ウェブ1丁目図書館

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仮想通貨の価値の正体

世の中には、神や仏を信じる人もいれば信じない人もいます。

神や仏を信じている人は教会や寺院に寄付をしますが、信じていない人は寄付をしません。無神論者は、教会や寺院への寄付は何の価値もないと考えているからです。

最近、流行している仮想通貨も、神や仏を信じるかどうかという議論に似ています。仮想通貨に価値があると信じている人は、円やドルなど主権国家が発行している通貨(これをソブリン通貨と言う)を仮想通貨と交換します。しかし、仮想通貨に何らの価値も見いだせない人は、ソブリン通貨を仮想通貨に交換することはありません。

ところで、仮想通貨に価値があると信じている人は、何を根拠に仮想通貨に価値があると考えているのでしょうか?

ブロックチェーンは改ざんされにくい取引記録

ビットコインに代表される仮想通貨に価値があると考える人は、仮想通貨の希少性をその理由に挙げるかもしれません。また、仮想通貨を管理する技術に将来性を感じているから、仮想通貨に価値があると考えている人もいるはずです。

仮想通貨の管理には、ブロックチェーンと呼ばれる仕組みが採用されています。

ブロックチェーンの仕組みは、日本経済新聞社のシニア・エディターである木ノ内敏久さんの著書「仮想通貨とブロックチェーン」で簡単に解説されています。

ビットコインの場合、直前約10分間に起こったビットコインのやり取りは一つのブロックに格納されます。そして、ビットコイン利用者にその内容が送信され、ネットワークの全参加者によって「問題なし」と承認されれば、既存のブロックチェーンと正式につながれます。

何を言っているのかよくわからない方は、ルーズリーフを思い浮かべると良いでしょう。約10分間に行われたビットコインの取引を1枚のルーズリーフに全て記録します。そのルーズリーフは、FAXで取引参加者全員に送信されます。FAXを受けた取引参加者は、取引記録に問題がなければ承認印を押印し、FAXで送り返します。取引参加者全員の承認を得たら、ルーズリーフはファイルに綴じられます。仮にルーズリーフに記録された取引が改ざんされても、取引参加者全員にFAXが送られているので、誰かが改ざんに気づき正しい取引記録に修正されます。

ビットコインの場合、取引記録の承認作業は、計算パズルを解くような形で行われます。そして、一番早くパズルを解いた人は、新たなブロックを追加する権利を得、報酬として自動生成されるビットコインを入手します。

ビットコインは、2100万個が発行された後は、追加の発行が行われないことになっています。そして、新規発行は、計算パズルを解くことで行われます。2016年7月からの4年間は、12.5個のビットコインがパズルを解くたびに発行され、次の4年間は半分の6.25個、その次の4年間はさらに半分の3.125個という具合に発行されるビットコインは時間の経過とともに減少していきます。

最終的に2100万個のビットコインが発行されるのは2140年なので、まだ100年以上も先のことです。

高コストが価値の裏付けになっている?

ビットコインは、約10分ごとに新たなコインが発行され、最も早く計算パズルを解いた人に与えられます。この仕組みが、あたかも金やダイヤモンドを掘り出すことに似ていることから採掘(マイニング)と呼ばれています。また、計算パズルに参加する人のことをマイナーと呼びます。

ビットコインが誕生した当初は、個人でもマイニングに参加することが可能でした。しかし、ビットコインの取引が活発に行われるようになると、マイニングに特化した仕事をする人々が現れ、個人がマイニングに参加することがほぼ不可能となりました。

マイナーは、より早く計算パズルを解くために性能の良いコンピューターに多大な投資をします。そして、エネルギーも多量に消費します。マイナーが消費する電力は膨大で環境への負荷が懸念されています。

ビットコインは10分ごとに12.5BTC(125万円)が採掘されていますから、1時間で750万円の収入になります。収益をすべて電力代につぎ込んだとすると、750万円÷5円=150万キロワット時の消費となります。(中略)日本の一般家庭の電力消費は、1カ月あたり300キロワット時とされていますから、およそ360万世帯分の電力消費に匹敵します。1BTC=10万円の時、全世界に散らばるマイナーたちはざっと1000万人前後、東京並みの巨大都市が使う電力を消費して計算競争を続けていることになります。
(237~238ページ)

1個のビットコインが10万円以上で取引されている時は、マイナーは電気代の回収が可能ですが、10万円を下回ると電気代の回収ができなくなります。マイナーは、1個のビットコインの価値を何とかして10万円以上にしておきたいでしょう。そのために相場操縦をするのかどうかわかりませんが、1個のビットコインの価値が10万円以上だと信じていなければマイニングを継続しないでしょう。

ソブリン通貨との交換禁止で仮想通貨の本当の価値がわかる

仮想通貨の取引は、年々活発になっています。

しかし、仮想通貨で買い物をする人を見たことがありません。仮想通貨の取引が活発になっていると言っても、それは、円やドルなどソブリン通貨との交換ばかりです。

仮想通貨の真の価値を知るためには、ソブリン通貨との交換を禁止するのが最も効果的な方法です。つまり、仮想通貨を財の購入やサービスの享受にしか使えないようにするのです。

鶏卵10個を1BTCで販売すると、お店が決めれば、他の財やサービスもそれを基準に値決めが行われるはずです。牛乳1リットル、ブロッコリー1株、洗濯用洗剤1袋、靴下1足、豚ロース100グラム。これらは鶏卵10個とほぼ同じ価格で買えるので、すべて1BTCの値札が貼られて販売されます。

通貨は、財やサービスとの交換に使われてこそ価値があるのです。通貨同士の交換にしか使われていない状況では、仮想通貨には大した価値はないでしょう。

では、ビットコインを普段の買い物に使うことができるでしょうか?

日本国内で、ビットコインでいくらと書かれた値札を貼っているお店があるのかもしれませんが、今までにそのようなお店を見たことがありません。ビットコインで買い物をしたくても、ほとんどのお店がそれを許さないのが現状です。

仮にビットコインで買い物ができるようになったとしても、日常的にビットコインで買い物をするのは、現状では技術的に不可能です。

なぜなら、ビットコインの取引は1日に60万件程度しか処理できないからです。これはクレジットカードのVISAの0.1%の取引量でしかありません。


ビットコインの信頼性はブロックチェーンによって担保されていますが、そのブロックチェーンが取引量に制約を課しています。今後も、マイナーが増えれば多くのエネルギーが消費されていきますから、ビットコインの管理コストは増大していくでしょう。

管理コストがかかるから価値があるのか?

冷静に考えれば、そのようなことはないとわかります。価値がある物は盗難の危険が高いから管理コストがかかるのです。破損すると多くの価値が失われるから管理コストがかかるのです。

マイニングに多くの費用をかけたから、それ以上の値で売らなければ元を取れないという発想が、仮想通貨の価値を決めているのではないでしょうか。

仮想通貨とブロックチェーン (日経文庫)

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