ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

脂質は美と健康の大敵か

脂肪。

それは美の大敵であり、生命を死へと追いやる厄介者だと思っている人が多いです。体に多くの脂肪が付くと太るので美しくないと言う人がいます。脂肪が増えて肥満すれば様々な生活習慣病の原因となるので健康に良くないと言う人がいます。そのような情報が広まった現代日本では、脂肪は美と健康を維持することを邪魔する存在だと位置づけられています。

しかし、人間が生きていくためには絶対に脂肪が必要です。美と健康を損なわせる悪魔の脂肪が、なぜ人体に必要なのでしょうか?

脂質は生命の母

脂質が人体に必要な理由をそれが「生命の母」だからと語るのは、「『代謝』がわかれば身体がわかる」の著者である生物・化学系ライターの大平万里さんです。

脂肪と脂質はどう違うのか。簡単に言うと、脂肪は脂質の一種であり、脂質とは水になじまない化合物の総称です。大人になると、中学校の理科の時間で習ったことを忘れている人が多いでしょうが、我々の体を作っている細胞を覆う細胞膜はリン脂質と呼ばれる脂質で作られています。細胞膜は、細胞と外界を隔てる役割をするとともに細胞内外の物質のやり取りをする働きも持っています。

その構造と機能からすれば、細胞膜は生命現象を支えている立役者ともいえる。細胞膜(さらには細胞小器官の膜)に囲まれて、様々な代謝は安定して進行する。細胞膜がなければ、細胞そのものも存在しえないゆえに、酵素や筋肉の実態であるタンパク質が「生命の父」ならば、細胞膜は「生命の母」と表現してもよいかもしれない。
(169ページ)

人間の体を構成するのが細胞であり、その細胞を覆い物質のやり取りを行っている細胞膜がリン脂質でできているのですから、脂質は美や健康の大敵ではなく、むしろ美や健康に欠かせない存在なのです。

二面性を持つリン脂質

細胞膜の材料であるリン脂質は、水になじみやすい親水性と水になじみにくい疎水性という二面性を持っています。

人間の体の大部分は水でできています。もしも細胞膜がブドウ糖のような水に溶けやすい物質でできていたら、水に浸した時点でバラバラになってしまいます。それなら水になじまない中性脂肪を使えばどうか。この場合は水に溶けないことが仇となって、中性脂肪同士でまとまってしまい、細胞を覆う薄い膜を形成できません。

そこで、細胞膜の材料に親水性と疎水性の異なる性質を併せ持つリン脂質が選ばれたのです。

細胞が体内で水分子に囲まれているが故に細胞膜を構成するリン脂質同士は、ゆるくしか結合できません。しかし、このゆるい結合こそが細胞膜に流動性と柔軟性を持たせており、状況に応じて細胞の形を変えれるようになっているのです。

また、水に溶けている分子やイオンは、リン脂質に疎水性という性格があるために細胞の中に勝手に入れないようになっています。しかし、中には細胞内に取り込みたい水溶性の分子やイオンもあります。これらを細胞内に取り込む場合は、それ用のゲートを細胞膜に作り細胞内に取り入れる仕組みになっています。さらにリン脂質が疎水性の性格も持っていることから、タンパク質や脂質が近づきやすくなり、それらを細胞膜に自然と埋め込むことも可能です。

コレステロールも必要

細胞膜を構成する脂質には、リン脂質の他にコレステロールもあります。

コレステロールと聞くと、血液をドロドロにして血管を傷つけ、動脈硬化の原因になる悪玉物質だと連想する人が多いはず。下手をすると心筋梗塞脳梗塞になって突然死してしまう、そう、コレステロールはあの世への案内人なのだと。

しかし、このような視点は、コレステロールの一面しか見ていません。コレステロールがなければ細胞膜は安定しません。なんせリン脂質はゆるくしか結合していないのですから。そのゆるゆるの組織のまとめ役となっているのがコレステロールです。

例えば、リン脂質が密に並んでいる膜では流動性が低く窮屈な状態になっています。この窮屈になっているリン脂質の間にくさびを打ち込むようにコレステロールが入り込むことで、細胞膜の流動性が増します。逆にリン脂質間の隙間が大きいと流動性が高くなりますが、このような場合もコレステロールが隙間に入ることで、ゆるゆるだった細胞膜が安定するようになります。

コレステロールなくして細胞膜の安定性や流動性が保たれないのですから、コレステロールは地獄の案内人ではなく、細胞の健康を保つためになくてはならない存在なのです。

コレステロールの合成量は調節される

どんなにコレステロールが細胞の健康のために大切な脂質とは言っても、体内で過剰になるとよろしくありません。

体内のコレステロールの多くは循環し続けます。コレステロールの量が減少するには、体内に吸収されなかった分が大便として排泄されるしかありません。そうすると、コレステロールを多く含む食品ばかりを食べていると、体内のコレステロールが過剰になるのではないでしょうか。

全くごもっともな心配だ。ところが私たちの身体は、酵素によって巧妙に調整されている。食事から摂取されるコレステロールの量や、小腸からの再吸収の量に応じて、コレステロールの合成に関与する酵素は制御を受け、体内のコレステロールは同じような量を保つように調整される。コレステロールを含む食品ばかりをよほど大量に食べ続けない限り、体内のコレステロールが過剰であり続けることはない
(233ページ)

コレステロールを多く含む卵は、1日に1個までにしましょう。

以前によく聞いた言葉です。でも、コレステロールが多く含まれている食品を食べても、人間はコレステロールの合成量を調整するのですから、体内でコレステロールが過剰となることはそうそうありません。


体内で起こる化学反応を代謝と言います。新陳代謝基礎代謝、エネルギー代謝代謝には様々な種類があります。体内での化学反応は、部分的に見るのではなく全体を見ることが大切です。

大平さんは、「こうすれば、こうなる!」と断定的な物言いをする一部の医療関係者に苦言を述べています。人間の身体で起こる化学反応は、そんな単純なものではなく、ある部分に与えた刺激が他の部分に影響を及ぼすことだってあります。

脂肪は、美と健康の大敵と言うのは、脂質の一面しか見ていません。むしろ、美と健康にとって脂質は欠かせない存在です。

それでも、脂質のとり過ぎで太るのは御免だと言う方は、体の中で何がどうなって肥満という状態が作り出されるのかを代謝の面から調べてみてはいかがでしょうか。

「代謝」がわかれば身体がわかる (光文社新書)

「代謝」がわかれば身体がわかる (光文社新書)