現在、日本では、お寺、神社、教会など様々なところで結婚式が行われています。海外挙式なんかも人気ですよね。
でも、海外挙式に関しては、両親や年配の親族から反対されることもあるでしょう。日本人なのだから、お寺や神社で式を挙げるべきだとか、海外挙式は邪道だとか、いろいろと理由をつけて反対された新郎新婦もいたのではないでしょうか?
そして、反対されてまで海外挙式をしなくても良いだろうと考え、日本古来からの神前結婚式にしたという夫婦もいたかもしれません。
しかし、神前結婚式が日本古来からの風習だったわけではありません。実は、現在の神前結婚式は、ほんの100年ほど前に行われるようになったものなのです。
王室や皇室への憧れが強い日本人
宮内庁書陵部首席研究官であった飯倉晴武さんの著書「日本人のしきたり」によると、現在の神前結婚式が行われるようになったのは、明治33年(1900年)以降とのこと。
日本では、古くから神道が日常生活と密接に関わっていましたが、現在のような神前結婚式が行われるようになったのは、明治時代になってからのことです。
鎌倉時代ごろの武家の婚礼では、婿方の家に輿に乗った花嫁が来ると、婿方が家族も参加して夫婦の盃を交わし、その後、親戚などに紹介するという、ごく簡単なものでした。やがて、婚礼はしだいに儀式化して、室町時代には三三九度も加わるようになります。
現在の神前結婚式の形は、明治三十三年の皇太子(後の大正天皇)ご成婚の際の儀式を手本にして広まったといわれます。
また、婚礼の儀式を婿方の家以外の場所で行うようになるのも、この大正天皇ご成婚を契機としてからです。
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100年前も現在も、日本人のロイヤルファミリー好きの性格が変わっていないことがよくわかりますね。
最近もイギリスのウィリアム王子が来日した時、日本人は大盛り上がりでしたし、お母上のダイアナ妃も日本人に大人気でした。また、多くの日本国民が天皇陛下を崇敬しています。
おそらく、ロイヤルファミリーへの憧れは、日本人に限ったものではないでしょうが、ロイヤルファミリーで行われている行事や祭礼を自分たちの生活の中にも採り入れようとするのは、日本人の特徴なのかもしれません。もしも、大正天皇が教会で結婚式を挙げていたら、その後、多くの日本人が教会で挙式していたのではないでしょうか?
結婚は、日本では家と家との結びつきだと言われます。でも、憲法第24条では両性の合意で結婚できるとされているのですから、結婚式は新郎新婦が自由に決めれば良いことです。日本人なら日本の伝統を守って神前結婚式にしろと両親に反対されても、それは明治時代の流行で始まったものだと反論し、自分たちの好きなやり方で挙式すれば良いのです。
結納はプロ野球のポスティング制度と同じ
さて、結婚が正式に決まると両家の間で結納が取り交わされます。
結納は、結婚が決まれば、お互いに贈り物をするもので、とりあえず、それなりの物品や金銭を贈り合おうと、何となく行われているのではないでしょうか?現在では、もはや儀式化しており、その意味を深く考える人は少なくなっていそうです。
戦国時代から江戸時代にかけて、結納は、婿方から花嫁の衣装や帯などの身の回り品一式を取り揃えて贈られるようになります。そして、嫁方でも、贈られた結納の額と家の格式に見合った花嫁道具を揃えて婿方に届けていました。それが時代を経て、物品から金銭に変わっていきます。
しかし、これは表向きの理由で、本当はプロ野球選手がメジャーリーグに移籍するとき、日本での所属球団にアメリカの球団が戦力を失うことの保障として金銭を支払うポスティング制度と同じ意味を持っていたのです。
結納は両家の結びつきを確かめる儀礼的な贈答交換でしたが、婚姻はある面で家の働き手が代わること、つまり嫁方の働き手が婿方に移ることに対する代償的な意味を含んでいたともいわれます。
また、婚姻が婿方の都合で破綻したときの、一種の保障的な意味も含んでいたということです。
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現在、新婦が一人暮らしで両親と生活を別にしているのなら、結納は単なる儀式でしかないということですね。でも、新婦が両親の生活費も稼いでいるのなら、その保障として新郎は多額の結納を贈る必要がありそうです。それが無理なら、婿入り婚となるのでしょう。
お色直しは新婦だけで良い
さて、結婚式が無事に終わると今度は披露宴が催されます。
昔は結婚式の方が重要だったのですが、神前結婚式の広まりにより挙式よりも披露宴に重きが置かれるようになってきました。披露宴は、その名の通り新郎新婦のお披露目の儀式です。親戚、知人、友人を招き晴れの姿を披露するわけですね。
現在の披露宴では、新郎新婦が衣装を着替えるお色直しが行われますが、基本的に新郎がお色直しをする必要はないでしょう。
このお色直しは、昔、花嫁が実家の家紋をつけた白無垢で婚礼に臨み、式後は、嫁入り先の家紋をつけた衣装に着替えたことに始まるといわれます。また、結婚式という厳粛な儀式では清純を表す白無垢を着ていて、披露宴では別な着物に着替えたため、という説もあります。
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多くの女性は、結婚後に夫の性に変わるので、お色直しはそれに合わせて行われるものだったんですね。なので、婿入りの場合は、普通に考えると新郎がお色直しをすることになるのでしょう。
また、夫婦別姓であればお色直しをする必要はないと言えます。
とは言え、婿入りでも夫婦別姓でも、お色直しを行うのは新婦もしくは新郎新婦の両方なのでしょうね。それがホテルの売上アップにつながるでしょうから。
結婚式や披露宴に限らず、日本人のしきたりは、日本人特有の性格を上手く利用して商売人が作り上げていったものが多そうです。
有名な話では、土用丑の日にウナギを食べる風習は、江戸時代に平賀源内がウナギ屋の宣伝のために考えついたものです。節分の日に食べる恵方巻きもコンビニが広めたものですが、何となく江戸時代以前からそのような呼び名で太巻きを食べていたような印象を受けますね。
おそらく、神前結婚式も大正天皇のご成婚の儀式を見た商売上手な人が思いついたのではないでしょうか?
他にも、日本古来からの伝統と思っているものの中には、近年に習慣化したものがあるはずです。そして、それらは賢い商売人たちが、日本人の性格をよく理解して、楽しんでもらうために考えたものなのかもしれません。

日本人のしきたり―正月行事、豆まき、大安吉日、厄年…に込められた知恵と心 (プレイブックス・インテリジェンス) (青春新書インテリジェンス)
- 作者:晴武, 飯倉
- 発売日: 2003/01/01
- メディア: 新書