ウェブ1丁目図書館

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核よりカネの抑止力

資本主義は、多くの富を創造します。

一方で、資本主義は格差を拡大します。この格差を拡大するという資本主義の性質から、戦争、環境破壊、労働条件の低下、福祉の破壊、貧困なども、行き過ぎた資本主義がもたらす弊害だと言われることがあります。

しかし、資本主義以前の社会や共産主義国と比較した場合、資本主義が創造する富は社会を良い方向に変えています。

貧困が当たり前の世界を変えた資本主義

「1人あたりを豊かにすることに資本主義以外の体制は成功していない」と述べるのは、経済学博士の原田泰さんです。著書の『反資本主義の亡霊』では、資本主義を否定する人たちの主張が、格差、戦争、歴史の視点から見て誤解であることを教えてくれます。

経済格差は、資本主義の発展により拡大しています。しかし、格差の拡大で貧困する人が増えているかというとそうではありません。

資本主義以前の社会で、多くの富を得る手段は略奪でした。他国を侵略して、人々を奴隷として働かせ、生産物の多くを支配者が手にする。これが富を得る手段として当たり前に行われていました。そして、このような時代では独裁者が強大な権限を持ち、他人の自由を奪い、他人を殺すこともできました。

資本主義社会ではどうでしょうか。どんなにお金を持っていても、他人の自由を奪うことはできませんし、他人を殺すことも許されません。消費者の反感を買い、不買運動が起これば、大企業の社長だって辞任しなければならなくなります。むしろ、多くの人から好かれるような事業をすることが、資本主義社会では成功しやすいですから、他人から搾取するのは成功から遠ざかる行為となります。

資本主義以前の社会では、支配階層だけが豊かになり、その他大勢は貧しいのが当たり前でした。これを変えたのは資本主義です。資本主義が創造した富が、多くの人を貧困から救いました。現代の日本社会で餓死する人はほとんどいません。

資本主義は大金持ちを生み出すので、格差を拡大します。しかし、格差は拡大しても、貧しい人の所得を増やしています。資本主義以前の社会が略奪によって人々を貧しくしたのとは違い、資本主義は、貧困する人を減らす方向に進んだのです。大金持ちを見ると、嫉妬しがちです。その嫉妬が、資本主義は貧困を作るのだとの誤解を与えているのでしょう。

資本主義は戦争を抑止する

資本主義が発達し、貧困が解消され、多くの人が富を持つと社会を破壊する戦争は起こりにくくなります。自分の命をかけて戦地に向かい略奪するよりも、工業でもサービス業でも、何でもよいから仕事をした方が富を得やすいし、生命を危険にさらさなくて済みます。

資本主義と民主主義が結び付けば、さらに戦争は起こりにくくなります。民主主義国では、政治を担当するのは国民から選挙で選ばれた同じ国民です。誰もが納税義務を負っているので、国民全員が自分の納めた税金が戦争で無駄に費消されることを望みません。また、政治家も自分が戦争で死ぬ立場になることから、うかつに戦争をして紛争を解決しようとは考えません。

仕事をして多くのお金を稼ぎ、そして、多くの税金を納めている人ほど、戦争を望まないでしょう。だから、資本主義国同士では、戦争は起こりにくいと考えられます。

しかし、民主主義国でも戦争をする場合があります。それは自衛の場合です。また、戦争の利得が大きいと感じた場合も戦争となりますが、これは民主主義国だけでなく、独裁国家でも同じことです。

昭和恐慌を救ったのは、高橋是清の金融緩和でした。ところが、同じ時期に満州事変が起こり、人々はこれが経済回復の要因だと誤解しました。戦争は儲かるのだと。資本主義が戦争を起こすと思われているのは、このような誤解も背景にあるのでしょう。

人口増加による貧困を抑えられるのも資本主義

資本主義が人々を豊かにするのは、資本主義が複雑な制度を作ることとも関係しています。

前近代的な社会では、例えば農業の場合、人が田畑を耕し農作物を育てていたので、生産物を増やすためには、子供を産み働き手を増やすのが最も簡単な方法でした。しかし、生産量が増えても人口が増えるので、1人当たりの取り分はなかなか増えません。それどころか、子供が働ける年齢になるまでは、生産量の増加も見込めないので、1人当たりの生産量は減少することもあります。つまり、前近代的な社会では、人口増加の影響で1人当たりGDPを増やすことが困難だったのです。

ところが、資本主義社会では、個人の零細資本を集めて巨大資本とし、大きな農場、大きな工場などを建設し、より多くの生産物を生み出せるようになりました。それらの運営管理は複雑なものとなり、人々は読み書きの能力はもちろんのこと、計算など高度な能力も必要となりました。持っている知識や技術が高度であるほど、できる仕事も高度となり多くの富を創造できるようになります。

資本主義社会では、様々な制度が複雑化していきますが、複雑になるほど多くの富を創造でき、社会も豊かになっていきます。より高度な仕事に就くほど、多くの富を得られますから、人々は子供により高度な教育を受けさせようとします。しかし、高度な教育ほど教育費が多くかかります。だから、人々は子供を多く産むのではなく、少ない子供に高度な教育を受けさせることを選択します。これが、1人当たりの所得を増やすことに成功したのです。

人口減少が景気を悪くすると言われますが、人口成長率の低い国の方が1人当たりGDPの成長率が高い傾向にあるので、必ずしも人口減少が悪とは言えません。

格差と貧困は違う

資本主義は、格差を拡大しますが、貧困者数を減らします。

それは、民主主義と結びついた資本主義社会では、略奪による富の形成はできず、仕事によって富を増やすしかないからです。もちろん努力した者が必ず多くの富を得られるわけではありません。だから、格差が生まれるのです。しかし、それは貧困者数を増やすことではありません。資本主義は、社会全体を豊かにし、貧しい人の数を減らしてきたのです。


資本主義国より共産主義国独裁国家の方が好戦的なのは、現代の国際情勢を見たらわかるでしょう。

戦争は、人類が築いてきた豊かさを破壊し、個人の富も奪います。富を奪われたくない個人が増えれば、戦争は起こりにくくなるでしょう。

しかし、独裁者がいる国では、彼らは略奪や搾取によって自らを富ますことができます。戦争も、自分を富ます一手段となり得ます。

資本主義は完璧ではないでしょうが、より多くの人に富を得る機会を与えてくれます。社会全体が豊かになれば、貧困対策もしやすくなります。略奪も起こりにくくなります。

平和を維持するためには、多くの人が豊かになることです。核よりカネの抑止力の方が平和維持に貢献するのです。