ウェブ1丁目図書館

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周期的に何かが起こるのは必然

ギャンブルで負けが続いていると、そろそろ当たるはずだと考えてしまいます。でも、毎回、同じ確率で抽選が行われているのであれば、負けが続いているからといって、当たりやすくなることはありません。このような誤った心理をギャンブラーの誤謬といいます。

ギャンブラーの誤謬が生じるのは、ある出来事が一定周期で訪れると信じていることが理由です。毎回、同じ確率で抽選が行われていれば、周期的にある出来事が起こりやすくなるといったことはありません。しかし、人間社会においては、過去に一定周期で重大事件が起こっている事実が見て取れることから、そろそろ何かが起こるのではないかという直感が働くことがあります。

80年周期で何かが起こる

コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍する高城剛さんの著書『いままで起きたこと、これから起きること。』では、世界的に80年のサイクルが見られると語られています。そして、その80年のサイクルは、国ごとに違っているのではなく、世界で同時に訪れていることが歴史的に見て明らかとなっています。

日本の明治維新は1868年です。それと同じ時期にアメリ南北戦争、イタリア統一戦争、ドイツ統一戦争、カナダがイギリス帝国から無血独立、フランスでナポレオン失脚に伴い第三共和政樹立といった大きな出来事が起こっています。それから80年後の1940年代には、第2次世界大戦が勃発し、多くの国が戦渦に巻き込まれています。

この80年という周期は偶然なのか、それとも必然なのか。

必然と捉えると、何かスピリチュアルな感じがしますが、第2次世界大戦のような大きな出来事を偶然として片づけるのも違うような気がします。古くから、マヤも中国も50~60年サイクルで人生が一巡すると考えており、周期的に人間社会に何かが起こることに気づいていたようです。

保護主義からの第2次世界大戦

第2次世界大戦が起こった一つの要因は、1929年の世界恐慌とされています。

不況により失業者が増え、イギリスやフランスなど、植民地を持つ国々は、他国からの輸入を制限し、本国と植民地との間だけで自由に貿易を行い、その他の国の輸入品には高い関税をかける「ブロック経済」で景気回復を狙います。しかし、ブロック経済により、植民地を持たない国々は輸出先を失い極度の不況に陥りました。その悪影響を受けたのが、ドイツ、イタリア、日本であり、それらの国が他国に攻め込み活路を見出そうとして起こったのが第2次世界大戦です。

高い関税をかけて自国の産業を守ることを保護主義といいます。保護主義により第2次世界大戦が起こったことの反省を踏まえ、国際的に保護主義ではなく自由貿易を行いやすい環境を整えてきました。

ところが、戦後80年を迎えた2025年に再び保護主義の風潮が見られるようになっています。アメリカのトランプ大統領が自国の産業を守るため、輸入品に高い関税をかけ、各国との関係、特に米中関係が不安定になってきています。終戦から80年後にこのような動きがみられるのは、単なる偶然なのでしょうか。

教訓は忘れ去られる

本書では、80年を20年刻みで、英雄、芸術家、預言者遊牧民という4つの世代に区分した例を挙げています。各世代で考え方に違いがあり、その差が時代の風潮を作るのでしょう。それぞれの区分は本書で確認してもらうとして、世代ごとに考え方に違いが出るのは、80年周期で起こる大きな出来事と無関係ではないと思います。

例えば、憲法9条を改正すべきかどうかの議論。

近年では、改正すべきという意見が多くなっているように見えます。改正を支持する人の考えは、自衛するための武力も持てないのでは、他国が攻め込んできたときに何もできないというものです。この考え方に僕も納得します。一方で、憲法9条改正に反対の人の意見は、日本が他国に攻め込むのを認めることになり、再び日本が戦争を起こす危険があるとするものです。

改正派の考えの根底にあるのは、日本は他国に攻め込まないという前提です。日本は、終戦から他国に攻め込んでいないから、今後もそのようなことはないと暗黙の前提にしているのでしょう。しかし、戦争を体験した人たちは、そう考えていないのではないでしょうか。戦争体験者が重く考えているのは、日本から戦争を起こした事実だと思います。

古く白村江の戦いから見ていくと、日本が関わった戦争は、他国に攻め込んで起こったものがほとんどです。平安時代刀伊の入寇鎌倉時代元寇は、他国に攻められたものですが、これらは大きな戦争ではありません。日本が関わった大規模な戦争は、いずれも日本から仕掛けた戦争なのです。この歴史的事実を見れば、他国から侵略される危険性より、日本の政治家によって戦争が惹き起こされる危険性が高いと考えた方が良いでしょう。

80年周期で重大事件が起こるのは、過去の教訓が忘れ去られていくからなのかもしれません。日本は、戦争体験者が少なくなっています。そして、彼らの教訓は次世代に引き継がれなくなってきています。

周期は社会のいろんなところに影響を与えている

本書を読むと、周期なんて迷信だと切り捨てるべきではないことに気づきます。

国家が衰退段階に入るのは、様々な原因があるものの、その中で大きいのは「生産効率性の低下」とのこと。国家が成長すると、そこで暮らす国民もまた裕福になります。しかし、裕福になった国民は楽を求めたり、人件費が上がって、生産効率性が悪化します。生産効率性の悪化を見ると、周期が人に影響を与えるというより、人が周期を作り出しているといった方が良いのかもしれません。

また、巨大帝国が内部崩壊するのは、気候変動か戦争が原因だというのも歴史から見て取れます。気候変動には周期がありますし、戦争も人によって周期的に惹き起こされています。平和な時代に格差が広がり、戦争、革命、破綻、疫病のみによって平等が実現したという事実もあります。この皮肉な事実に人類はどう対応したら良いのでしょうか。

高城さんは、アメリカの巨大IT企業の成長もタイミングに他ならないと述べています。事業展開のタイミングは、人々のニーズと時代の波が重なっただけであり、それがなければ大きく成長していなかったかもしれません。

周期は、人間社会の様々なところに影響を与えているのです。