僕は、ほぼ毎日のように本を読んでいます。
理由は好きだから。でも、好きという理由だけでなく、仕事のための勉強として本を読むことも多いので、必ずしも楽しむために読んでいるとは言えません。
普段、読書をされる方なら、僕のように楽しみながら本を読む場合と仕事のために本を読む場合とがあると思います。以前は、どちらの場合も同じような読み方をしていたのですが、樋口裕一さんの「差がつく読書」を読んでから、仕事の場合と趣味の場合で読み分けるようになりました。
樋口さんの言葉を借りれば、仕事のための読書は「実読」、趣味の読書は「楽読」ということになります。
実読と楽読とは
実読とは、何かの役に立てることを目的とした読書です。仕事や勉強のために情報や知識を得ようとして本を読む場合が該当します。
一方の楽読とは、何かの役に立てるためではなく、単に楽しみのためだけにする読書のことです。
実読の例は、実用書、専門書、ビジネス書、参考書、辞書を読むことですね。楽読は、小説やエッセイを読むことです。樋口さんは、マンガについて触れていませんが、こちらは楽読に該当するでしょう。
普段から、実読と楽読の両方を実践している人は多いと思いますが、中には、実読だけとか楽読だけと、どちらか一方の読書しかしていない人もいると思います。
この二つの読書の両方があってこそ、人生は豊かになる。片方だけでは、情報を追いかけるだけの味気ない人生になるか、それとも、浮世離れした趣味人で終わってしまう。両方がかみ合ってこそ、地に足をつけた上で、深く考えることができ、情報をうまく生かすことができる。(12ページ)
その通りでしょう。
いつも仕事のためだけに専門書や実用書を読み漁っているだけでは味気ないですよね。何か話をしても、難しいことしか言わない人と会話をしても退屈です。あの人は、仕事の話しかしないと思われると、人との会話が減っていくかもしれません。反対に仕事中でも口を開けば、ゴルフや競馬といった趣味の話しかしないというのも魅力を感じません。忙しい時に遊びの話をされると、「ちょっとは仕事してくれ」と思ってしまいます。
でも、実読と楽読の両方を実践している人と話をすると、場の雰囲気をわきまえているというのか、状況に応じた会話をしているように思います。そういった人と話をしていると、人としての奥行きの深さのようなものを感じますね。
実読だけをしている人、楽読だけをしている人を否定する気はありませんが、やはり、両方を行う方が、仕事も充実し趣味もより楽しむことができると思うので、できることなら両方実践した方が良いでしょう。
実読の方法
実読の目的は、情報を収集することです。でも、情報を集めただけでは実読とは言えません。実読で得た情報は、発信してこそ意味があります。本から得た情報を頭の中にしまっていたのでは、実読とは言えませんし、本を読んだ意味がありません。だから、実読をしたら、必ず、どのような形であれ、情報発信することが大切です。
実読をするにあたっては、必ずしも本全体をじっくりと読む必要はありません。自分が必要としている情報が書かれているところだけを読む部分読も立派な読書です。また、本を読んでいて、途中で興味がなくなった場合でも最後まで読むという人が多いと思いますが、そういう時は、途中で放り出しても構いません。それよりも次の本に移った方が、自分にとって役に立つ内容が書いてあるかもしれませんから、興味が無くなったら他の本を読むというのもひとつの手です。
樋口さんは、前掲書で、実読のテクニックとして、アリバイつくり読み、独立読み、裏付け読み、飛ばし読み、斜め読みの5つの方法を紹介しています。
1.アリバイつくり読み
アリバイつくり読みは、「読んだ」ということを示すための読書です。
これは、本来読書とは言えないのですが、人からすすめられた場合など、一応読んだということを相手に示すために行います。取引先や上司からすすめられた本を読まないわけにはいきませんから、こういう時には、アリバイつくり読みをすると良いでしょう。
アリバイ作り読みは、前書きと後書きを読むことに加えて、目次にも目を通しておきます。これだけでも、その本の大まかな内容をつかむことができます。特にその分野についての知識があらかじめある場合には、目次を読むだけでも、著者の主張がわかります。
