ウェブ1丁目図書館

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本屋は言語化できていない欲望を発見する場

インターネットの検索エンジンSNSに表示されるキーワードには、人々の欲望が表れています。例えば、ダイエット関連のキーワードは、商売のタネになることも多く、現代社会ではマーケティングに欠かせないものとなっています。

検索ワード・ランキングは、宝の山であり、お店が上位ワードに関連した商品を棚に並べれば、すぐに売り切ることもできます。だから、インターネット上の言語化された欲望をつかむことで、これまで以上にビジネス・チャンスが広がります。

しかし、自分自身の欲望を言葉にして表現できる場合は意外と少なく、いったい自分は何を望んでいるのかを具体的に語れないものです。でも、自分自身の言語化できていない欲望を発見できる場所はあります。それは、本屋です。

欲望の9割は言葉にできていない

どの業界でも、今は大量生産した製品やサービスを売り切るのは難しいです。だから、少数の潜在顧客に向けた製品やサービスの開発のためのアイデアを出せなければ、売上を増やすどころか現状維持も厳しくなりつつあります。

本屋大賞の立ち上げに関わった嶋浩一郎さんは、著書の『なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか』で、「どんな仕事においても必要とされるのは、何かを知っている人ではなく、何かを発想できる人」だと述べています。大量生産が厳しい時代では、もっともな意見です。

では、すばらしいアイデアを出すためには、どうすれば良いでしょうか。ネットの急上昇ワードを調べるのも一つの手です。でも、ネットで得られる情報は、他の人も得られる情報であり、誰もが似たようなアイデアしか出せません。嶋さんは、すばらしいアイデアは、日常生活の中で偶然出会う「想定外」の「無駄」な情報だと述べます。そして、想定外の無駄な情報に出会う場が、本屋なのです。

想定外や無駄な情報は、一見、何の役にも立たないように思えますが、自分が求めている情報は、意外と想定外や無駄の中にあるものです。人は、自分の欲望の9割は言語化できていないので、ネット検索に出てくるキーワードは、人々の欲望のほんの一握りでしかありません。最近では、自動的におすすめのキーワードやおすすめの商品が表示される機能が、検索エンジンやネットショップに導入されていますが、これらの情報は、自分の行動履歴を参照していることが多いので、顕在化していない欲望を発見できません。

この顕在化していない欲望、すなわち言語化できていない欲望に気づくことが、すばらしいアイデアを出すために重要なのです。

書棚を眺めると情報がつながる

ネットでは、自分が知っている言葉しか調べることができません。だから、自分が知らないことを調べることには不向きです。

一方、本屋は書棚にたくさんの本が並んでいるので、ちょっと見ただけでも、自分が知らない言葉に出会えます。何冊か手に取ってパラパラとページをめくるだけでも、多くの情報を知ることができます。また、今まで持っていた情報と初めて見た情報が偶然つながることもあります。このような発見は、ネットではそうそうありません。

本屋の書棚は、出版社別、著者別、テーマ別などで本が並べられていますが、中には文脈棚と呼ばれるものもあります。文脈棚は、本の内容を緩やかにリンクさせながら、一つのつながりとして本を並べたものです。この文脈棚を見るだけでも、いろいろと発想することがあるはずです。また、本屋によって扱っている書籍に違いがあるので、いつも同じ本屋に行くのではなく、できるだけ多くの本屋の書棚を眺めるのがおすすめです。

ただ、本屋に行って得られる情報は、大多数が無駄なものです。何か目的をもって本を探すなら、ネット書店の方が便利です。でも、嶋さんは、一見、役に立たない無駄なものを集めている人の方が、いい企画を考えたり、いい仕事をできるものだと語っています。本当に人を豊かにするような発想は、無駄なものも含めて考えるプロセスや思考の回路にあるのだと。

買った本は読まないのもあり

本屋での書籍との出会いは、一期一会なので、面白そうな本を見つけたときは買うべきだと嶋さんは述べています。たとえベストセラーでも、数年後には本屋から姿を消す本は多いものです。お金に余裕があるのなら、買っておきましょう。

また、買った本は全部読む必要もないとのこと。本屋で、ふと思いついたことをメモするような感覚で本を自宅の書棚に並べておけば、他の本と化学反応を起こして新しい発想が生まれるものです。すぐに何かおもしろい発想が浮かばなくても、時間が経てば、良いアイデアが浮かんでくることもあります。

どんな本を買うべきかについては、その人の自由に選べば良いですが、購入の代表的な基準には、「集合知的」「リコメンド的」「自分の嗅覚」があります。

集合知的」は、売上ランキングや他人の評価を参考にする方法です。ネット書店の口コミなどもこれに該当します。

「リコメンド的」は、誰かのおすすめを基準にすることです。新聞の書評、有名人が高く評価していたなどが該当します。

「自分の嗅覚」は、自分の感性で本を選ぶことです。最初は、ハズレを引くことも多いでしょうが、読書を続けているうちにハズレを引く確率は下がってきます。

嶋さんは、本は全部読まなくても良いと述べていますが、併読もすすめています。併読は、一度に何冊もの本を同時に読むことです。併読は、全く関係がないと思われる情報がある時つながって、新たなアイデアに結びつくことがあります。

同時に何冊も読むと、それぞれの本の内容がわかりにくくなると思う人もいるでしょうが、そんなことはないです。僕も、2冊か3冊を同時に読んでいますが、自分の知識レベルを超えた本でなければ内容を理解できます。併読は、連続ドラマを見るような感覚に違いです。月曜日は恋愛ドラマ、火曜日はサスペンスドラマ、水曜日はコメディ、木曜日は刑事ドラマと、毎日のようにドラマを見ていても、それぞれの内容がごちゃ混ぜにならないのと同じです。


インターネットは、自分が知りたい情報をすぐに調べることができます。効率が求められる現代社会では、ネットは重宝する道具です。

嶋さんは、読書は旅と同じだと述べています。旅は想定していなかったことが起こりやすく、その度に自分を成長させてくれます。読書も、読むまではその内容は全くわかりません。時には寄り道をし、無駄な情報を得ることになります。でも、その無駄な経験が人を成長させ、これまで気付かなかった潜在的な欲望の発見につながります。

ネットでばかり情報を得ている人は、たまには本屋に行ってみましょう。きっと、想定外の無駄な体験ができるはずです。