ウェブ1丁目図書館

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なくならない不正に対処するのは経営者の仕事

業績が悪くなり不正を行ったとして、企業がメディアに取り上げられることがあります。

多くの従業員が働き、多くの取引先を持つ大企業ほど、不利益が発生すると隠そうとします。企業の不正は、ここから始まっていきます。最初から隠さず、正直に世間に情報公開していれば大事にならなかったのに長期間に渡り隠蔽してきたためにそれが明るみになると、世間から大きく非難され、組織の存続が危ぶまれる事態に追い込まれることもあります。

不正はなくならない

企業の存続が危ぶまれる不正を防止するにはどうすべきか。

公認内部監査人で公認不正検査士でもある元財務捜査官の小林弘樹さんは、「不正は、企業の内部に『過去は大丈夫であった』『これくらいはいいだろう』『利益のために多少の不正は許される』『儲けたい』という欲や甘さがある限りなくならない」と、著書の『財務捜査官が見た不正の現場』で述べています。

本書は、大和都市管財事件や梁山泊事件などの財務不正が行われた事件を紹介し、企業が、どのようにして不正の防止と発見に力を入れたら良いかが解説されています。

先にも述べたように欲や甘さがある限り、企業不正はなくなりません。人間は、誰もが欲を持っていますし、自分に甘い面がありますから、この世から不正をなくすことは不可能でしょう。しかし、企業が不正の防止や発見のための内部統制を構築していれば、その発生確率を低減させることはできます。

不正は、動機、機会、正当化する理由の3つが揃うと発生するとのこと。例えば、従業員が借金の返済をしなければならなかった場合、たまたま会社の金庫の鍵が開いているのに気づいたら、動機と機会の2つが揃います。そして、その従業員が、「会社は儲かっているんだから、自分が借金を返すくらいのお金を取っても問題ない」とか「安月給で働かされているんだから当然許されるだろう」と考え始めると、正当化する理由も整い、金庫からお金を盗もうとします。

動機や正当化する理由は、不正をしようとする者の心の問題なので対処が難しいですが、機会については、企業側で対策できます。上の例であれば、金庫の近くには必ず2名以上がいる状態を作り、鍵を持つ者や暗証番号を知っている者を限定することで、金庫からお金を盗む機会を与えないようにできます。

不正を防止するためには、社内で細かいルールを作っておき、それを実行できる環境を整えることが大切です。

企業風土や企業方針が組織人を支配する

企業不正のニュースを見た時、誰もが、「そんなことはやってはいけないとすぐにわかるだろう」と思うことでしょう。

しかし、その企業で働いている従業員は、企業風土、経営幹部の姿勢、企業方針といった統制環境の影響を受けているので、世間一般の善悪の判断基準だけでは行動できない事情があります。

この統制環境が、正しい業務のあり方よりも優先され、不正は起こるのです。

統制環境は、以下の5つから構成されます。

  1. 誠実さ、倫理観
  2. 監督責任の遂行
  3. 組織構造と権限・責任の確立
  4. 能力に対するコミットメントの表明
  5. 説明責任の強化・明確化


小林さんは、上記の中で、「誠実さ、倫理観」と「監督責任の遂行」が特に重要だと主張します。

「誠実さ、倫理観」については、行動規範を従業員全員に携行させたり、朝礼で読み上げたりすることで養うことができます。ただし、行動規範が、企業の利益を最優先にするものだと、不正が発生する危険があります。社会の中で我が社はどうあるべきかを行動規範とする必要があるでしょう。

監督責任の遂行」については、代表取締役や経営陣の業務を彼らから影響を受けない社外取締役などがチェックする体制を整えることが望ましいです。

重要になるマネー・ロンダリング対策

一昔前までは、マネー・ロンダリング資金洗浄)対策は、銀行や証券会社など、一部の金融機関だけが行うものとの印象がありましたが、現在では、多くの業種が、マネー・ロンダリング対策をしなければならなくなっています。

マネー・ロンダリングは、反社会的勢力が違法な手段で得た資金を合法的な手段で得たように見せるものですが、これに自社が関わらないようにしなければなりません。そのためには、反社会的勢力についての情報を得られるような体制を社内で構築しておく必要があります。

反社会的勢力のチェックの中で、専門家ではない人ができる方法としては、関係者へのヒアリング、新聞記事・雑誌などの参照、インターネット検索、企業情報サービスの利用、官報の閲覧、登記情報の確認があります。これらで得られた情報は、社内に集約し、「取引排除対象者」としてデータベース化しておくことが望ましいです。

これから、キャッシュレス決済が普及していくと、新たなマネー・ロンダリングの手法が次々と出てくるでしょう。今後は、自社がどのキャッシュレス決済を採用するか、セキュリティ面などを考慮し慎重に検討していかなければなりません。


企業不正が起これば、倒産という事態に発展することもあります。そうなると、多くの従業員の生活が破綻しかねません。経営者は、従業員の生活を守るために不正の防止や発見に力を入れなければならないことを知っておく必要があります。