ウェブ1丁目図書館

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AIと暗号資産が生み出す環境破壊を食い止めるのはミドリムシ

食料不足、エネルギー不足、環境汚染。これらは、現在、人類が抱えている大きな問題です。

何でも手に入る日本にいると、日常で食料不足やエネルギー不足を感じることはありません。しかし、食料自給率は40%未満で、エネルギー自給率も低い日本では、食料やエネルギー資源の輸入ができなくなると直ちに生活が破綻する危うい状況にあります。また、エネルギーを使うことで大気が汚れ、そこから発生する二酸化炭素は気候変動に影響を及ぼしている可能性が高いとされていますから、現在の生活を続けていると環境が汚染されていきます。

これらの問題をまとめて解決する手段はないものか。可能性として考えられるのは、ミドリムシです。

植物と動物の二刀流

ミドリムシという名から、イモムシやシャクトリムシのような虫を連想するかもしれませんが、それらとは全く違います。ミドリムシは、池や川などでよく見る藻の仲間です。

藻の仲間なら、ミドリムシは植物なのかと思いますが、動物としての性格も持つユニークな存在です。この植物と動物の二刀流で生きているミドリムシだからこそ、食料不足、エネルギー不足、環境汚染の3つの問題を解決する手段となりえるのです。

そんなミドリムシで世界が抱える問題を解決しようとしているのが株式会社ユーグレナです。創業者の出雲充さんの著書『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』を読むと、ミドリムシの可能性の大きさとベンチャーを成功させるためには数々の試練が待ち受けていることがわかります。

出雲さんは、1998年にグラミン銀行インターンで向かったバングラデシュで、子どもたちの栄養失調、大人たちの貧困が深刻な問題になっていることを知ります。バングラデシュは、コメが山ほど取れる国なのに子どもたちが栄養失調になっている。それは、タンパク質、ミネラルなどの必須の栄養素が不足しているから起こるいわゆる質的栄養失調であり、炭水化物をたくさん食べられる環境が用意されていても起こる栄養失調です。

炭水化物が食べられる環境にある国に乾パンが必要かということに疑問を感じた出雲さんは、深刻化する世界の栄養不足を解消するために何かできないかと考え、やがてミドリムシに出会います。

食物連鎖の最下層に位置するミドリムシの可能性

植物と動物の性格を併せ持つミドリムシは、体内で59種類もの栄養素を作り出せます。人間にとっての必須栄養素も、ビタミンA以外はミドリムシから摂取可能です。ビタミンAについても、ミドリムシはその前駆体であるβ-カロテンを合成できることから、人体に必要な栄養素をミドリムシは取り揃えていると言えるでしょう。

これだけ多くの栄養素を合成できるということは、多くの生物にとっても必要な栄養素を補給可能であるということ。そのため、ミドリムシの周囲は天敵だらけで、あらゆる生物がミドリムシを捕食しようとします。一方、光合成でエネルギーを獲得し増殖するミドリムシは、他者を捕食することはないため、彼らは、食物連鎖の最下層に位置付けられます。

食物連鎖の最下層にある。これは、別の視点で見ると、あらゆる生物の栄養源になっていることを意味します。つまり、すべての生物は、ミドリムシが作り出した栄養素の恩恵を受けて生きているのです。

ミドリムシって、なんてすばらしい存在なのでしょう。さっそく培養して食品として販売すれば、世界中から栄養失調をなくせるはず。誰もが思うことですが、ミドリムシの培養は難しく、月に耳かき1杯しかミドリムシを作り出すことはできませんでした。なぜなら、食物連鎖の最下層にあるミドリムシは、あらゆる生物のエサになり天敵の排除が難しかったからです。

しかし、難しいミドリムシの大量培養も、出雲さんの後輩の鈴木健吾さんが成功させ、株式会社ユーグレナは順風満帆に思えました。

伝えないから伝わらない

栄養豊富なミドリムシサプリメントを開発できたものの、2006年から3年間、株式会社ユーグレナは、いつ倒産してもおかしくない時代に入りました。

出資を受けていたライブドアが事件を起こし、同社と関係がある株式会社ユーグレナと取引をしようとする会社がいなくなったのです。栄養豊富なミドリムシサプリメントを作れば、向こうから売ってくれと飛びついてくるはずだと高をくくっていた出雲さんでしたが、それが甘い目論見だったと実感します。

苦難の3年を乗り越え株式会社ユーグレナは軌道に乗れましたが、この時の経験から出雲さんは、「何かを成し遂げたいならば、『やれ!』『人に会え!』『自分の思いを伝えろ!』」ということが必要だと悟ります。とにかく動かないことには、どんなに良いものでも人に伝えることはできないのです。特にミドリムシのような馴染みのない製品を売ろうと思ったら、多くの人に会って愚直にその良さを伝えていかなければ受け入れてもらうことは難しいでしょう。

強力な光合成と良質な油

ミドリムシに期待されるのは、栄養不足の解消だけではありません。エネルギー不足の解決と環境汚染の解消にも貢献することが期待されます。

ミドリムシからは良質な油が取り出せます。いずれは石油に代わる燃料となりうるかもしれません。全日空が出資するほどですから、ミドリムシの油が次世代燃料として大きく期待されていることがわかります。油を取った後のミドリムシも、食用として利用できますからゴミになることもありません。

また、ミドリムシは5億年前から生存しており、現在の酸素が多い地球にした功労者でもあります。光合成によって二酸化炭素から酸素を生み出す能力は、他の植物よりも優れています。二酸化炭素濃度が高く、他の植物では光合成ができない環境でも、ミドリムシはやってのけるそうです。

現在、AIや暗号資産(仮想通貨)が、やたらとエネルギーを消費しています。これらを使い続けることで、エネルギーが不足していき、二酸化炭素の排出量も増えていきます。このままでは、AIが人類の生活を脅かす危険がありますが、ミドリムシが救世主となる可能性があります。

AIが吐き出した二酸化炭素を利用してミドリムシが増殖し酸素を作り出す。しかも、増殖したミドリムシからエネルギー源の油も取り出せば、AIのエネルギー需要に応えられるかもしれません。発電所の隣にミドリムシの培養プールが置かれている光景が当たり前になる日がやってくることでしょう。


日本の経済力が年々低下していると嘆く人が多いですが、株式会社ユーグレナのような会社を見ていると、そのようには感じません。むしろ、日本には、人類が抱える問題を解決しようとしている起業家が多いように思います。そこに注目が集まらないのは、ベンチャーキャピタルが価値を見極められないことも原因でしょう。

出雲さんは、日本のベンチャーキャピタルにテクノロジーを理解できる人材が乏しく、出資者が短期にリターンを求める傾向からIT分野に投資が偏りやすい状況を危惧しています。真に技術力を持つベンチャーが、日本を見限る原因になっているからです。

人類が抱える問題を解決するためには、出資する側にも知識の習得と意識の変化が求められるのです。