2.独立読み
独立読みは、その本の一部だけを読む方法です。なので、全体がひとつのストーリーとなっているような本には不向きな読書術です。
独立読みが適しているのは、章ごとに内容が異なる本です。例えば、地理や歴史の本ですね。地理の場合だと、アメリカ、中国、アフリカといった地域ごとに章が分かれているでしょう。歴史の場合は、原始時代から現代まで、それぞれの時代ごとに章が分かれているものなら、鎌倉時代だけ、江戸時代だけを読んでも十分に理解できます。
ただし、樋口さんは、部分読みをする場合でも、前書きと後書きくらいは目を通しておいた方が良いと述べています。そこに全体の意図などが書かれている場合が多いからです。その意図を見落としてしまうと、著者の主張を理解できません。
3.裏付け読み
裏付け読みは、自分の主張を裏付けるためのデータを探すための読書です。
仕事の中で、自分の主張を上司や取引先に納得してもらう場面というのは、よくあることです。その時にただ、自分の意見だけをどんなに熱く語っても説得力がありません。こういう時は、自分と同じ意見を述べている人の本を利用すると良いでしょう。
樋口さんは、裏付け読みをする場合、①自分の主張に好都合なデータ、②自分の主張に不都合なデータ、③自分の主張には無関係だが、目を引くおもしろいデータ、それぞれに異なる色の付箋を貼って読むことをすすめています。
また、不都合なデータを切り捨てるのではなく、それについても考えることが大切です。プレゼンの時に反対意見を持っている人が、そこをついてくる可能性があるからです。
そして、その不都合なデータをプラスに転化することも重要です。「今、よくない。だからこそ、今、将来性がある」といった感じで、いろいろと考えてみましょう。
4.飛ばし読み
飛ばし読みは、本の一部だけを読むのではなく、飛ばし飛ばしであれ、最初から最後まで読む方法です。
正確ではないものの、とりあえず本全体をある程度理解しようとする読み方ですね。時間が限定されている時に有効な読書法といえるでしょう。
飛ばし読みでは、何を問題としているのか、それに対する筆者の態度はどうなのか、根拠は何なのか、そして、どんな提案をしているのかを見ていきます。飛ばし読みでは、全体を大雑把に理解することなので、小見出しで理解できたら飛ばす、裏付けのためのデータや引用は飛ばすのが、時間短縮に有効です。
読んでいる途中で、根拠に対し疑問が出てきたときは、その部分をじっくり読むと、自分なりの新しい考えが出てくることもあります。
5.斜め読み
斜め読みは、上記4つの読書法とは異なり、本全体に目を通す読み方です。ただし、じっくりと読む精読とは異なります。
斜め読みというのは、基本的に最初から最後までを視野に入れてる読書だ。すべての文字をしっかりと読むわけではないが、ほとんどすべてのページをめくる。そして、すべてのページに何が書かれているかを把握しながら、一字一句きちんと読むわけではない。(64ページ)
斜め読みでは、すでに知っている部分は飛ばしながら読みますが、わかりにくい部分については注意して読みます。飛ばした部分以降で違和感が出てきた場合には読み返した方が良いでしょう。
また、その本のキーワードとなる言葉については、しっかりと読んでおく必要があります。
重要となるのが、結論部分を探すことです。その本が何を述べたいのかは、すべて結論部分に書かれているといっても良いでしょう。だから、斜め読みの際は、結論部分を探すことが大事です。なお、結論部分は最後にあるとは限りませんので、本全体から注意して探す必要があります。
以上が、実読のテクニックです。
先ほども述べましたが、実読は、情報発信をしてこそ価値があります。仕事で活かすのはもちろんの事、食事の時にちょっとしたウンチクを述べるのも、嫌がられない範囲で、どんどんと実践していくべきです。
なお、専門書をしっかりと理解するためには、精読が必要になりますので、何でもかんでも、飛ばし読みや斜め読みで十分というわけではありません。
楽読の目的と方法
