ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

根性で筋肉は発達するが効率的かはわからない

オリンピックの競技を見ていると、アスリートたちの身体能力の高さに驚かされます。特に馴染みのないスポーツほど、驚きは大きいですね。

トップアスリートの常人離れした動きは、日々の鍛錬によるものであることは言うまでもありません。それはわかっていても、空中で何回転もできたり、鉄の塊を遠くに投げたりできるのは不思議です。

いや、そもそも、我々の筋肉が、自らの意思であろうと無意識であろうと、様々な動きをできること自体が不思議です。

筋肉のエネルギー効率は高い

我々が筋肉を動かすために利用するエネルギーは、アデノシン三リン酸(ATP)にいったん蓄えられます。

ATPは、アデノシンに3つのリン酸が結合した物質で、リン酸が1つ切り離されると、エネルギーが放出されます。この放出されたエネルギーを使って、我々の筋肉は動いています。

筋肉収縮の生理学を専門とする杉晴夫さんの著書「筋肉はふしぎ」によれば、筋肉はATPをゆっくり分解することで、最大約60%もの高い効率で、ATPが持つ化学エネルギーを力学的エネルギーに利用できるとのこと。蒸気機関のエネルギー変換効率が数%であることと比較すれば、その効率性の高さがよくわかります。自動車のエンジンとの比較でも約2倍の効率の良さです。

体内で、ATPを合成するための主な材料となるのは、普段の食事から摂取する脂質と糖質です。これらが持つ電子を取り出し、体内で酸素と反応させたときに発生するエネルギーを使って、アデノシン二リン酸(ADP)にリン酸をくっつけて、エネルギーをATPに蓄えます。しかし、ATPは、保存時間が短いので、合成されたATPはすぐに使われます。

日常のゆっくりとした動作であれば、「ATPを合成してはエネルギーを使う」を繰り返せば良いだけですが、全速力で走ったり、ジャンプしたり、剛速球を投げたりするような瞬発力を発揮する動作では、筋肉へのエネルギー供給が間に合いません。そこで、筋肉には、クレアチンリン酸を救急時のエネルギーとして蓄えておきます。

クレアチンリン酸は、クレアチンにリン酸が結合した物質で、リン酸が切り離されるとエネルギーが放出されます。このエネルギーを使って、ADPにリン酸を結合させATPを作ります。クレアチンリン酸からのATP合成は、脂質や糖質からATPを合成するよりも遥かに速い反応なので、緊急的に筋肉を使わなければならない場合に役立ちます。トップアスリートが、瞬間的に筋肉に力を入れて、速く走ったり、高く跳んだりできるのは、鍛えこまれた筋肉にクレアチンリン酸から素早くエネルギーが供給されるからなんですね。

損傷するほどに強くなる筋肉エンジン

トップアスリートでなくても、筋肉にはクレアチンリン酸が蓄えられています。しかし、オリンピックに出場する選手と運動習慣のない人では、筋肉が発揮する力に差があります。

両者の筋肉の差はどこにあるのでしょうか。

その答えは、筋肉エンジンの差です。

筋肉エンジンの性能アップのためには、筋肉エンジンの活動にともなう筋肉部品にミクロな損傷を与えなければなりません。つまり、運動して筋肉に負荷をかければ筋肉エンジンの性能がアップします。筋肉を使えば使うほど、筋肉エンジン製造が盛んになり、これまでよりも性能の高い筋肉エンジンが生み出されます。反対に筋肉を使わなければ、筋肉エンジンは小型化していきます。

レースに使う自動車のエンジンは排気量が多くパワーがありますが、トップアスリートの筋肉もそのようなものです。

しかし、パワーがあるエンジンを積んだ自動車の燃費が悪いのと同じようにトップアスリートの筋肉も、維持するためには多くのタンパク質摂取と活発な筋肉エンジン製造が必要になります。普段、運動をしない人の筋肉が小さくなるのは、筋肉エンジン製造が活発ではないからです。でも、日常生活ではトップアスリート並みの筋肉は必要ないので、ハードな運動をしないのであれば、小さい筋肉の方が燃費が良いです。

筋肉の発達にはガン遺伝子が関わっている

筋肉部品を製造するためには、筋肉部品を製造する工場に筋肉エンジンの活動状況が伝達されなければなりません。

筋肉エンジンの活動が活発であれば、筋肉部品の製造も活発に行われる必要があります。筋肉エンジンの活動状況は、上から下に何段もある滝のように伝達されます。これをカスケード反応といいます。

カスケード反応を経て、筋肉細胞の核に筋肉エンジンの活動状況が報告されると、筋肉エンジン部品の製造が始まります。このカスケード反応の最終段階で登場するのが、なんとガン遺伝子です。

ただし、ガン遺伝子と言っても、筋肉の増殖に関わっているのは前ガン遺伝子なので問題ありません。

筋肉エンジンの活動状況が筋肉部品工場に伝えられ、製造が開始されるまでに要する時間は、わずか10~20分です。筋トレをし終えて、ちょっと休憩している間に筋肉は発達を開始しているのです。

しかし、筋肉が目に見えて発達してくるまでにはある程度の日数が必要になります。その期間は、通常2~3ヶ月です。だから、トレーニングを開始して1ヶ月程度で効果がないからやめようと思ってはいけません。やるなら、3ヶ月は続けましょう。


昔から筋肉を発達させるためのトレーニング法はありました。でも、各国がスポーツ選手の育成のために行ってきたトレーニングは、カスケード反応などの知見とは無関係に試行錯誤しながら改良がくわえられていったものです。

そのため、時には身体を壊すトレーニングが行われることもありました。うさぎ跳びは、その典型例ですね。


筋肉は実践からしか発達しません。だからと言って、無思慮に身体を動かせば筋肉が発達するわけではありません。

筋肉が動く仕組み、筋肉が発達する仕組みには、まだわからない部分もありますが、すでにわかっている知見を採り入れてトレーニングメニューを考案すれば、怪我せず効率的に筋力アップが可能となるのではないでしょうか。先輩から受け継がれてきた伝統的なトレーニング法が、理にかなったものであるか、再考することも大切です。

筋肉はふしぎ―力を生み出すメカニズム (ブルーバックス)

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