「力」とは何か。
簡単なようで難しい問いです。「それはパワーだ」と言う人もいるでしょう。
では、パワーとは何でしょうか。「パワーは物を持ち上げる力だよ」と答えると、今度は「パワー=力」となるので、パワーが何かを説明しないと力がどういうものか説明したことになりません。
日常的によく使う「力」という言葉は、意外と奥が深い言葉なのです。
力は物体を加速させる能力
力は、物理で習った運動方程式で定義されています。
「物理なんてもう忘れた」とおっしゃる人もいるでしょうし、そもそも物理をほとんど学んだことがない人もいると思います。
でも、大丈夫です。大人になってからでも、物理を学ぶことはできます。
物理教師の桑子研さんの著書「大人のための高校物理復習帳」は、すでに物理の知識が忘却の彼方に行ってしまった方や大して物理を学んだことがない方にも、わかりやすく解説されているので、大人になってから物理を学ぼうと思っている方に最適な1冊です。
さて、力の定義ですが、運動方程式を見ればすぐにわかります。運動方程式とは、以下の公式でしたよね。
質量(m)×加速度(a)=力(F)
上の公式の右辺は、加えた「力」を示しています。そして、左辺を見ると「加速度」があるので、力は物体を加速させる能力だと定義することができます。
例えば、スケートリンクで子供の背中を押すと、押された子供のスピードは加速します。なぜ加速するのかというと、力を加えたからです。
では、今度は、同じ力で大人の背中を押したらどうなるでしょうか?きっと、大人は子供よりも加速しないはずです。
なぜ、大人は子供よりも加速しないのかも、運動方程式を見ればわかります。
質量(m)×加速度(a)=力(F)
の式は、以下のように変形できます。
加速度(a)=力(F)/質量(m)
変形した式の右辺を見ると分母の質量(m)が大きくなるほど、左辺の加速度(a)が小さくなることがわかります。大人は子供よりも体重が重いので、同じ力を加えて背中を押しても、加速度が小さくなるんですね。
止まっていても力が加わっている
運動方程式から、力は物体を加速させる能力だとわかりました。
ということは、力が加わっている状態とは物体が動いている状態だと言えそうです。
ところが、物体が静止していても力は加わっています。どういうことでしょうか?
例えば、リンゴを地面に置きます。この時、リンゴは重力という下方向の力を加えられているのですが、それと同時に地面から上方向に垂直抗力という力を加えられています。そして、重力と垂直抗力が釣り合っているので、まるで上からも下からも力を受けていないようにリンゴは静止します。
上向きの力(N)=下向きの力(W)
式で表すと、上のようになります。このように力を打ち消し合っている状態を「力のつり合い」と言います。
「そうか、静止している状態とは重力と垂直抗力がつり合っている状態だから、動いている物体は力がつり合っていない状態なんだ」
と思うかもしれませんが、物体が動いていても、重力と垂直抗力がつり合っている場合があります。それは、「加速度=0」のときです。
加速度=0とは速度が変化しない運動・・・・・・そう、同じ速度で動き続けていれば、速度変化がないので、力はやはりつり合います。たとえばカーリングのストーンはスーッと等速(同じ速さ)で動き続けます。このときストーンには重力と垂直抗力以外の力はなく、力は合計でゼロになっています。
このように、物体は力がはたらいていなければ、初めに持っていた運動を続けます。この性質を慣性といいます。このように考えると、静止は速度0の等速度運動といえます。
(19ページ)
ただし、絨毯の上をカーリングのストーンを滑らせても、すぐに止まってしまいます。これは、絨毯の上では摩擦力が働くからです。
もしも、摩擦力がなければ、カーリングのストーンは、同じ速度でずっと滑り続けます。この空気抵抗や摩擦力が働かなければ物体は速さが変わらずに動き続けることを慣性の法則といいます。
慣性の法則は運動の第1法則とも呼ばれています。ちなみに運動の第2法則は、運動の法則で、運動方程式のことです。そして、運動の第3法則は、作用反作用の法則です。
因果応報の作用反作用の法則
例えば、右手をグーにして壁を思いっきり殴ったとします。
すると、壁に穴が空きました。この壁に穴を空けた力を作用力と言います。
殴った右手は、壁に穴を空けるほど大きな力を出しているので、親指以外の4本の指の背中は腫れあがり、とても痛い思いをしたはずです。この右手の痛みを作った力を反作用力と言います。
作用力と反作用力は、同一直線上にあり、大きさが等しく、互いに逆向きになります。これが作用反作用の法則です。
相手に加えた力と同じ力が自分に返ってくるのですから、「目には目を、歯には歯を」といったところでしょうか。作用反作用の法則は、因果応報の法則とも言えそうです。
運動の第1法則、第2法則、第3法則は、日常生活でよく目にします。当たり前すぎるせいで、普段は全く意識していないことが多いですね。
物理は、大学教授や工学系の仕事をしている人だけに関係があるように思えますが、実は、日常生活と深くかかわっているのです。

- 作者:桑子 研
- 発売日: 2013/05/21
- メディア: 新書