいのエネルギーを補給すれば生きていけるわけです。
対して、4トンくらいあるゾウだと2,000ワットもエネルギーが必要になるとのこと。人間はゾウよりも体が小さいのでエネルギー消費量も少なくて当然です。
ところが、武田さんによると、現代の日本人は電化製品や自動車などの機械を使って生活しているため、消費エネルギーは4,000ワットにもなっているそうです。つまり、日本人はゾウの2倍、人間が生きていくのに必要なエネルギーの27倍から40倍も消費しているのです。
日本人がこんなにエネルギーを消費していて、買い物の際にレジ袋を1枚や2枚節約しても、まったくエコな生活とは言えないでしょう。むしろ、レジ袋は大量に使うけど、テレビも見ないし車にも乗らない人の方が明らかに環境への負荷が少ないのです。
結局、日本で行われているエコ運動は安心感を得るだけの活動でしかないことが多いのです。それをやっていれば、短期間で電化製品や車を買い替えてもエコ、分別していれば多くのゴミを出してもエコ。
何かおかしい気がしても、社会がそうなっているので、それに従って今日も生きていくのであります。
- 作者:武田 邦彦
- 発売日: 2009/07/02
- メディア: 新書