ウェブ1丁目図書館

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お金の自己増殖こそが資本主義の本質

資本主義に限界がきているとの指摘があります。最近、よく耳にする言葉です。

資本主義は、便利な道具を生み出し社会を発展させました。それは間違いのない事実です。しかし、21世紀に入ってから、格差や貧困が目立つようになり、それがどうも資本主義の仕業ではないかと考えられるようになっています。

20世紀までは社会を発展させてきた資本主義が、なぜ21世紀に入ってから格差や貧困の問題を引き起こしているのでしょうか。そして、それは、いつから始まったのでしょうか。

資本主義の目的は価値増殖

経済思想や社会思想を専門とする斎藤幸平さんの著書『人新世の「資本論」』は、資本主義がどのようにして先進国社会を発展させてきたのか、その仕組みを教えてくれます。しかし、本書は、決して資本主義を礼賛するものではなく、資本主義の負の側面が人間社会だけでなく、地球全体にどのような悪影響を与えてきたのかを解説しており、これから人間社会はどういう方向に向かうべきかを提言した内容となっています。

資本主義社会は、価値増殖によって成り立つ社会です。

価値とは、世の中にとって素晴らしいものという意味で考えると資本主義の本質を見誤ります。資本主義社会にとっての価値とは、資本の増殖、すなわち、お金が増えていくことにほかなりません。資本(お金)がどんどん増え続ける状態こそが、資本主義にとっての価値なのです。だから、資本が増殖し続ける状態であれば、それは価値があることと言えます。

例えば、生きていくために必要な栄養を補給できる料理を提供し、その対価としてお金をもらうことも価値増殖ですが、顧客にとって何らの価値がないものを提供してお金をもらうことも価値増殖です。資本主義社会では、顧客が本当に必要とする価値(使用価値)を提供することは本質ではなく、単に資本が増殖するという意味での価値に重きが置かれているのです。

価値増殖のために資本はグローバル化する

資本は、自らの増殖のために拡大していきます。一国の中に収まり切れないほど増殖した資本は、海外へと向かいます。そう、グローバル化です。この資本のグローバル化により、グローバル・サウスという新たな問題が発生しました。

グローバル・サウスとは、「グローバル化によって被害を受ける領域ならびにその住民」を指します。賃金が上昇した先進国では、資本の増殖スピードが遅くなります。そこで、資本は、賃金が低い国に流れ、労働力を搾取してできあがったモノを物価の高い先進国で高値で売り、停滞していた増殖スピードを加速させます。先進国での自然資源が失われていった場合も同様、途上国から自然資源を収奪し、資本は増殖していきます。

先進国で、自然環境を維持しながら豊かな暮らしをするためには、不都合なことをすべてグローバル・サウスに押し付けていけば良く、先進国内部では、資本主義の負の側面が見えなくなっていました。先進国の人々の幸福な暮らしは、グローバル・サウスの犠牲の上に成り立っているのですが、それが見えていなかったため、20世紀までは資本主義が豊かな生活をもたらすと妄信されていました。

グローバル・サウスへの転嫁の限界

しかし、グローバル・サウスも、徐々に経済発展してくると、廉価な労働力は喪失し始めます。そうすると、資本の増殖スピードも遅くなっていきます。それでも、自己増殖を目的とする資本は拡大を続けようとします。

どうやって。

先進国内部での労働力の搾取です。これまで、資本主義の矛盾はグローバル・サウスに押し付けておけば良かったのですが、そこへの不都合を転嫁しきれなくなり、ついに先進国内部で不都合の転嫁先を探し始めたのです。21世紀に入って、格差や貧困が先進国でも俎上にのぼるようになったのは、これまで見えていなかった資本主義の矛盾が可視化されただけです。決して、資本主義は20世紀以前から問題なく機能していたのではないのです。

それでもまだ、地球環境は、資本主義の矛盾をタンスに収めることができていましたが、資本の増殖がもたらす環境破壊により、その収容力にも限界が近づいています。

公富の私財化

地球環境を守る手段の一つとなるのが、再生可能エネルギーの活用です。しかし、再生可能エネルギーは、資本主義との相性が非常に悪いです。

資本を増殖させるためには、モノに希少性を持たせる必要があります。希少だからこそ、そこに価値が生まれ、お金を吸い寄せることができるのです。

誰でも利用できる共有財の川の水も、上流の土地を買い占めてダムを作り堰き止めてしまえば、土地所有者の私財となります。土地所有者は、ダムの水をきれいな状態に保つために汚水を川に流せば、下流は汚染され、人々はきれいな水を利用できなくなります。きれいな水を利用したければ、土地所有者から買うしかありません。資本は、公富を私財化することで増殖できるのです。

石油や石炭などのエネルギー資源も同じです。私財化すれば、巨額の資本が集まってきます。しかし、太陽光発電のような再生可能エネルギーの場合、私財化が難しく資本が集まりにくい性質を持っています。どこにでもさんさんと降り注ぐ太陽光を独占するのは不可能に近いことです。これが、再生可能エネルギーが資本主義と相性が悪い理由です。

また、火力発電を再生可能エネルギーに代替するという発想も、資本主義では起こりにくいです。火力発電も再生可能エネルギーも両方使った方が、多くのエネルギーを利用でき、今まで以上にオートメーション化を進めて資本の増殖を図ろうとするからです。

オートメーション化で、職を失った人の暮らしを支えるために新たな仕事を作り雇用を創出する。ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)の出来上がりです。しかし、そのブルシット・ジョブの方が使用価値を生み出す仕事をしている人より高収入である場合が多という現実もあり、ここにも資本が自己増殖していく様を見ることができます。


『人新世の「資本論」』では、限界がきている資本主義をどうすれば良いのか、その提言も述べられています。資本主義が抱える問題を解決することは、資本主義により恩恵を受けている人々にとって不都合なことがたくさんあります。人間社会だけでなく、地球環境を守るためには、そういった人々の不都合を振り返っている余裕はないのかもしれません。