ウェブ1丁目図書館

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新しいものと古いものが共存する京都

千年の都、京都。

そこには、様々なイメージを持つことでしょう。日本らしさを感じる人もいれば、閉鎖的な都市と見る人もいます。

こういったイメージは、事実の面もありますが、作られたイメージであることも多いです。例えば、京都御所は、794年の平安遷都から現代まで同じ場所に変わらず、あり続けていると思われがちですが、実際はそうではありません。むしろ、京都は、多くの人が思っている以上に変化し続けている都市なのです。

現在の京都御所は里内裏だった

考古学・都市史学を専門とする山田邦和さんの著書「京都 知られざる歴史探検 上」では、その名の通り、現代人にあまり知られていない京都が紹介されています。上巻では、上京、洛北、洛東・山科の歴史が3ページほどのコラムで、たくさん掲載されています。

京都御所は現在の京都市上京区にあり、今出川通寺町通丸太町通烏丸通に囲まれた広大な敷地を持つ京都御苑の中に建っています。

かつては、現在地よりも西の千本丸太町の交差点付近に平安京大極殿が建っていました。

しかし、平安京の内裏は、何度も焼失しており、その度に天皇は、貴族などの邸宅を仮の住いとしていました。この天皇の仮の住まいのことを里内裏といいます。

内裏が再建されると天皇は内裏に戻りますが、何度も何度も火災に遭っているうちに里内裏に住み続けるようになり、内裏は重要な儀式のときにしか使わない天皇もいました。

鎌倉時代前期には、再建工事中の内裏が失火により全焼し、ついに廃絶してしまいます。

そして、鎌倉時代後期に使われていた里内裏が御所となりました。それが現在の京都御所です。

御所は、豊臣秀吉徳川家康によって拡張されていき、現在の規模まで発展していきます。でも、この頃になると、御所は平安時代とは異なる姿をしていたようです。

江戸時代になっても、御所は何度か火災で焼失しています。1788年に起こった天明の大火で焼失した御所の再建は、寛政の改革で有名な松平定信の指揮のもと進められました。定信は、平安時代の様式で御所を再建しようと考えますが、当時の内裏がどのような姿をしていたのかさっぱりわかりません。

しかし、世の中には誰も興味を示さないことに熱中する人がいるもので、大内裏図考証を著した裏松固禅が平安京研究をしていました。定信は、固禅の知恵を拝借し、御所を再建します。その形式は、平安時代の内裏を再現したものだといいます。

後に定信が再建した御所も焼失しますが、1855年に再建されます。その形式は定信が再建した時と同じであり、現在まで存続しています。

御所は天皇の住いなので、焼失した後に再建しないわけにはいきません。でも、再建する建物は、以前と同じ姿にしなければならないわけではなく、その時に臨機応変に建替えられていたようです。多くの人が思っているよりも、京都は意外と柔軟なんですね。

新技術の導入が早い

京都に対するイメージの中には、「古臭い」というものもあります。

寺社が多い都市ですから、そのイメージは的を射ていると言えます。でも、京都はベンチャーが育つ都市と言われていますし、新技術の導入を積極的に行ってきた歴史もあります。

京都市の東に1891年に運転開始した蹴上発電所は、琵琶湖疏水を利用した水力発電所です。主任技師の田辺朔郎は、渡米して水力発電の技術を身に着けました。

日本では、すでに薩摩島津家や宮城紡績会社が自家発電装置を導入していましたが、それらよりもわずかに遅れて京都でも水力発電所が創設されました。

この蹴上発電所は、多数の顧客を対象とする電気事業用発電所としては世界初とのこと。これにより、京都では日本で初めて路面電車が走り、電灯が設置されることになりました。

水力発電は、クリーンエネルギーなので、将来のエネルギー供給にも期待が寄せられています。田辺朔郎がもたらした水力発電の技術が、これからの日本に活かされる時が来るかもしれませんね。


京都で水と言えば、鴨川を忘れてはいけません。

鴨川は、昔からよく氾濫し、多くの人々を悩ませてきました。白河法皇も、双六の賽や比叡山の山法師と並び、鴨川の流れは思いのままにならないと嘆いたものです。

その鴨川に架かる四条大橋の東に仲源寺という小さなお寺があります。

このお寺には、目疾(めやみ)地蔵が祀られており、眼病平癒のご利益があると信仰されています。でも、この目疾地蔵は、雨止(あめやみ)地蔵がなまったものだと伝えられています。

古くは、鴨川が氾濫すると、雨止地蔵が洪水を治めてくれると信じられており、現在も門の前に「雨奇晴好」の扁額が懸けられており、治水信仰のなごりがあります。

さすがに近年は治水技術が発達しているので鴨川が氾濫することはありませんが、今でも雨止地蔵の信仰が残っている所に京都の「古臭さ」を感じざるを得ません。

でも、この辺りに新しいものも古いものも受容する京都を感じることができます。

閉鎖的なイメージがある京都ですが、意外と懐の深い都市なのです。

京都 知られざる歴史探検 上―上京 洛北 洛東・山科

京都 知られざる歴史探検 上―上京 洛北 洛東・山科

  • 作者:山田 邦和
  • 発売日: 2017/10/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)