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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

技術者は人間の思想の大切さを理解している

ホンダの創業者の本田宗一郎さんは、日本を代表する名経営者と評価されています。

本田さんは、技術屋というイメージが強いのですが、会社経営に関しては人間中心の考え方を持っていたようです。でも、本田さんの人間中心の考え方は、技術をとことん追求していったことで生まれたものであり、その点が他の企業と比較して特徴的だと思います。

人間あっての技術

本田宗一郎語録」で、本田さんが以下のように語っていたことが紹介されています。

「あくまで人間さまが買ってくれる品物をつくり出すこと、より人間に奉仕する品物をいかにつくるかがわれわれの課題であるべきだ」
(91~92ページ)

技術にばかり目が行っていたのでは、世の中の人がどのような品物を求めているのか理解できなくなります。それは、やがて技術のための技術になってしまいます。お金も技術も、あくまで人間に奉仕する手段にしかすぎません。だから、お金や技術をどれだけ追求したとしても、その上に必ず人間がいなければ、ヒット商品を生み出すことはできないのでしょう。

企業の研究は基礎研究にあらず

モノづくりをしている企業は、必ず技術の向上や改善のための研究をします。この世にない新しい技術を研究によって生み出すこともあるでしょう。

しかし、企業の研究の先には、必ず人間の生活を改善し向上させる技術の誕生がなければなりません。

本田も基礎研究の必要性を認めないわけではないが、ただ漫然と「いろいろやらせておけば、何か出てくるだろう」と思うのは間違いだ、と指摘する。ことに大学の研究機関とは違って、企業の研究所は「研究というものは、必要がなければなかなかできるものじゃない」という考え方なのだ。いうならば、本田の言う「研究」とは、学問上の学説ではなく、現代の生活を変えるような創意・工夫なのである。
(102ページ)

企業の存在意義とは、まさにこういうことなのでしょう。

基礎研究はいずれ人類の生活をより良いものとしてくれるかもしれませんが、それがいつになるのかわかりません。だから、企業が基礎研究と同じことをするのは、現在の消費者を無視した活動になってしまいます。とにかく今ある技術で、どうにかこうにか工夫して現在の消費者の生活をより良いものにすることが、企業に求められているのです。

企業の技術の追求は、どこまで行っても人間の暮らしを良くすることであり、人間を主体にしない技術を企業は追い求めてはなりません。

誰が考えても真理は真理

現代日本では、個人の考え方が尊重されやすいです。

戦前の日本や独裁国家と比較すれば、それは明らかです。しかし、個人の考え方の尊重の前に真理は真理でなければなりません。

「人間、理屈をつける気になると、相当に無理なことにも一見もっともらしい正当づけ、あるいは合理づけができるものである。(中略)科学や技術の世界なら、そんなゴマカシは通用しない。飛躍があったりすれば、実験がすぐに”それは違っている”と指摘してくれる」
(216ページ)

憲法改正について賛成や反対といった意見が出ることに対しては、それぞれの考え方を尊重すべきだと思います。法律は人間が作ったルールですから、多くの人が納得すれば、それで構わないでしょう。

しかし、科学や技術については、個人の考え方よりも真理が先です。

手からリンゴを放せば地面に落ちていきます。これは真理だから、手からリンゴをただ離すだけなら必ず落ちていき、そこに個人の考え方が入り込む余地はありません。

ところが、個人の考え方を尊重すべきだという風潮が強まってくると、真理を無視した考え方まで出てきてしまいます。そして、真理を無視した自己主張を展開する人が増えてくると、社会が殺伐としてくるのではないでしょうか?

真理をとことん追求した先にはじめて個人の考え方の尊重があるのであり、真理を追求せずに間違った持論を展開することは、尊重すべき個人の考え方ではありません。


人が他人を信用するときとは、どのような時でしょうか?

すぐに思いつくのは、嘘をつかない人だと分かった時でしょう。

では、嘘をつかないとはどういうことでしょうか?

それは、真実を相手に伝えるということです。つまり、真理を追究していく人こそ信用できる人ということです。

創業して間もない頃のホンダは、資本金が100万円しかなかったので、事業を大きくしようと思うと銀行から融資を受けなければなりませんでした。しかし、担保を設定できるような資産はホンダにはなかったので、銀行はホンダには融資をしませんでした。

だけど”本田さんと藤沢さんの二人は、やり遂げるんじゃないか。じゃあ、会社ではなく、二人に貸そうじゃないか”という感じだったんです。だから、借りられたのは二人の信用だったんです
(43ページ)

銀行から融資を受ける時、本田さんとホンダを支え続けた藤沢さんは、将来の展望を洗いざらい銀行に話したそうです。この時の経験があったから、本田さんは信用を重んじていたのでしょう。


技術者であった本田さんが人間の感情、とりわけ信用を大切にしていたというのは意外に思えるかもしれません。世間の技術者に対するイメージは、寡黙で機械のように計算ばかりし、人間の感情を理解するのが苦手な人といった感じではないでしょうか?

しかし、実際はそうではなく、技術者のように真理を追究していく人こそ、答えがひとつでなければならないことと尊重すべき個人の考え方を区別できているはずです。

真理の追究と事実の確認を軽視しているかぎり、人間の思想の大切さを理解することはできません。当然、技術を追求することは真理を追究することになりますが、その背景に人間の暮らしを良くするという意識がなければ、企業は存続できないでしょう。

本田宗一郎語録 (小学館文庫)

本田宗一郎語録 (小学館文庫)

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