楽読は、何かに役立てることを目的とはせず、楽しみのためだけにする読書のことです。
なので、こうやって読むべきだというものは基本的にありませんし、本を読むことを強制するものでもありません。小説でもエッセイでも戯曲でも好きな本を選んで、自由に読んでください。
自由に読めばいいというのなら、別に読まなくても良いと思います。でも、樋口さんは、楽読は、読んだ人間の世界観を変えるものだと述べていることから、できることなら読書を楽しむ習慣をつけておくのが良いでしょう。
「実読」は、即効性を求める。情報を知るための読書だ。だんだんと熟成し、人間の根本までも変えてしまうような読書ではない。だが、「楽読」はじわじわと人間そのものの根本にまで影響を及ぼす。だからこそ、楽しい。(122ページ)
楽読は、とにかく楽しみながら読めばいいのですが、樋口さんは、じっくりと読む精読をするのなら、2回3回と繰り返して読むことをすすめています。小説は、ストーリーを追いかけることに夢中になります。だから、初めて読んだ時には、細かいニュアンスに気付かないことがあります。でも、2回3回と繰り返して読めば、そういう部分にも気づけ、また違った味わいを楽しむことができます。
樋口さんは、楽読に関して繰り返し読みの他に一人の作家を追いかけることもすすめています。
一人の作家を追いかけることで、その人の全貌がわかるようになってきます。ある時から、作家の人生観が変わってきているのに気づいたりするのも意義深いことです。
一人の作家を追いかけると視野が狭くなりそうな気がしますが、実は、その逆で、だんだんと守備範囲が広がっていくんですよね。
僕の場合だと、読書を始めた頃は、司馬遼太郎が好きでたくさんの作品を読みました。司馬遼太郎は時代小説が多く、一通り読んだところで、次は池波正太郎の作品を読むようになりました。さらに吉川栄治へと続いていきます。
時代小説の中でも幕末の作品が好きだったのですが、読書を続けるうちに戦国時代や平安時代の作品も読むようになりました。きっと、最初に一人の作家を追いかけたことで、守備範囲が広がっていったのでしょう。今では、実用書や専門書も含め、時代小説以外の本も読むようになっています。
多読の後に精読
実読と楽読のどちらにも共通する読書法として、多読と精読があります。
多読はとにかくたくさんの本を読むことで、精読はじっくりと内容を理解するために読む方法です。樋口さんは、最初は多読することをすすめています。そもそも、本は一度読んだだけで理解できるものではありません。だから、同じ本を繰り返し読んだり、関連する本を多く読むほうが、最初は精読よりも有効といえます。
私は、精読というのは、多読の後に来るものだと考えている。多読して、本の面白さを知る。だんだんと本の細かい部分の理解が進んでくる。本の中に著者がさまざまな工夫をしていること、文章のほんの少しの違いの中に理想が現れることなどを知ってくる。精読はそれからで十分なのだ。(30ページ)
読書の習慣がないけど、これから本を読んでいきたいと考えている方は、簡単に読める本を多読するのがおすすめです。
そうすることで、少しずつ知識が増えていき、やがて、難しい本でも理解できるようになります。自分が知らない分野の本を読む時も簡単な本を多読することから始めると良いでしょう。そして、それなりの知識がついてきたところで専門書を精読する方が、遠回りのように思えて、実は近道だったりします。
また、多読をする際は、1冊の本を読み切ってから次の本を読みだす必要はありません。2冊でも3冊でも同時並行で読んで構いません。
そんな読み方をしたら、本の内容がごちゃ混ぜになって、頭に入らないと思うでしょう。でも、これは連続ドラマなんかと一緒です。月曜日のドラマを見て、水曜日のドラマを見たとしても、翌週の月曜日にドラマの続きを見れば、前回のあらすじを思い出します。読書の場合も、これと全く同じなので、同時並行で読んでも混乱することはありません。
これから読書の習慣をつけようかなと思っているなら、ぜひ多読から始めてください。
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