ウェブ1丁目図書館

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タンパク質の高次構造形成、分解、オートファジー。生命が維持される仕組みはよくできている。

人間も含めた生物の細胞はタンパク質からできています。

タンパク質は20種類のアミノ酸の連なりです。アミノ酸の組み合わせ方によって、タンパク質の働きは様々に変化します。タンパク質の設計図はDNAに記録されており、その記録を元に細胞質内にあるリボソームアミノ酸をつなげていきタンパク質を作ります。

しかし、リボソームが作ったタンパク質は、ただアミノ酸が紐状に連なったチェーンのような物体で、これだけでは何もできません。人間世界には、どこにも紐状の人間はいないので、チェーン型のタンパク質の形を整える機能が体の中に備わっているはずです。

プロテイン・フォールディング

タンパク質が、タンパク質として機能するためには、紐状から立体構造にその姿を変型しなければなりません。タンパク質が、3次構造や4次構造といった高次構造を形成することをプロテイン・フォールディングと言い、日本語ではタンパク質の折り畳みと訳されます。

紐状のタンパク質が高次構造を形成する過程については、小胞体ストレス応答研究の開拓者である森和俊さんの著書「細胞の中の分子生物学」でわかりやすく解説されています。

タンパク質が高次構造を形成するための最初の難関は、細胞内のタンパク質濃度が非常に高いことです。森さんの表現を借りると細胞内のタンパク質濃度は、「どろどろのラーメンスープと同じような状態」なのだとか。

タンパク質を構成するアミノ酸には、親水性と疎水性のものがあります。細胞内の70%が水であることから、タンパク質の外側は水になじみやすい親水性のアミノ酸が並び、疎水性のアミノ酸は内側に潜り込むような形を取らなければなりません。しかし、タンパク質濃度が非常に高い細胞内では、疎水性のアミノ酸の連なりは水になじまないだけでなく、お互いがくっつきやすい性質を持っていることから、タンパク質が誤った構造になったり凝集したりといった不都合が起こります。

これでは、プロテイン・フォールディングがうまくいきません。

分子シャペロンが指南する

紐状のタンパク質が、細胞内で立体構造を形成できるようにするために登場するのが分子シャペロンです。分子シャペロンは、タンパク質が高次構造を形成するのを手助けする役割をします。タンパク質に寄り添い、どのようにして立体構造を形成すれば良いのかを指南し、タンパク質が見事に高次構造を形成できれば、分子シャペロンはタンパク質から離れていきます。

分子シャペロンには、「結合・解離型」と「閉じ込め方」の2種類があり、このうち後者をシャペロニンといいます。

シャペロニンは、自身の体の中に紐状のタンパク質を入れます。そして、体内でタンパク質を折りたたんでいく作業をし、高次構造が形成できたところでタンパク質を体外に吐き出します。魚型の鋳型に水に溶いた小麦粉とあんこを流し込んで、たい焼きを作っているような感じですね。

タンパク質の品質検査

分子シャペロンによって高次構造を形成したタンパク質は、様々な機能を発揮しますが、中には不良品も混ざっています。また、タンパク質は作り続けられるだけでなく、不要になった物が捨てられなければなりません。

このような不良品や不用品となったタンパク質を分解するのが、リソソームという細胞内小器官です。リソソームは、自分の体の中に入って来たタンパク質は分解しますが、体内に入って来ないタンパク質には手を出しません。

不要なタンパク質の分解は、リソソームの外でも行われています。リソソーム以外にタンパク質の分解を荷っているのは、プロテアソームです。プロテアソームは、リソソームのように体内に入って来たタンパク質を分解するものではなく、不要なタンパク質を見つけて分解します。では、プロテアソームは、どうやって必要なタンパク質と不要なタンパク質を見分けているのでしょうか?

その鍵を握っているのはユビキチンです。

このシステムでは、ユビキチンが共有結合したユビキチン化タンパク質を分解するけれども、結合していないタンパク質は分解しないという、厳格な区別をつけることができます。ユビキチンは1個結合するだけでなく、タンパク質は結合したユビキチンに2つ目のユビキチンが結合し、この2つ目のユビキチンに3つ目のユビキチンが結合し、さらに3つ目のユビキチンに4つ目のユビキチンが結合すると、分解のためのよい目印になります
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まるで、倉庫に保管している製品の棚卸をするような仕事が行われていたんですね。保管されている製品すべてに4枚複写の棚札を貼っていき、4人の責任者が今後も必要だと判断した製品から棚札を1枚ずつはがしていきます。最終的に4枚複写の棚札が貼られたままの製品は、販売不能と判断してスクラップに回します。

我々の体の中でも、プロテアソームが、4個のユビキチンが結合したタンパク質を不用品と識別して分解していたのです。体内では、タンパク質を再使用すべきかスクラップすべきかの品質検査が行われているんですね。

オートファジー

タンパク質の分解については、オートファジーという機能も興味深いです。

オートファジーは、細胞が飢餓状態に陥った時に自分の一部を食べて飢えをしのぐという考え方です。まるでタコが自分の足を食べるようなことが、我々の細胞でも行われているのです。

オートファジーについては、大隅良典さんが、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことで話題になりましたね。

タコが自分の足を食べるような機能が備わっている理由について、森さんが興味深い実験結果を紹介してくれています。

赤ちゃんは、母親の胎内では母親から栄養をもらえますが、胎外に出てへその緒が切られた瞬間から自力で栄養補給しなければならなくなります。しかし、消化酵素の合成や分泌の仕組みが整うまでには時間がかかるため、赤ちゃんは、その間、飢餓状態に陥るのだとか。そこで、赤ちゃんは、自らの体の一部を食べて栄養に変換するオートファジーを機能させるようです。


生物が、生物らしく活動するためには、タンパク質が高次構造を形成しなければなりません。そのためには、紐状のタンパク質を折りたたむ仕組みが必要ですし、不要なタンパク質を分解する機能もなければなりません。また、飢餓状態に陥った時には、一時的に飢えを凌ぐための仕組みが備わっていることも重要です。

これらの作業を無意識に行っている生物の体は、なんと高性能なのでしょうか。